2019.07.13 最大限の交渉だけがイランとの戦争を防げる
(2019年7月8日付けニューヨーク・タイムズ掲載の署名寄稿)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 米国内でも、トランプ政権によるイランとの戦争を避けるために、多くの人々が発言、努力を続けている。ここでは7月8日付けニューヨーク・タイムズ掲載の、ノーベル平和賞受賞女性二人の共同署名寄稿を全文紹介しますー

ノーベル平和賞受賞者のイラン、米国女性の発言
 イランは経済制裁の解除、米国はイランが核兵器を取得しない保証を求めている。いまこそ、話し合いの時だ(全文)

シリン・エバーディ(イラン人、自国での人権活動で2003年受賞)
ジョデイ・ウイリアムス(米国人、対人地雷禁止運動で1997年受賞)

 7月7日、イランは、ウラン濃縮の制限ー原子力発電のために必要な3.67%のウラン濃縮―を破ったと発表した。その制限は、2015年にイランと米国はじめ主要国の交渉合意で詳細に取り決めたこと。イランは、その制限を超えると警告していた。
 ロウハニ・イラン大統領は3日、「イランは必要なレベルの」ウラン濃縮をすると述べた。これに対しトランプ米政権は、イランが「核への野心と悪意ある行動を放棄するまで、厳しい経済制裁で“最大限の圧力”をかけ続ける」と応じた。
 私たちは、平和を求めて人生を捧げてきた米国とイランの市民として、われわれの国家が緊張を高めていることに、深く懸念している。
 トランプ政権の最大限の圧力政策は、私たちをペルシャ湾地域での新たな軍事紛争の瀬戸際に押しやり、さらに戦火を拡大した。テヘランは、核兵器の生産まではるか遠い所にいるが、ワシントンとの合意の失敗が、その核計画をもっと積極的に進める圧力になるかもしれない。これが、世界での危険な先行者とともに、無制限な核兵器拡散を導く可能性もある。
 ワシントンとテヘランは直ちに、核合意の他の署名国の支持の下に、双方の合意条項の原案作成開始をはじめ、できる限りの外交努力で事態の鎮静化に努めなければならない。
 イランは経済制裁の解除を望んでいる。米国は最低限、イランが核兵器を取得しない保証を求めている。米国とイランが互いの懸念に対応する合意に責任を持つことが必要だ。
 ロウハニ大統領は3日、テヘランの対応が全面的に取り消し可能であることを明確にして「われわれの行動は、一時間以内に以前の状態に戻ることが可能である」と明言した。彼の発言は、交渉を望んでいることを示している。
 この開け広げな提案は、紛争解決に異例な機会をもたらすもので、直ちに専門家と賢明な外交折衝によって対応する価値がある。米国は対話に応じることによって報いることができる。(注:米国のイランに対する)最大限の圧力政策は、イラク、イエメン、シリアでの、イランのより大きな“悪行”を導くだけだ。
 やり過ぎは危険であり、いまは用心深い対応が必要だ。イランが核合意を順守するための60日間の最終期限が7日に切れ、他の合意調印国―中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国―は、核合意を尊重したが、米国は拒否した。イランはこれ以上、最終期限を延長しなかった。
 イラン内部では、米国との関係悪化が、人権擁護勢力をテロリスト、裏切り者とするイラン当局の姿勢を強めさせている。
 テヘランはすでに、人権弁護士のナスリン・ソトウデに対し、不公平な裁判で38年半の投獄、むち打ち148の判決を下した。人権擁護センター副総裁のナルゲス・モハンマディに対しては、イランでは先進的な人権擁護活動に21年の投獄を判決した。 
 これらの活動家たちは、人権尊重を要求する活動への抑圧に耐え続けてきた。米国との緊張が強まるなか、テヘランは人権擁護活動家たちへの締め付けを強化し、米国との共謀、“西側の理想”を称賛することへの当局の対応が柔軟になるとは見通せない。
 軍事紛争は、自由と民主主義への戦いを危険にするだけでなく、すでに米国の制裁で締め付けされているイラン経済へさらに打撃を与えるだろう。
 イラン人は制裁の再開後、通貨が60%下落し、失業の増加と生活費の上昇に大きな影響を受けている。食料価格は急騰し、一般国民は肉と野菜の代金を払いきれない。一方、支配権力に近い人たちは、制裁によってより盛んになった腐敗によって利益を得ている。
 イランの国境の外では、米・イラン紛争はイスラエル、イラク、サウジアラビア、イエメン、シリアを巻き込み、すでに分極化しているペルシャ湾地域をより危険な方向に引き離しつつある。
 この地域のすべての国の中でも、最も過酷な人道危機のイエメンは、イランが支援するフーチ勢力とサウジアラビアとアメリカが支援する勢力との戦闘が続いている。米国・イラン紛争の緊張の高まりは、イエメンの和平プロセスを危なくし、紅海沿岸の港の使用とイエメンへの支援物資搬入改善に悪影響しかねない。
 アメリカ国民にとっても紛争のコストは高い。何年もイランは、自国の自衛戦略の中で、中東の米軍を攻撃する用意を整えてきた。テヘランは鋭敏で,精巧なミサイル部隊を保有し、その戦力は、この地域での米国とその同盟国の利益に挑戦するだけの装備を備えている。戦争になれば、イラン、イエメン、そして米国の一般市民たち、多くの女性と子供たちは、避けられるはずの最高の代価を支払うことになるのだ。
 いまこそ、ワシントンとテヘランに正気をとりもどさせ、非軍人中心の最大限の外交アプローチで、われわれ関係諸国の間のもろい平衡を護るべきときだ。この地域での平和への呼びかけは決して強くはなく、その成功確率は決して高くはないのだが。(了)


       
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