2018.12.03 貿易戦争の火は消えず――米中新冷戦は2年目に
新・管見中国(39)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 11月30日、12月1日の2日間、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20(先進20か国・地域)首脳会議の閉幕後に行われた米(トランプ大統領)中(習近平主席)首脳会談はいつにもまして世界の注目を集めた。
 この会談のほんの12日前、パプア・ニューギニアで開かれたAPEC(アジア太平洋地域経済会議)では、習近平、ペンス米副大統領の両氏は会談どころか、互いに相手を議場で公然と批判し合って、そのため恒例の首脳宣言も出せなかったからだ。
 原因は言うまでもなく米中「新冷戦」とまで言われる貿易不均衡をめぐる両国の関税戦争である。
米側の計算によれば、昨年、米の対中貿易赤字は3700憶ドル(米の輸入額5000憶ドル対中国の輸入額1300憶ドル)もの巨額にのぼり、米にとっては耐えられる数字ではないとして、今年7月からまず中国からの輸入品500憶ドル分について25%の制裁関税をかけ、9月には対象を2000憶ドル分拡大し、それには10%の制裁関税をかけている。そして中国側が有効な改善策を実施しない場合は来年1月以降、その分も税率を25%に引き上げるとしている。さらにそれでも事態が改善しない場合はそれをさらに2500憶ドル以上(つまり輸入のほとんど全部に)拡大する方針を明らかにしている。
 一方、中国側も対抗して7月には米と同額の米からの輸入品500憶ドルに25%の関税をかけ、9月には残り800憶ドルのうちの約600憶ドルに米と同様10%の関税をかけている。
 しかもこの間、10月4日には後述するようにペンス副大統領が通商問題だけでなく、軍事・安全保障や先端技術の移転をめぐる摩擦も合わせて強烈な反中国をテーマとする講演を行って、米中対立の広がりと根深さを世界に知らしめた。「米中新冷戦」という言葉が国際政治の新テーゼとして一気に定着した。
 その直後から今回のG20 首脳会議が米中首脳会談のチャンスとして浮かび上がり、対立の延焼をとめる何らかの手立てが講じられるのではないかという期待が広がった。
 トランプ大横領も11月30日の安倍首相との会談後、習近平主席との会談についての記者団の質問に答えて、「何らかの話し合いがまとまれば、それに越したことはない。彼ら(中国側)も同じだと思う。今、ある程度よい兆しがある。それを待とうではないか」とのべた(中国の『環球時報』12月1日)。
 これはその前に米『ウォールストリート・ジャーナル』紙が「米中間に交渉について何らかの協議がまとまる可能性がある」と報じたのを大統領自身が肯定したものと受け止められて、「妥協成立か」との期待を大いに高めた。
 会談の結果は、現在、米側が10%の制裁関税をかけている中国の対米輸出品2000憶ドル分について、税率を来年1月から25%へ引き上げるのを90日間延期することとし、その間に中国側は以下の5項目について米側と協議し合意を得る、というものだ。
 5項目とは(1)米企業への技術移転の強要、(2)知的財産権の保護、(3)非関税障壁、(4)サイバー攻撃、(5)サービスと農業の開放、である。
 この結果はとても燃えさかっている火を消す道が見えたとは言えない。せいぜいのところ、げんに燃えている火に油を注ぐのはお互いやめようというくらいのところである。そして、協議項目として挙げられた5項目も、火のわきに消火器を並べたといったところで、それが消火に役立つかどうかはこれからにかかっている。
 こう見てくると、「新冷戦」の行方はまるで見えない。むしろ首脳会談を開いてもこの程度の話しかできないとすれば、世界はこの戦いはこれからかなりの長期にわたることを覚悟しなければならないように思える。
 しかも「米中新冷戦」と一口に言っても、それは貿易不均衡だけが戦場ではない。戦場はほかにもあり、貿易は比較的深刻さが小さいそのうちの一つにすぎない。むしろ貿易戦争は本格的な戦線が動く前にトランプ大統領がフライング気味に銃口を開き、それを追うようにほかにも火が付いたというのがこれまでの流れである。
 ほかの戦線とは、言うまでもなく、軍事・安全保障面での対立と先端技術をめぐる軋轢である。前者は南シナ海の広大な面積についての中国の領有主張とそこでの軍事基地建設に対して、米が「航行の自由作戦」と称してしばしば艦船を遊弋させたり軍用機を飛ばしたりといった行動に表れている。
 先端技術をめぐる軋轢とは、「華為(ファーウェイ)」と並び称される中国の通信機器製造大手「中興(ZTE)」に対して、この春、米商務省がイラン、北朝鮮に対する制裁措置に違反したとして、米企業に向こう7年間、同社との取引を禁じた事例が典型である。この件は5月、習近平がトランプに電話で救済を懇請し、トランプはことの本質を知ってか知らずか、国内の反対を押し切ってそれを聞き入れ、同社には多額(11憶ドル)の罰金と4憶ドルもの再犯防止のための供託金、さらには米からの役員派遣といった過酷な条件を飲ませながらも、米社との取引を認めて同社は破綻をまぬかれた。
 米の先端技術による部品、素材の供給を受けながら、広大な市場と低コストを武器にIT業界の5G世代における覇権を目指す中国と、それを押しとどめようとする米のこの戦線における対立こそがじつはもっとも深刻ではないか。
 トランプ大統領が中間選挙対策として口火を切った中国の貿易黒字叩きをも組み込んで、対中圧力強化戦線をまとめて整理し、正面から高く掲げたのがペンス副大統領の10月4日の米ハドソン研究所における講演であった。
 この講演は中国を今後、米は主たる対立相手とすることを天下に公言するものであった。なかでも私は講演の台湾に触れた部分に目を引かれた。ちょっと長いが、その部分を引用する。
 「中国共産党は昨年から、中南米三か国に対し、台湾との関係を断ち切り、中国を承認するよう説得しています。これらの行動は台湾海峡の安定を脅かすものであり、米国はこれを非難します。米国政府は、三つの共同声明や台湾関係法に反映されているように、『一つの中国政策』を尊重し続ける一方で、台湾の民主主義への支持は、全中国人にとってよりよい道であると信じています」(「月刊Hanada」2019年1月号277頁)
 この最後の部分をどう読むか。中国国内で中国人がこういう発言をしたら、間違いなく「国家政権転覆陰謀罪」に引っかかる。
 さすがに今回の首脳会談ではこのような剣呑な問題を中国側も持ち出すことはしなかっただろうが、この言葉は米中をとわず出席していた誰の脳裏にも刻み込まれていたはずだ。
 こう見てくると、世界史年表に2018年は「米中新冷戦始まる」と書かれることは確実だが、「米中新冷戦終わる」と書き込まれるのが何年になるのかまるで見当がつかない。

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