2019.08.01 再び徴用工問題を考える
韓国通信NO609

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 最悪の状態といわれる日韓関係。マスコミは、改善の出口が見えない、解決策がないとまで報じる。無責任な野次馬報道、政府主張の垂れ流し、お先棒を担ぐ新聞・テレビには本当に腹が立つ。彼らには解決策が見えないのは当然だ。あらためて問題点を考えてみた。

<アメリカに仲裁を期待する愚かさ>
 韓国にアメリカの仲裁を期待する向きがある。アメリカの舎弟(しゃてい)」を自認する日本がアメリカの仲裁なら受け入れると考えるのはわかる気がするが、アメリカの利益を優先する仲裁は将来に禍根を残すだけだ。日韓関係はこれまでアメリカによって歪められてきた歴史がある。当事国が真摯に向き合うことなしに真の解決は望めない。

<平和主義、協調主義をかなぐり捨てた安倍内閣>
 韓国を力で屈服しようとする安倍内閣の姿勢は、傲慢な差別主義者トランプ米大統領とそっくりだ。「戦後体制からの脱却」を目指す安倍政治の脱平和主義、脱協調主義は、「戦争法」の制定と同じく憲法改悪の先取り、憲法の蹂躙にほかならない。
 仮想敵を作りだしてナショナリズムの風を吹かすのは世界的風潮だが、アメリカを筆頭に経済的行き詰まりの兆候でもある。安倍内閣の「強がり」と「弱者切り捨て」政策は遠からず破綻する。国会の議席数では盤石に見えるが、庶民の不満は渦巻き、政権基盤は揺らぎ始めている。

<日本は正しい、韓国は間違っているという「決めつけ」>
 安倍政権に期待はしないが支持する人がかなり多いらしい。トランプ大統領を支持する現象に似ている。背信を山のように築いた政権を支持し続けるのは信じられないが、今回の参院選で不信感が広がっていることは立証された。自民党への支持者は有権者の20%前後だ。
 困った時の「隣国恃(たの)み」とはよく言ったものだ。人気落ち目の挽回策に隣国とことさら事を構える。古今東西、古典的な国民の支持誘導策だ。特に、オリンピックを来年に控え、「ガンバレ ニッポン」の「ノリ」で、対決ムードが軽く受け入れやすくなっているのかも知れない。 
 しかし、韓国との関係はスポーツの世界ではない。政府が撒いた不信の種が様々な民間交流に影響を及ぼし始め、政府のお墨付きを得たとばかりに憎悪(ヘイト)を声高に主張する勢力が勢いづいている。何が何でも、「韓国は間違っている」。「だから嫌い」という声が広がり始めている。
 首相とその取り巻き連中に共通する感情的な露骨な「決めつけ」。駐日韓国大使に「無礼」と発言してヒンシュクを買った河野外相の傍若無人ぶり。本当に恥ずかしい。

 問題の発端として1910年の日韓併合、1965年の日韓条約まで遡る必要があるが、ここでは、韓国大法院(最高裁)が2018年10月に新日鉄住金に賠償命令、続いて不二越、三菱重工にも同様の判決が続いたことから始めたい。
 日本政府は日韓請求権協定によって「すべて解決ずみ」と判決の無効と撤回を主張した。口を開けば「解決ずみ」という政府の主張が繰り返された結果、企業の加害責任が忘れ去られ、加害企業が被害者であるような理解が生まれた。日本政府は居丈高に「すべて解決ずみ」という姿勢から一歩もでない。
 オウム返しのように繰り返される政府の「見解」は正しいのか。政府を批判する法律家、学者たちの意見は発表の場すらない異常な状況が続いている。「すべて解決ずみ」への疑問を「韓国通信」NO576、NO585、NO596でも取り上げた。それほど難しい話ではないが、一般のマスコミも政府見解を前提にした状況が続いている。責任を問われた日本企業の前に政府が立ちはだかり、国益ばかりを主張する異常さに気づいてもらえるとうれしい。

<円満解決のチャンスを壊した安倍政権が押した「横車」>
 ◇日本は韓国最高裁判決の撤回を韓国政府に求めた。三権分立の韓国では行政府が最高裁判決の撤回を求めることは出来ない。かつてアメリカの圧力で「伊達判決」を最高裁で葬ったことのある日本は、アメリカ気取りで韓国に撤回を求めた。
 ◇「解決ずみ」と日本は主張するが、日本政府の公式的見解「国家間の請求権の問題は完全に消滅したが、個人の請求権は消滅していない」と矛盾する。(1991年8月27日参議院予算委員会)。国家間で解決ずみでも個人の請求権は、国際的にも認められた権利だ。
 さらに日本の最高裁でも請求権を認めている。中国人が強制連行による被害の賠償を求めた西松建設事件では請求権にもとづき和解による実質的賠償が行われた。花岡事件でも鹿島建設と和解による解決が行われた。今回の日本政府の介入で解決のチャンスが失われたことになる。原告側の強制執行に大騒ぎするが、そこまで追い込んだ責任は日本政府にある。政治献金の見返りに政府が加害企業をかばった疑いもある。加害企業の釈明は何も無い。

<日韓条約・請求権協定から問われる歴史認識>
 政府は締結済みの日韓条約・日韓請求権協定を主張するが、条約・協定について、今回あらためて慰安婦問題、徴用工問題等の諸問題点が明らかになった。「未来志向」の観点からも日韓正常化のために再検討が必要だ。
 日韓条約の合計5億ドルの経済協力金は賠償ではない。資金の使途は「経済の発展に供する」ものと定められた。植民地支配への謝罪を回避するために「経済協力」。個人が補償を求めると、「経済協力金」で賠償ずみというのは矛盾している。損害賠償と経済協力の都合の良い使いまわし。 
 日韓正常化交渉を振り返る。予備会談(1951)から始まり締結まで15年かかった。この間の交渉は侵略を正当化する日本側の発言で度々中断された。日本の侵略の歴史を「鉄道を敷いた」「学校を建てた」「経済発展に貢献した」などと侵略と搾取を正当化し続けた。それでも締結に至ったのはアメリカが締結を急がせたこと。朝鮮戦争によって荒廃した国土再建を急ぐ朴正煕軍事政権と日本政府の政治決着によるものだった。それは締結当時から韓国国民に屈辱的なものだった。
 「経済協力金」で韓国が奇跡的な経済発展をとげたのは事実だが、日本には植民地支配に対する旧態依然とした歴史認識が反省も無いままに残った。

 韓国・北朝鮮に対しては、何を云っても、何をしても構わないといった尊大ぶり。徴用工問題から火が噴いた輸出制限という「経済制裁」からも明らかだ。相手の主張は認めず、韓国・北朝鮮に対しては、何を言っても、何をしても構わないといった尊大ぶり。徴用工問題に目を向けようとしない政府の姿勢からは、かつて朝鮮・中国へ侵略を進めた驕りの気分さえ感じさせる。日韓条約にもとづく仲裁委員会の設置に韓国が応じなかったという非難も姑息だ。仲裁委員会で解決する見通しは皆無である。時間稼ぎをして韓国が悲鳴をあげるのを待つ狙いだ。韓国側の怒りを知ろうともせずに、「明らかに国際法違反」などと外務大臣が居丈高に口走る姿は理解に苦しむ。
 問われているのは日本か韓国か。歩み寄るべきはどちらなのか。

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