2018.11.08 「下院喪失」トランプ氏に大ブレーキ
民主党は「どん底」から脱出
「決戦」は2年後、大統領選


金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)


 トランプ大統領に対する米国民の最初の審判とされた米中間選挙は、民主党の下院多数派奪回という、予想通りの結果に終わった。これでトランプ氏の「暴走」にブレーキがかかるが、トランプ氏はさっそく「不正投票」があったなどと相変わらず。民主党はトランプ・ショックのどん底からは抜け出て、反撃に取り掛かるだろう。米国に深い分断をもたらした両党の妥協なき対立は、トランプ再選がかかる2年後の「総選挙」(大統領、両院議会の同時選挙)へ向けてさらに激化するに違いない。
 選挙結果を分析する詳しいデータはまだ明らかにされていないが、投票率が50%に迫り、中間選挙では記録的な高率になりそうなこと、その中で候補者でも投票者でも、女性の数がこれも記録的に増え、さらに若者の投票が目立ったという。トランプ大統領の登場に屈辱を味わい、危機感を高めた民主党の「草の根運動」の高まりがこの結果をもたらしたといえるだろう。
 共和党では選挙戦の追い込みで、中南米から米国を目指す難民・移民の大キャラバンをとらえて「脅威」をかき立て、「分断」をさらに深めさせる、といういつものトランプ戦術が支持層を奮い立たせ、敗北を最小限にとどめたと思われる。トランプ氏の世論動員力とこれに応える支持勢力にも衰えは見られない。両者の力関係は揺らぐには至っていない。  

ビジネス疑惑
 米議会の上下両院の権限は、最高裁および高裁判事や行政府高官の人事承認権を上院がもつ以外は変わらない。下院を民主党が握ったことによって、両院の判断にねじれが生じる。下院の各委員会の委員長は民主党が握る。トランプ大統領がなんでもできるという状況にストップがかかることは間違いない。両党の争いに大きな変化を生むことになるだろうが、トランプの「分断」を批判してきた民主党は、これをうまく使う知恵が必要だ。
 民主党が下院多数派を占めることで、大統領弾劾裁判の発議権を得た。弾劾は制度上、大統領を辞めさせる唯一の方法。下院は大統領を上院弾劾裁判所に訴追することができる。トランプ大統領には弾劾につなげ得る疑惑が数多くある。
 2016年大統領選挙でロシアの情報機関がトランプ選対幹部に頻繁に接触し、SNSを使って対立候補クリントン氏に不利な情報を大量に流したとするロシア疑惑は、FBI特別捜査が進展している。ここからいつ何が飛び出すかは分からないが、トランプ氏のビジネスがらみの疑惑は公然の秘密だ。米国では政府高官はその役職をビジネスに利用するこを禁じる法律がある(利益の相反)。就任に際してその資産を公開し、株券や証券類は全て売却を求められ、資産は第三者が運営する基金(blind fund)に預託することが義務づけられている。
 大統領はこうした法律の対象には書き込まれていないが、自主的に対応するという趣旨だとされる。大統領は納税証明書を開示することも慣行になってきた。トランプ氏はこのいずれにも応じていない。巨額の資産を形成してきた不動産業の実務は2人の息子にゆだねたとしているが、ビジネスを統括するトランプ・オーガニゼーション最高責任者のポストは握ったままである。
 ホワイトハウスのすぐそばに持っているホテルは、トランプ政権にかかわりのある米国内外の要人たちでにぎわっている。新聞によく出るのがフロリダにある豪華リゾート「マララーゴ」。安倍首相や習近平中国主席ら外国の首脳を招いて首脳会談の場に使われた。米国憲法は大統領が外国から金品を受け取ってはならないと定められている。民主党系の弁護士たちが、これらは大統領の地位を利用したビジネスにあたり、外国から利益を上げているのではないか-と調査を進めていて、一部はすでに提訴されている。
 民主党下院が弾劾に持ち込むまでには時間がかかる。上院の弾劾裁判所の決定は3分の2の多数に拠るので、共和党が多数を維持している限り、有罪判決は期待できない。しかし、弾劾への動きを進めることによって、トランプ氏が強い制約を受けることは間違いない。

アメリカン・ドリーム
 出口調査では、投票に際して強い関心を抱いたのは移民問題と保健問題だったという。移民受け入れ条件を厳格化し、すでに米国に入っている不法移民は追放するというのがトランプ政策。あの大キャラバンのように「アメリカン・ドリーム」を求めてくる移民によって繁栄してきた米国の在り方を変えることになる。ハイテク時代をリードするGAFAは移民の町、シリコンバレーから生まれたことを知らないとは思えないのだが。
 オバマ大統領が誕生した時、世界は米国民主主義を称賛した。しかし、共和党首脳部は「オバマを再選させないために全力を挙げる」と宣言、オバマ政権の主要な政策を全て阻止することに全力を傾けた。FOXニュースなどの保守系メディアもこれと一体となった。「オバマ氏は米国生まれではない」(大統領にはなれない)、「隠れモスレム」といった「フェイク情報」が執拗に流され、各種の世論調査によれば、共和党員の半数が信じた。このキャンペーンの先頭に立っていたのが、テレビの人気番組を持っていたトランプ氏だった。
 黒人大統領の登場は南北戦争の後も社会の底辺に潜んでいた「人種差別」を引き出すことにもなった。民主党との対決は先鋭化への道を走り出した。共和党では穏健派勢力が締め出され、低学歴が多い白人中心の党へ、民主党は高学歴の少数派白人と非白人(アフリカ系黒人、中南米系、アジア系)の連合体の党へと、それぞれ変形していった。
 PEWリサーチの調査によると、両党の関係は対立から敵対へと進んだ。ある著名な米ジャーナリストは、米国は「内戦(南北戦争)の第Ⅱ幕」に入ったと評している。

生き延びたオバマレガシー
 オバマ大統領が最優先に取り組んだのが国民皆保険制度つくりだった。「小さな政府」を旨とする共和党が絶対反対。何本も骨を抜かれたがなんとか成立はした。それでも「バマケア」と呼ばれて、党派を超えて低所得層に歓迎された。トランプ氏このオバマ・レガシー潰しに取り掛かったが、上院で与党から2人の離反者が出て失敗。共和党は中間選挙で残る数本の骨を抜き取った健保制度への乗り換えを図ったが支持層の支持は得られず、下院を奪われて「オバマケア」は生き残ることになった。
 トランプ氏をホワイトハウスに送り込んだのは、南部の低学歴・低所得の白人とグローバリズムの繁栄からとり残された斜陽産業地帯(ラストベルト)の白人労働者だったとされている。オバマケアで最も恩恵を受ける人たちでもあった。
 選挙戦の最大の焦点は民主党が下院の多数を獲得するか否かにあった。米国では大統領の与党が上下両院の多数を支配することも、逆に野党が両院を抑えることも、決して珍しいことではなかった。それでも米国の議会政治は機能してきた。この3者の間の「チェック・アンド・バランス」が保たれていたからだ。しかし、異常な大統領のもとで上下両院の多数を握る与党が大統領に追随するだけでチェック機能を失った。議会政治の危機である。中間選挙はこの危機を救った。

2020年への2年
 トランプ大統領の次の2年はいかにして再選を確実にするかにすべてをかけることになる。中間選挙の票狙いでは、花火を打ち上げるだけでその結果が後でどうなるかは気にしないで済ませた。北朝鮮の非核化問題はそれだ。20年あまり何の進展も選られなかった問題で、トランプ氏が力ずくの威嚇戦術から一転、「対話」に転進、新しい展望を開く「歴史的大成功」(トランプ)を収めた。選挙の票につながったかは分からないが、真の非核化を実現して朝鮮半島に安定と平和をもたらす道をつけるのはこれからの難問題だ。中国を主敵にした貿易戦争はどこまで突っ込むのか。支持者は喝采を叫んだが、農業や鉄鋼・アルミなど関連業界およびその裾野で物価値上がりが始まっている。いちばん苦しむのはトランプ支持の低所得層である。
 下院を失い予想されるこうした状態の中で、トランプ氏がなにがなんでも再選を狙うとなれば、苦しまぎれの「暴走」に出る可能性が高い。「内戦の第Ⅲ幕」は回避しなければならない。

                (完)
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