2019.01.09  アジアの覇権を賭けて米中冷戦本格化
  貿易摩擦減少しても根源的対決続く

伊藤力司 (ジャーナリスト)

昨年秋ごろから激しくなったニューヨークや東京の株価の激しい動揺は、基本的には世界第1の経済大国であるアメリカと第2の経済大国である中国の間の貿易摩擦が原因である。トランプ米大統領が、アメリカの中国に対する大幅な貿易赤字の解消を目指して仕掛けた関税戦争の行方は不透明であることが、世界中の市場を神経質にしている。

昨年11月末、ブエノスアイレスで開かれたG20首脳会議の場を利用して開かれたトランプ大統領と習近平中国国家主席の首脳会談で、米中双方は本年3月当初まで摩擦解消を目指して協議を行うことで合意した。少なくともこの間は、アメリカも対中関税の追加引き上げは行わないことを約束したのである。

米中実務者間の交渉は新年早々北京で始まった。今後3月まで、関税や米側の巨額貿易赤字を減らすために双方ができる方策について、さまざまな方策が話し合われよう。しかしトランプ政権は貿易不均衡問題をきっかけに、ちょうど40年前に国交が正常化して以来の米中関係を根本的に見直し、中国と対決する道に踏み込もうとしている。

ペンス米副大統領は昨年10月4日ワシントンの保守系シンクタンク「ハドソン研究所」で演説し「邪悪な中国共産党との対決」を米国民に呼びかけた。副大統領は、中国が浸透工作を通じて米内政に介入し、トランプ政権の転覆を図ったとまで告発した。米国内の一部メディアはこのペンス演説をトランプ政権の対中国「宣戦布告」と評したほどだ。

1946年3月、訪米中のチャーチル英首相が「鉄のカーテン演説」をして東西冷戦を予言したが、今回のペンス演説は「米中冷戦」の幕開けを告げたと、ワシントンではもっぱらの話題になった。約2か月後にブエノスアイレスで米中首脳会談があることを知りながらの反中演説だった。

当面の米中摩擦のポイントは、人工知能(AI)や量子コンピューター、5G(次世代通信規格)などの先端技術だとされる。米側の心配は、中国が米企業の知財をこっそり入手して、AIや5Gなど軍事に直結する先端技術の分野で優位に立とうとしているのではないか、ということだという。こうした懸念はトランプ政権だけでなく、広く米国の関係者の間で共有されている。

毛沢東による中国革命が成って、中華人民共和国が成立後今年はちょうど70年。1960年代から70年代にかけての文革による混乱を収拾、1979年に鄧小平が市場経済を導入して40年。人口14億余の中国はアメリカに次ぐ世界第2の経済大国に成長した。毛沢東も鄧小平も、そして現在の指導者習近平国家主席も「中国は覇権を求めない」と世界に向かって宣言している。

その一方で、習近平主席は最近「中華民族の偉大な復興」を叫ぶようになった。中華民族には2200年前の「秦」以来「漢」「唐」「宋」「明」「清」の各帝国が続々、ユーラシア大陸東部に覇を唱えてきた歴史がある。「中華民族の偉大な復興」と聞けば、誰しも中華民族の覇権を思い出さずにはいられない。

一方のアメリカ合衆国である。ちょうど30年前の東西冷戦終結からソ連解体を経て、アメリカは世界で唯一の覇権国家となった。冷戦解消後の30年、ブッシュ(父)、クリントン(2代)、ブッシュ(子、2代)、オバマ(2代)の各政権ではアメリカの覇権行使は「当たり前」のことだったが、現行のトランプ時代に入って少し様子が変わってきた。

アメリカは覇権国家を任ずる以上、世界中に兵隊を派遣し、お金をばらまき、「自由と民主」を唱え続けなければならない。しかしトランプ氏は、アメリカの覇権は当然のものと自認するが、そのためにお金をばらまき、兵隊を派遣し、「自由と民主」のお説教をするのは「ごめん」だというわけだ。

だからシリアから米軍を撤退させるし、アフガニスタンからも撤退させたいというのがトランプ氏の本心だ。新年早々解任されたマティス国防長官ら既成権力層は、アメリカの覇権を護るためにはあちこちのポイントに米軍を派遣しておくことが必要だと考えるのだが、トランプ氏は同意しない。

そのトランプ氏も、習近平主席の中国が「偉大な復興」を叫ぶことによって、少なくともアジア太平洋の覇権争いに参画しつつあることは認めざるを得ない。ソ連崩壊以後、アメリカの覇権に異を唱える国はどこにもいなかったが、第2の経済大国として意気揚がる中国は「無言のうちに」アメリカに覇権争いを挑んでいるのだ。

「お人好し」あるいは「世間知らず」のアメリカは、貧しい中国が豊かになれば共産主義のイデオロギーなどは忘れて、自由、民主の国になるのではないかと楽観視していたという。

しかし中国はマルクス、レーニン、毛沢東の思想はともかく、2千年余にわたって中華帝国を維持してきた歴史がある。そして中国共産党は、アジアの覇権を担ってきた中華帝国の後継者であることを忘れるわけにいかない。
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