2019.01.21 トランプ大統領の強情がアメリカをさらに分断
  メキシコ国境の壁を建設にあくまで固執

伊藤力司 (ジャーナリスト)

アメリカではクリスマスから新年の祝日期間なのに、80万人の国家公務員が給料をもらえず自宅待機に追い込まれた。美術館や国立公園なども昨年12月22日からずっと休業に追い込まれている。外交官の3割程度が働けなくなっているから、重大問題だ。

この原因は言うまでもなく、トランプ大統領が年来の要求であるメキシコ国境での壁建設費用として57億ドル(約6200億円)の予算を要求、1月3日開幕の新議会下院で多数派の民主党は建設費をカットした予算案をホワイトハウスに送ったが、大統領は署名を拒否。連邦予算が成立せず、そのまま膠着状態が続いているわけだ。

歴代の政権と議会の呼吸が合わず、このような予算不成立によって公務員の自宅待機や国立施設の休業はこれまでに何回か起きたが、従来の最長記録22日を超えたのにホワイトハウスと下院民主党の間の話し合いが進まない、つまりトランプ氏が壁建設費の予算化を強情に要求していることにある。

アメリカとメキシコの国境は何と3000キロもある。ざっと北海道の宗谷岬から沖縄の宮古島までの距離だ。この国境線の全てに壁を建てるわけではなく、メキシコから米カリフォルニア州に入りやすいポイントに壁を建設して不法移民をシャットアウトするというのが、トランプ氏の執念である。

これまでにもメキシコ国境を経由して、中南米諸国からの非合法移民がアメリカに入り込んできた歴史は古い。命からがらアメリカに入国した貧しい移民たちは、アメリカで安い労働力として活用されてきた。これまで移民の国境通過がそれほどやかましくなかったのは、アメリカの農場経営者や企業経営者たちが移民という名の安い労働力を欲しがったからである。

トランプ氏は自分の支持者である貧しい白人労働者層が、賃金の安い移民労働者に職を奪われていると見て、不法移民の入国阻止に本格的に取り組み、白人労働者層に売り込もうとしているわけだ。だからこそ年来の公約である壁の建設を放棄するわけには行かないのだ。

クリスマスから新年の休暇期間、トランプ氏の家族は暖かいフロリダ州の別荘に滞在したが大統領自身はホワイトハウスに立てこもって、議会との折衝を続けた。トランプ氏本人はフロリダに行けなかったことを残念がったが、彼にしてみれば休暇より壁の建設のために汗をかいたことを支持者層に訴えたかったのだろう。

昨年11月の中間選挙後、トランプ氏の支持率は全体で40%前後だが、共和党支持層だけに絞ると85%を超えた。中間選挙を通じてトランプ氏が、上下両院と州知事選の共和党候補者を応援する精力的キャンペーンをしたことで、共和党内でのトランプ評が上がったといわれる。

1月中旬に行われた『米公共ラジオ』NPRによる最新の世論調査によると、トランプ支持率は前月より3ポイント低下して39%、共和党支持層でも7ポイント低下して83%という数字が出ている。共和党支持層からも、政府閉鎖の早期解除を望む声が上がり始めていると見るべきだろう。

トランプ大統領は1月19日、ホワイトハウスで演説し、あらためて壁建設の必要性を訴えた。その上で、幼少期に親と不法入国した若者の強制送還を猶予する制度「DACA」を今後3年間延長する新方針を打ち出した。

これは不法移民問題に関する一定の柔軟性を示して、民主党に翻意を促そうとする試みであろう。しかし問題のカギを握る下院民主党が壁建設に同意する気配は見えない。与党共和党が下院の多数派を占めていた過去2年間にも通せなかった壁予算を、野党多数の現下院で通すことは常識ではありえない。(了)
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