2019.09.10 トランプ米大統領、アフガン和平トップ交渉をキャンセル

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

トランプ米大統領は7日、昨年10月から中東カタールで9回重ね、9月1日に基本合意した、米国とアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンとの和平交渉の仕上げとして、ひそかに準備していた、ガニ・パキスタン大統領、タリバン代表とのキャンプデービッドでの会談をキャンセルすると明らかにした。その理由は、タリバンの最近のカブール攻撃で米兵一人が死亡したためだという。トランプ大統領は「私はこの会談を直ちに中断し、和平交渉を中止することを決めた」とツイートで発表した。
これに対してタリバンは8日、声明を発表、“米国は、18年間にわたるアフガニスタンでの戦争を終らせるための、和平交渉の成果のほとんどを失った。われわれは、最後の瞬間を目指し、すべてが前進している“と主張した。
この声明の中で、タリバンのムジャヒド・スポークスマンは、「1件の出来事を理由に、交渉をやめる米国は、成熟度と経験に欠けている。」と米国を非難。また、タリバンとアフガニスタン政府は、9月23日に会談することになっていた」と述べている。BBCによると、この会談については政府側は確認していない。
9月5日の本欄で書いた通り、和平交渉のカリルザーデ米交渉団代表は、各国テレビとの会見で、現在1万4千人駐留している米軍のうち5,400人を135日以内に撤退すると発表、タリバン側もその説明は正確だと認めていた。ガニ・アフガニスタン大統領は、その合意について側近と協議を始めたと英BBCは伝えていた。
アフガン政府内には、タリバンとの停戦に反対も根強いが、国内ではタリバンの支配地域が政府軍支配地域よりも優勢になっているとの見方が有力。政府側とタリバンがまず停戦に合意できるかどうかが、本格的な和平交渉のカギとなるが、トランプの交渉成果ぶち壊しによって、少なくとも当面、アフガン和平は絶望的になった。

 トランプ大統領が、和平交渉の成果を誇示するため、ガニ・アフガニスタン大統領、タリバン代表との会談、取り決めの調印に用意した、キャンプ・デービッドは、ワシントンから97キロの距離にあるメリーランド州の、米大統領の特別な別荘。第2次大戦中、ルーズベルト大統領がチャーチル英首相と会談して以来、歴代の米大統領が、特別に重要な客をもてなすさいに、使用してきた。
 今回、トランプが米・タリバンのアフガン和平取り決めに調印するためにこの場所を選んだのは、それを重視する姿勢を示し、ガニ大統領にも 政府側にも参加を促すためだった。
それよりなにより、2001年のアフガン戦争開始以来、米国兵士2,300人以上が死亡、米国防総省によると7,600億ドル、ブラウン大学ワトソン研究所によると1兆ドル近くの戦争経費を投入してきたアフガン戦争から脱出できることを、米国民に示すためだったに違いない。
 現在では、米軍兵士が1万4千人にまで減少したとはいえ、アフガニスタンでの和平を18年ぶりに実現できれば、来年の大統領選挙での再選への大きなプラスになる。
 トランプが、ガニ大統領とタリバン代表をキャンプ・デービッドに招く会談プランを、極秘に進めて来たのは、発表した時の効果の大きさを計算してのことに違いない。
 それが5日朝、カブールで米兵一人が、トヨタSUVに乗ったタリバンの兵士の自爆テロの犠牲になり、一変した。トランプは同日夜、ガニ大統領、タリバン代表との会談プランのキャンセル、タリバンとの和平協定案の破棄、和平交渉の中止を発表した。もちろん、両代表とのキャンプ・デービッド招待も中止。
 大統領・軍最高司令官のトランプが、米兵の死に怒り,抗議を示し、和平交渉・会談をキャンセルするのは当然かもしれない。しかし、これまでに多数の米兵が戦死し、和平交渉中も米軍が支援する政府軍とタリバンの戦闘が続き、戦闘休止の取り決めもなかった。米兵一人を殺したタリバンの攻撃で、大統領自身が進めた和平会談をキャンセルし、和平交渉そのものも中止すると発表したのは、それだけの理由だったのだろうか。
 ニューヨークタイムズはベテラン記者5人による特別チームで取材・報道を展開しているが、トランプとアフガン両勢力代表との会談中止の説明としては、一人の米兵の死以外には全く触れていない。(了)

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