2019.08.14 野党共闘はオールマイティか
2019年参院選を顧みて(1)

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

2019年参院選が終わった。既に多くの解説や論評が出ているので改めて繰り返さないが、私の関心事はとりわけ野党共闘の成果が野党勢力の伸長にどう反映したかを分析することにある。注目点は、第1が投票率が50%を割ったこと、第2が護憲勢力が相対的に後退し、なかでも左派勢力の中心である共産と社民が大量票を失ったこと、第3が1人区において野党統一候補が善戦し改憲勢力3分の2を阻止したものの野党勢力の伸長には繋がっていないことである。

今回参院選の注目点の第1は、投票率が「議会制民主主義の危機」といわれる50%を割り込み、有権者の過半数が棄権したことである。前回2016年参院選の投票率54.7%から48.6%(▲6.1ポイント)となり、戦後2番目の低投票率に落ち込んだ。投票率50%割れは29府県に及び、大都市部、地方部ともに低下した。投票率分布(カッコ内は前回参院選)は、30%台1県(0)、40%台28府県(4県)、50%台17都道県(39都道府県)、60%台1県(4県)である。18~19歳投票率は今回さらに低下した。前回46.9%から31.3%(▲15.6ポイント)に大幅低下し、ティーンエージャーは3分の1しか投票していない。

投票率低下の原因については、政治不信、安倍政権に対する絶望感、無関心層の広がりなど様々な見方がある。私は「1億総バカ現象」とまでは言いたくないが、かなり深刻な「政治劣化現象」が国民の間に広がっているのではないかと懸念している。トランプ大統領の移民排斥や人種差別発言がアメリカ国民の分断を助長し、ヘイトクライムを増大させているように、安倍首相のウソつき政治の浸透が国民の倫理観を麻痺させ、政治不信を掻き立て、議会制民主主義に対する関心や責任感を奪っていると思うからだ。その結果が投票率の低下となってあらわれたのだろう。

第2は、投票率の低下によって全体得票数(比例代表得票数、諸派、無所属を含む)は5601万票から5007万票へ減少し、▲594万票(▲10.6%)となったが、改憲勢力よりも護憲勢力の減少率の方が大きかったことだ。改憲勢力3分の2を阻止したので、あたかも護憲勢力が伸長したような印象が広がっているが、事態は逆である。改憲勢力(自民、公明、維新)は3284万票(得票率58.6%)から2916万票(同58.2%)へ▲369万票(▲8.2%)だったのに対して、護憲勢力(立民、国民、共産、社民)は、1930万票(得票率34.5%)から1693万票(同33.8%)へ▲237万票(▲12.3%)と、▲4ポイントも減少率が大きかった。ただ、得票率が辛うじて3分の1を上回っただけである。

なかでも注目すべきは、伝統的な左派勢力である共産・社民の得票数が激減したことだ。旧民進(立民+国民)が▲35万票(▲3.0%)と減少幅が小さかったのに対して、共産は4分の1の▲153万票(▲25.4%)、社民は3分の1の▲49万票(▲31.8%)という大量票を失った。全体得票率▲10.6%を基準にすると、共産減少率▲25.4%は2.5倍、社民減少率▲31.8%は3.0倍となり、全体得票率の減少よりも遥かに高い倍率で共産・社民の得票数が激減したことになる。共産・社民・旧民進系の減少数合計▲237万票は、「れいわ」△228万票の得票数とほぼ見合うものであり、このことは、旧民進系の一部と共産・社民票の少なくない部分が「れいわ」にシフトしたことを意味している。

【参院選全選挙区、与党3党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
     2016年   2019年   増減数  増減率
総計 5601(100) 5007(100)  ▲594  ▲10.6%
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与党計 3284(58.6) 2916(58.2)  ▲369  ▲11.2%
自民   2012(35.9) 1771(35.3)  ▲240  ▲11.9%
公明    757(13.5)  654(13.1)  ▲104  ▲13.7%
維新   515(9.2)   491(9.8)   ▲25  ▲4.8%

【参院選全選挙区、野党4党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
       2016年 2019年 増減数  増減率
総計  5601(100) 5007(100)  ▲594 ▲10.6%
-------------------------------------------------------------
野党計 1930(34.5) 1693(33.8) ▲237 ▲12.3%
旧民進   1175 (21.0) ※1140(22.8) ▲35 ▲3.0%
 立民 792(15.8)
 国民 348(7.0)
共産   602(10.7)    448(8.9)  ▲153 ▲25.4%
社民    154(2.8)     105(2.1)  ▲49 ▲31.8%
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れいわ    ―     228(4.6)  △228

無党派層においても共産・社民離れが進行している。共同通信出口調査によると、無党派層は前回参院選21%、今回参院選20%とほぼ同率であり、前回と今回の無党派層の投票先は、自民22%→24%、公明7%→7%、維新11%→12%と改憲勢力が微増している。改憲勢力は半数近い無党派層の安定した支持(N国を加えると45%)を維持しているのである。これに対して護憲勢力は、民進23%→28%(立民21%、国民7%)、共産15%→11%、社民4%→3%、「れいわ」10%となり、民進系が増えたが共産・社民が減っている。ここでも共産から立民と「れいわ」に無党派層の投票先がシフトしている様相が見てとれる。

第3は、1人区では野党共闘が一定の勝利を収めたものの、野党勢力の拡大には必ずしもつながっていないことである。参院選1人区の総得票数(諸派、無所属を含む)は前回2089万票、今回1862万票、▲227万票(▲10.9%)であり、全体の減少率▲10.6%とほぼ等しい。前回は統一候補得票数と野党得票数が2088万票で同数だったが、今回は統一候補得票数1862万票が野党得票数1836万票を△26万票(△12.4%)上回った。

野党統一候補の得票数と野党4党得票数の割合を見ると、32区のうち29区で統一候補が4党得票数を上回り、その内訳は150%以上4区(うち当選4)、140%以上3区(当選1)、130%以上4区(当選1)、120%以上9区(当選3)、110%以上6区(当選1)、100%以上3区(当選0)、100%未満3区(当選0)だった。

野党統一候補の政党別内訳は、前回が民進15、共産1、無所属16、今回は立民7、国民6、共産1、無所属18でそれほど変わらないが、得票数は民進系候補が485万票(得票率23.2%)から316万票(同17.0%)へ▲227万票(▲34.8%)と激減したのに対して、無所属候補は投票率の低下にもかかわらず、408万票(得票率19.5%)から443万票(同23.8%)へ△35万票(△8.6%)増加した。

一方、1人区の野党比例代表得票数は2088万票から1836万票へ▲252万票(▲13.1%)となり、全体の減少率▲10.6%よりも大きかった。野党共闘が成立している1人区で野党得票数が減ることは、無所属候補の増加が統一候補得票数の増加に寄与しているものの、野党各党の比例代表得票数の増加には必ずしも結びつかないことを示している。

なかでも注目されるのは、前回と今回で旧民進(立民+国民)が455万票(得票率21.8%)から423万票(同23.5%)へ▲32万票(▲7.0%)で比較的減少幅が小さかったのに対して、共産は182万票(得票率8.7%)から136万票(同7.4%)へ▲46万票(▲25.4%・4分の1)、社民は74万票(同3.5%)から59万票(同3.2%)へ▲15万票(▲20.1%・5分の1)と、共産・社民の減少が非常に大きかったことである。これは、旧民進、共産、社民の▲93万票の多くが「れいわ」△71万票の得票に流れたことをうかがわせる。

全選挙区における野党各党の前回と今回の得票数の差は、旧民進▲35万票(▲3.0%)、共産▲153万票(▲25.4%)、社民▲49万票(▲31.8%)である。これに対して1人区では、旧民進▲32万票(▲7.0%)、共産▲46万票(▲25.4%)、社民▲15万票(▲20.1%)だから、野党各党は野党共闘が成立した1人区においてむしろ後退しているとさえ言える。原因は明らかであり、無所属候補の増加と「れいわ」の登場が、野党各党の比例代表得票数の減少につながったと言えるだろう。

【参院選1人区、野党統一候補得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
  2016年  2019年 増減数  増減率
総計 2088(100) 1862(100)  ▲227  ▲10.9%
------------------------------------------------------------
計 904(43.3) 767(41.2)  ▲137  ▲15.2%
旧民進  485(23.2)  ※316(17.0) ▲169  ▲34.8%
立民         191(7.5)
 国民         125(6.7)
共産    10(0.5)    8(0.4)  ▲2   ▲20.0%
無所属   408(19.5) 443(23.8) △35   △8.6%

【参院選1人区、野党4党比例代表得票数の推移、単位万票、()内数字は得票率】
    2016年   2019年 増減数 増減率
総計 2088(100) 1836(100)   ▲252 ▲12.1%
------------------------------------------------------------
野党計 711(34.1)(100) 618(37.5)(100)  ▲93 ▲13.1%
旧民進  455(21.8)(64.0) ※423(23.5)(68.4)  ▲32 ▲7.0%
 立民         265(14.4)(42.9)
 国民         158(8.6)(25.6)
共産   182(8.7)(25.6)   136(7.4)(22.0)  ▲46 ▲25.4%
社民    74(3.5)(10.4)   59(3.2)(9.5)   ▲15 ▲20.1%
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れいわ    ―      71(3.9)   △71

メディアは野党後退をどう見ているだろうか。産経(7月28日)は得票数を大きく減らした政党として、与党では公明、野党では共産に焦点を当てて以下のように論評している(要旨)。
「公明は今回参院選で比例代表得票数は654万票、前回から104万票減らしたにもかかわらず低投票率に助けられて14議席を獲得し、過去最高28議席を占めた。だが、創価学会員を始め支援者の高齢化が深刻で、得票数を回復させるのは容易でない」
 「共産は比例代表850万票の獲得を目指したが、今回は153万票減らし、前回の602万票を大きく下回る448万票にとどまった。全体でも獲得議席は7と改選前の8から後退した。共産が比例票を減らしたのは、支持層の高齢化に歯止めがかからないことに加え、野党共闘の前提として他党に求めてきた「相互推薦・支援」をうやむやにしたことが大きい」
「共産は、初めて野党共闘に踏み切った2016年参院選と2017年衆院選において選挙区で候補を取り下げたが、政権批判票が比例も含めて他党に流れる動きが止まらず比例票が伸び悩んだことを受け、今回は『相互推薦・支援』の確約を求めてきた。しかし、野党間の候補者調整が進まない現状にしびれを切らし、今年5月に「状況に即して勝つために効果的な支援を目指したい」と軌道修正。改憲勢力『3分の2』阻止などを争点に掲げ、選挙区で候補の取り下げを進めた」
「この結果、今回は比例で前回から1減の4議席しか確保できず、政権批判票は今回も野党第一党の立憲民主党などに流れた可能性が高い。加えて、党勢を切り売りしても堅持した野党共闘にはほころびが出ている。国民民主の玉木代表は7月25、憲法改正について「私は生まれ変わった。議論は進める。安倍首相にもぶつける」と明言した。首相と玉木氏が改憲推進で一致すれば、成果として誇る「3分の2割れ」がヌカ喜びに終わりかねない」

以上の指摘は重要だ。改憲勢力「3分の2割れ」を実現するために身を切ってまで野党共闘成立に奮闘してきた共産が、その努力を報われることなく「党勢後退」という深刻な事態に追い込まれたからだ。次期衆院選においても「野党共闘推進」という基本方針は変わらないだろうが、このままでは「党勢後退」どころか「党勢危機」にもつながりかねない。(つづく)
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