2019.08.15 野党共闘は政権交代につながるか
2019年参院選を顧みて(2)
                
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
        
今回の参院選は数々の課題があったにもかかわらず、選挙の焦点が「改憲勢力3分の2阻止」一本に絞られ、そのカギになる「1人区野党共闘」に注目が集まった。結果は32区のうち10区で野党統一候補が勝利し、前回より1議席減らしたものの全選挙区で野党議席が3分の1を上回ったことで、あたかも野党が勝利したような印象が広まっている。「3分の2阻止」の意義については評価を惜しまないが、これがそのまま政権交代につながるといった甘い期待に浸っていると、厳しい政治世界の現実に足をすくわれることになりかねない。

なぜこんな水をかけるようなことを言うかというと、枝野代表が率いる立民主導の野党共闘に対して信頼を置けないからだ。今回参院選においても、枝野代表の野党共闘に対する基本的スタンスは、野党第1党としての政治基盤強化が第一義であって、政権交代を目指すものではなかった。枝野代表の念頭には「安倍政権打倒」の政治目標はなく、参院選を通して立憲民主党の政治基盤を強化することが全てだったのである。その根底には「自分は保守本流」だとする枝野氏の政治信条がある。立憲民主党の基本政策が、日米安保条約堅持、自衛隊合憲、消費税維持などに置かれているのはそのためであり、「自分は保守本流」だとするパフォーマンスは、保守政党の慣行に従った今年1月4日の伊勢神宮(公式)参拝にもあらわれている(福山幹事長も同行した)。枝野代表の政権構想の狙いは、次期衆院選で自公政権を弱体化させ、自公及び自民内部の分裂を誘い、与野党横断型の「保守本流政権」を樹立することにあることはまず間違いない。

自社さ連立政権と違うところは、枝野構想は自民党の全てではなく旧宏池会系など「自民党の一部」との連立を目指すことで、安倍一派などの極右勢力を排除した保守中道政権の成立を目指す点にある。この政権構想は広く立民内において共有されており、「枝野降ろし」のような事態が生じない限りこれからも変わることがないと思われる。枝野代表にとっては次期衆院選までは(方便としての)野党共闘が必要であり、共闘路線はこれからも継続されることになるだろう。また、共産も従来路線の延長として野党共闘を政権交代に結びつけるべく努力するだろうから、市民グループの立ち位置は知らないが、立民と共産との間ではいわば「同床異夢」の野党共闘が当分継続する可能性が大きいと言える。

しかしながら、次期衆院選において自公が勢力を維持すればもちろん政権交代はあり得ないし、また、野党勢力の躍進によってたとえ自公政権が動揺する事態に陥ったとしても、政策協定に基づく野党政権が成立するとは必ずしもいえない。むしろその場合は、選挙が終わった段階で「政変=政界再編」が起り、左派勢力を排除した与野党横断型の連立政権(いわゆる「大連立政権」)が成立する可能性が大きい―と私は考えている。このような事態になれば、立民主導の野党共闘はもちろん崩壊するだろうし、枝野代表をはじめ立民幹部は世論の批判に曝されることになるだろう。だが、権力さえ奪取すれば、そんなことは意に介さない世論がつくられることもまた歴史が教えているところだ。自由党と連合して成立した民主党政権のその後の姿がこのことを余すところなく証明しているではないか。

加えて、今回の野党共闘が国民民主を含むものであったことも、今後の野党共闘にとっては大きな波乱材料になる。すでにその兆候は表れており、野党共闘は明らかに「第2ステージ」に入ったと見るべきだ。その変化は、第1に野党共闘からの国民民主の脱落、第2に「れいわ」をめぐる野党再編の動きによって特徴づけられる。なぜなら、安倍政権の激しい切り崩し工作によって、国民民主が野党共闘から脱落することはほぼ既成事実と化しつつあるからだ。玉木国民代表は7月25日のインターネット番組において、「私は生まれ変わった。我々は憲法改正の議論を進め、安倍晋三首相にもぶつける。党として一つの考えをまとめる」と発言し、今後の改憲論議については「最終的には党首と党首として話をさせてもらいたい」と踏み込んだ(朝日7月27日)。
 
また、8月1日の臨時国会召集を控えて、国民民主の参院幹部が維新の片山虎之助参院議員団会長に統一会派の打診をしたことも無視できない。意図は、国民民主が参院で野党第1会派を確保するためだというが、仮に両党が参院で統一会派を組むなら40議席となり、立民と社民の会派(35議席)を上回ることになる。参院国民民主が維新と会派を組み、改憲勢力に入るなら「3分の2」を超えることになる(日経7月27日)。

ただし、この選択が国民民主の解党・消滅を導くことになることは必定だ。改憲反対の政策協定に署名して野党共闘に参加した直後に改憲勢力と手を組む(寝返り)ことは、有権者に対する明白な裏切り行為であり、政党として許されるものではないからだ。ただそうでなくても、国民民主内の改憲分子が今後さみだれ式に改憲会派に合流することが十分考えられる(この可能性が一番大きい)。この動きが止まらなければ、国民民主は政党としての存在意義を失い自然消滅していくことにならざるを得ない。いずれにしても、国民民主が次回衆院選までこのまま存続する公算は極めて小さいと言えるだろう。

第2は、「れいわ旋風」が立民主導の野党共闘に波乱を呼び起こし、野党再編の新しい動きが生じる可能性が大きいということだ。開票前まではメディアで無視されていた「れいわ」が予想以上の得票を獲得したことは、既成野党に大きな衝撃を与えた。「れいわ旋風」に対する野党各党の反応は、枝野代表「様々なところで連携したい」、玉木代表「率直に意見交換したい」、志位委員長「協力できることは何でも協力していきたい」と濃淡様々だが、いずれにしても「れいわ」が無視できない存在であることはもはや明らかだ(朝日7月23日)。

「れいわ」の出現は、次期衆院選の野党共闘においては「諸刃の剣」として作用する可能性がある。政権交代に必ずしもつながらない野党共闘路線に固執する立民に対しては「毒薬」として、本格的な政権交代を求める左派勢力に対しては「劇薬」としてである。朝日新聞野党担当キャップは、次のように指摘している(7月25日)。
 「山本氏の視線の先には、国会に緊張感をもたらす野党勢力をつくり、政権交代をめざす狙いがあるという。本来、その役割が最も期待されていたのは野党第1党の立憲民主党のはずだ。しかし、枝野幸男代表は2017年秋の結党以来、非自民という枠組みだけの結集は繰り返さないとの姿勢を貫き、政党間合流を含めた野党共闘を否定し続けている。(略)安倍政権下の政策で恩恵を受けている『勝ち組』や『主流派』の人々も少なからずいるだろう。しかし、主流の外にいる少数者たちは、多くは悩みや不満を抱える。山本氏はその声なき声に耳を傾け、大きなうねりを起こした。そこには、与党にはできない野党の強みがあった。立憲をはじめとする既成野党はどう応えるのだろうか」
 
立民内にははやくも「れいわ=毒薬」に対する警戒感が広がっている。「反原発」「消費税廃止」「辺野古基地建設中止」などを打ち出す山本氏の姿勢が左派を中心に熱狂的に支持されたことから、このまま放置すると政権批判の主導権を脅かされかねないとの懸念が広がっているからだ。産経はその状況を次のように解説している(7月23日)。
 「山本氏は参院選で秋田、岩手、宮城、大分、大阪などの選挙区で応援に奔走しており、選挙期間中にもかかわらず『消費税延期』という党方針に反して、『消費税廃止』と繰り返した立民の当選者もいた。立民関係者は『離党してれいわに移籍する可能性は十分ある』と警戒する。れいわと手を結べば責任政党の土台が崩れ、対立すれば身内の反目や政権批判票離れを招きかねない」

次期衆院選における野党共闘において、立民が今回参院選レベルの政策協定に固執すれば、「れいわ」が野党共闘から離反して独自の選挙戦を戦う公算が大きい。その時、立民主導の野党共闘が政権批判票を「れいわ」に奪われるかもしれず、またこの事態になれば、共産が立民と「れいわ」のいずれを選択するかが問われることになる。その時、共産は「れいわ」の自由奔放な運動形態に翻弄され、「れいわ」という劇薬によって上意下達の組織にヒビが入るかもしれない。いずれにしても、枝野代表がこれまで主導してきた(方便としての)野党共闘路線が破綻し、政権交代のための(本物の)野党共闘が問われる局面がやってくる。(つづく)

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