2019.04.17 スポーツ選手の体調と精神状態

盛田常夫 (経済学者、在ハンガリー)

高地トレーニングに問題ないか
 池江璃花子選手が白血病を患っているというニュースに衝撃を覚えた。前途ある若い選手が病魔に襲われたことに言葉もない。
 このニュースを聞いてすぐに思ったことは、高地トレーニングの影響である。日本水泳連盟は定期的に高地トレーニング合宿を行っているが、頻繁な高地トレーニングが10代の若い選手の体に与える影響について、医学的な調査や研究が行われているのだろうか。選手個人によって影響は異なるだろうが、意図的かつ一時的に赤血球を増やすことを繰り返すことに健康上の問題はないのだろうか。水泳連盟は専門医グループとの共同調査を行い、健康への影響を見極めるべきだろう。
 同じことは、萩野公介選手についても言える。萩野選手については、精神的な問題を指摘する人もいるし、「イップス」のような状態だと指摘する人もいるが、ベストにほど遠い状態を見れば、たんなる精神的なものではないと考えられる。血液検査で問題が見つからないから精神的なものだというのは早すぎる。もっと精密な検査で体全体の状態をチェックすべきではないだろうか。どこかに問題があるはずである。
 スポーツ連盟は選手の健康状態チェックの頻度を上げて、選手の体の状態を常時把握している必要がある。とくに、肉体を限界まで追い込む練習を繰り返している水泳、自転車、陸上中長距離の選手の場合には、定期的な検査を行う必要がある。いかに自然環境を利用するとはいえ、人為的に赤血球増加のトレーニングを組み入れれば、耐久力が増すというメリットだけでなく、体調変化によるデメリットがどこかに生じるはずである。記録も大切だが、選手の健康は何よりも優先されなければならない。選手生活を終えた後、日常生活に不都合を生じるような健康状態に陥ってはならない。
 自転車競技ではドーピング問題が常に指摘されているが、薬物や血液を使ったドーピングだけが問題だとは思われない。繰り返される高地トレーニングもまた、自然環境を利用する一種のドーピングではないだろうか。各スポーツ連盟は、ドーピングに認定されないから高地トレーニングを繰り返しても良いという姿勢ではなく、選手の健康にどのような影響を与えるのか、多くの専門医や研究者を巻き込んで多面的に検討すべきではないか。

肉体的な状態がメンタルを支える
 スポーツ選手に限らず、一般人の生活においても、メンタル状態を決めるのは基本的にフィジカルな状態である。いくらメンタル面が強くても、フィジカル面に問題があれば、精神的な克服には限度がある。
 テニスの錦織選手は全豪以後の大きな大会での早期敗退が続いた。一見して、勝負への集中力や執着力が弱くなっていると感じるが、しかしそれはたんにメンタルなものではないと思う。
 現在の世界のテニス界は30歳を超えたビッグスリーと20歳前後の若い選手との世代交代の闘いになっている。急速に力を伸ばしている若い選手のほとんどは体が大きく、190cmを超える長身から放つサーヴィスは平均時速で200キロを超える。一昔前の大柄な選手は、サーヴィス力はあっても、ストロークに難のある選手がほとんどだった。ところが、現在台頭している若い選手は皆、サーヴィスも良ければストロークも良い。簡単にストロークミスをしない。
 この若手選手の台頭が錦織選手を苦しめている。相手のストロークをはるかに凌駕するストローク力が錦織選手のランキングを支えてきた。ところが、ここにきて若い選手のストローク力が予想以上に良いので、以前のように錦織選手が簡単に優位性を発揮することができなくなっている。他方、若い選手のサーヴィス力は一流だが、錦織選手のサーヴィス力は三流である。若い選手のサーヴィス平均時速が200キロを超えるのにたいし、錦織選手のファーストサーヴィスの平均時速は175キロ前後である。女子の大阪なおみ選手とほぼ同じである。ランキングが低い選手相手でも、このスピードでは苦しい闘いが続く。小さなトーナメントでも、息が抜けない試合が続く。錦織選手のトーナメント早期敗退は予想の範囲内にある。
 全豪オープン4回戦、対カレーニョ・ブスタ選手との試合はスリリングなゲームとして楽しめたが、錦織選手にとってたいへん疲れる試合だった。試合が5時間にもなった主要な原因は、自らのサーヴィスゲームでセットを締めるべき所で、締めきれなかったところにある。こんな長時間の試合の後に、ジョコヴィッチ選手と試合ができるわけもなく、途中棄権になった。サーヴィススピードを時速10キロアップできれば、要所を締めて、試合時間を短縮できる。錦織選手にもう少しだけサーヴィス力があれば、カレーニョ・ブスタ戦は3時間以内で終わっていた。サーヴィス力のなさが、2時間の余計な闘いを強いた。グランドスラム大会は決勝まで7試合あるから、このような試合を続ける限り、決勝進出はほど遠い。マスターズ1000のタイトルがないのも、サーヴィス力の不足が原因である。
 もちろん、錦織選手はサーヴィス力の向上に努力しているはずだが、ファーストサーヴィスの速度に変化は見られない。以前に比べて、センカンドサーヴィスの速度が時速で10キロほど上がっているが。遅いファーストサーヴィスをチェンジアップのように使い、コーナーから外に逃げるコントロールの効いたサーヴィスで勝負することが増えたが、スピードがなければ、ゲームが進む毎にチェンジアップが見抜かれて簡単に叩かれる。
 錦織選手には、サーヴスピードを少なくとも時速10キロ上げることを可能にしてくれるコーチが必要だ。この課題にチャン・コーチはまったく不適任である。錦織選手は適切なアドヴァイスを与えてくれるコーチを選ぶべきだ。それをしないのは、最初から速度を上げることを諦めているか、自らの課題の捉え方が間違っているか、それとも有能な若手の台頭に向上心を失ったかのどちらかである。

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