2019.03.29 京都大学学生寄宿舎「吉田寮」をめぐる存廃問題の経緯と今後の行方について(7)
「100年プロジェクト」公開審査は大きな反響を呼んだ
                 
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 2018年9月23日、吉田南キャンパス(旧教養部構内)の人間環境研究科大講義室で開催された公開審査会(意見交換会)には150人を超える関係者や市民が詰めかけ、メディア各社の注目の中で発表が始まった。大講義室前のロビーでは午前中からすでにポスターセッション(応募者自らが提案作品を解説)が始まっており、地元京都はもとより関東や東海地方からも多くの応募者が駆け付けて熱弁をふるった。応募作品は僅か2カ月余りの応募期間にもかかわらず、再生デザイン部門13、継承プログラム部門13、計26案が寄せられた。

 コメンテーター17名(うち4名欠席)の顔ぶれも多彩だった。尾池和夫元京大総長が代表して挨拶され、建築史(石田潤一郎京都工繊大名誉教授、大場修京都府大教授、中嶋節子京大教授)、建築計画・デザイン(高田光雄京大名誉教授、建築家山根芳洋)、建築構造・施工・材料(西澤英和関大教授、荒木正旦工務店会長、岩井清木材アドバイザー)、まちづくり(ウスビ・サコ京都精華大学長、コンサルタント魚谷繁礼・大島祥子、ディレクター馬場正尊)、市民代表(写真家谷口菜穂子、店主小田研太郎、元寮生笠木丈)など各分野の専門家と市民が多数参加した。私もその一員だった。

 通常のコンぺでは最優秀作、優秀作といったランク付けがされるが、今回は多様な角度からの提案を尊重するため、コメンテーターと会場参加者がシールを付けて「注目作品」を各々3点ずつ選ぶことになった。再生デザイン部門では鎌倉で設計事務所を開いている細入夏加氏の作品が、継承プログラム部門では元寮生の中尾芳治氏の提案がそれぞれ最高得点を獲得した。応募作品は甲乙付け難いレベルのものが多く選択に迷った。しかし、共通するのは吉田寮に対する強い思い入れであり、そういう気持ちを持った人たちだからこそ難しい課題に挑戦したと言える。提案者の自己紹介にも熱い動機が語られており、その幾つかを紹介しよう。

 「46歳のおばさんです。同潤会やコルビジェのユニテ(こちらは滞在)が好き。もちろん、吉田寮のすべてが好き。大学生の方の親御さんと同じぐらいの年齢かしら。今回は『おかあさん』の立場からのアイデアを出し、『吉田寮Love人』を増やしたい。『え、それだけですかい?』的な様々な妄想アイデアをざっくり提案させて頂ければと思います」
 「都内在住。ケーブルTV、司会、ナレーター業に携わっています。暮らしが伝わる明治大正昭和の木造建築が好きで魅力古物件巡りをしています。吉田寮には2回訪問。100歳を超え現役の吉田寮を是非存続させてほしい」
 「建築計画・設計、作庭、まちづくりを専門とする有志のグループです。吉田寮に息づく人間と動物、建築と自然が共存する文化を未来に受け継いでいくための提案を行いました」
 「1956~59年の3年間、吉田寮に在寮した元寮生。大阪市難波宮跡の調査や保存運動、環境整備事業に従事。吉田寮を建築文化財として保存するとともに学生寮として再生させることを願っている」
  「1999年京大合唱団(吉田寮隣の学生集会所)入団。2002年設計課題で吉田寮実測(西澤英和先生指導)。2003年荒木正旦棟梁へのインタビューを卒論に。大学院では木構造を専門に研究し、現在は主に木造住宅の設計の仕事をしています」

 コメンテーターの講評も多彩だった。全員の分は書ききれないので、メモにあるだけでも紹介したい。
 「木造建築は済み続けることが大事。伝統的工法の木造建築は何百年でも保つ(工務店会長)」
 「吉田寮のケヤキの階段やマツの廊下がすばらしい。こんな材料は今どき残っていない。吉田寮に使われている木材の魅力を伝えたい(木材アドバイザー)」
 「文化財保存の要諦は介入を少なくして効果を大きくすることにある。そんな提案を選んだ(建築史研究者)」
 「スクラップ・アンド・ビルドという戦後建築思想の悪循環から逃れるためには、安全と文化の問題を衝突させるのではなく、同じ方向に向かわせなければならない。吉田寮と地域の関係は開けっ放しでもなく閉めっ放しでもない関係が大切だ(建築計画研究者)」
 「実務・技術目線でみると、防火壁が耐震も兼ねて外見を損ねないようなエレガントな案もあった。最近は法や制度も古い建築物を守れるように変わってきている。大学は率先して保存をしてほしいし、寮生は寮を経営するくらいの気合いが必要だ(まちづくり専門家)」

 最後に全体講評を述べられた尾池元総長の発言が印象的で、会場参加者を元気づけた。
 「吉田寮を無くすとはまだ誰も言っていないので期待をもって議論したらいい。京大の時計台は熱心に守られるが、それより古い吉田寮に現役教員が注目せず無関心なのが不思議だ。木造建築の保全が環境面からも自分の関心事なので、これからも注目していきたい」

 尾池元総長は、今年に入っても活発な発言を続けている。尾池氏は、毎日新聞の大型インタビュー、『論点 平成の軌跡、大学改革』(2019年2月8日)において平成の大学改革を振り返り、日本の高等教育予算が極めて少ないことを批判した上で次のように指摘する。
 「京大では、日本最古の現役学生自治寮である吉田寮で寮生と立ち退きを求める大学側が対立中だ。これも、実態を変えずに残すすべはある。大学経営にかかわる財界の方も、大学側がリーダーシップを発揮して説明すれば、自治寮の意義を認めるはずだ」

 こうした大学内外の動きを当局はどう捉えているのか。次回は、吉田寮をめぐる内外情勢を俯瞰してまとめにしよう。(つづく)


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