2019.05.28 米中貿易摩擦で世界の景気不安
  底流に米中の覇権争い (続)

伊藤力司 (ジャーナリスト)

毛沢東による中国革命が成って、中華人民共和国が成立後今年はちょうど70年。1960年代から70年代にかけての文革による混乱を収拾、1979年に鄧小平が市場経済を導入して40年。人口14億余の中国はアメリカに次ぐ世界第2の経済大国に成長した。この間、毛沢東も鄧小平も、そして現在の指導者習近平国家主席も「中国は覇権を求めない」と世界に向かって宣言している。

その一方で、習近平主席は最近「中華民族の偉大な復興」を叫ぶようになった。中華民族には2200年前の「秦」以来「漢」「唐」「宋」「明」「清」の各帝国が続々、ユーラシア大陸東部に覇を唱えてきた歴史がある。「中華民族の偉大な復興」と聞けば、誰しも中華民族の覇権を思い出さずにはいられない。

一方のアメリカ合衆国である。ちょうど30年前の東西冷戦終結からソ連解体を経て、アメリカは世界で唯一の覇権国家となった。冷戦解消後の30年、ブッシュ(父)、クリントン(2代)、ブッシュ(子、2代)、オバマ(2代)の各政権ではアメリカの覇権行使は「当たり前」のことだったが、現行のトランプ時代に入って少し様子が変わってきた。

アメリカは覇権国家を任ずる以上、世界中に兵隊を派遣し、お金をばらまき、「自由と民主」を唱え続けなければならない。しかしトランプ氏は、アメリカの覇権は当然のものと自認するが、そのためにお金をばらまき、兵隊を派遣し、「自由と民主」のお説教をするのは「ご免だ」というのだ。

だからシリアから米軍を撤退させるし、アフガニスタンからも撤退させたいというのがトランプ氏の本心だ。新年早々解任されたマティス国防長官ら既成権力層は、アメリカの覇権を護るためにはあちこちのポイントに米軍を派遣しておくことが必要だと考えるのだが、トランプ氏は同意しない。

そのトランプ氏も、習近平主席の中国が「偉大な復興」を叫ぶことによって、少なくともアジア太平洋の覇権争いに参画しつつあることは認めざるを得ない。ソ連崩壊以後、アメリカの覇権に異を唱える国はどこにもいなかったが、第2の経済大国として意気揚がる中国は「無言のうちに」アメリカに覇権争いを挑んでいるのだ。

「お人好し」あるいは「世間知らず」のアメリカは、貧しい中国が豊かになれば共産主義のイデオロギーなどは忘れて、自由、民主の国になるのではないかと楽観視していたという。


しかし中国はマルクス、レーニン、毛沢東の思想はともかく、2千年余にわたって中華帝国を維持してきた歴史がある。そして中国共産党は、アジアの覇権を担ってきた中華帝国の後継者であることを忘れるわけにいかない。
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