2019.05.10  記憶せよ
   韓国通信NO597
 
小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

4年前栃木県益子にオープンした陶板美術館朝露館は、陶芸家・関谷興仁さんが大切にしている言葉と出来事を陶板作品にして展示している。<美術館については、Hp http://chorogan.org/をご覧ください>
素材の粘土づくりから始まり、字を彫る細かく気の遠くなるような作業は、「記憶せよ」と自分の心に刻む魂の日々だった。膨大な作品ひとつひとつから、ひたむきな強い意志が立ちのぼる。

関谷さんの初期の作品に韓国の済州島4.3事件を扱った作品群がある。
済州島4.3事件とは、1948年に済州島で起きた虐殺事件。米軍政下にあった韓国政府が単独での制憲国会議員選挙の実施を決めたことから、南北統一による国家の樹立を求める島民がほう起し、軍・右翼集団などがこの鎮圧にあたり、数万人の島民が犠牲になったとされる。
関谷さんは、金明稙の詩を作品化した。詩のなかの「朝露(あさつゆ)」ということばが「朝露館(ちょうろかん)」命名の由来となった。日本からの解放後、島民たちを待ちうけた米軍と軍隊と右翼集団によって繰り広げられた残虐非道に、関谷さんは「心を締め付けられ、涙した」。済州島4.3事件が、陶板作家として活動を始めた記念碑的作品となった。

関谷さんの仕事は、済州島4.3事件をテーマに小説を書き続けた韓国の小説家、玄基栄(ヒョン・ギヨン)氏(79)の仕事と重なる。小説『順伊おばさん』で日本でも知られる玄基栄氏は、島民を見舞った悲劇を、発禁処分、逮捕にも屈することなく発表し続け、自らの創作活動を「記憶運動」と表現した。

玄基栄氏は「第3回済州4・3平和賞(済州島.4.3虐殺事件の真相解明・名誉回復事業から始まった国際平和賞)」を受賞、去る4月1日行われた授賞式で語った。
「記憶運動は冷戦勢力の大衆操作と大衆の無関心に対抗することです。4・3の真実を守るためには、絶えず振り返る再記憶の努力が必要です。言説や証言、証拠が絶えず喚起されなければなりません。これこそ忘却行為に抵抗する記憶運動です」
関谷さんと玄基栄氏はともに「記憶」と格闘した。

20190501マルセ太郎
在日舞台俳優マルセ太郎が記憶喪失に陥っている日本人を批判して、「記憶は弱者にあり」と語ったことを思いだす。弱者としての自覚がない人間は過去を忘れる。戦争の記憶が鮮明だった日本人は平和憲法を受け入れたが、教育と経済繁栄の中で戦争の記憶は「消された」。
あらためて朝露館の陶板作品を見る。チェルノブィリ、アウシュヴィッツ、ヒロシマ・ナガサキ、中国人強制連行、フクシマ、マレーシア、千鳥ヶ淵。どれも喪失した記憶を蘇えらせるものばかりだ。それらは「忘れさせよう」とする大衆操作と、無関心に逃げ込もうとする人々に対抗するものだ。朝露館は過去を振り返り、記憶を取り戻す努力を求め、言説や証言、証拠が喚起される場所だ。

戦争をしたがる人たちは、戦争の記憶を失わせようとする。8年前の福島原発事故でさえ、忘れさせようとしている。安倍首相と麻生財務相のウソも記憶から薄れていく。そうさせる火消し役を務めるNHK。「過去に引きずられるな」という「前向き」な言葉で過去を「忘れる」。元号騒ぎと天皇の交代とオリンピックの話題で未来は明るそうな雰囲気だが、マルセ太郎は、日本の将来は「暗い」と予言した。過去に「こだわる」必要はない。過去を直視することだ。権力者たちに都合の悪いことを忘れさせる<忘却行為>に抵抗する記憶運動が求められている。
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