2019.09.27 国内で手軽に使われている除草剤が、外国では発がん性などで大問題になっている
  「シリーズ香害」番外編
      
岡田幹治(ジャーナリスト)

 「根まで枯らす除草剤」「うすめて使う即効除草剤」などの商品名で販売され、多くの人が手軽に使っている除草剤の成分「グリホサート」について、外国では発がん性などが大問題になっているのをご存じだろうか。米国では、グリホサートの使用でがんになったと訴えた被害者に巨額の損害賠償を認める判決が3件続き、欧米やアジアではグリホサートの禁止や規制が広がり、さらに今年7月末には、産婦人科の国際組織が「グリホサートの世界規模での段階的禁止を求める」声明を発表している。

世界で最も売れた除草剤
グリホサートは、散布した植物をすべて枯らす強力な除草剤だ。米国の巨大種子・農薬企業のモンサントが開発し、植物に付着しやくする補助剤を加えた「ラウンドアップ」(製剤の商品名)として1974年に売り出し、遺伝子組み換え(GM)作物の種子とのセット販売で売り上げを伸ばした。
いまでは160カ国以上で販売され、世界で最も大量に使われている除草剤だ。
2000年に特許が切れた後は、同じ成分や類似成分を使った後発品(ジェネリック)を多数の企業が販売している。
日本では108製剤が農薬・除草剤として認可(登録)されており、2017年度にはグリホサート系4成分で約5670トン(前年度比4.2%増)も出荷されている。殺虫剤や殺菌剤を含めた農薬の成分としては最大の量だ。
グリホサートは登録農薬のほかに、無認可で価格が安い「非植栽用」としても多数の商品が販売されている。非植栽用の用途は道路・運動場・駐車場・線路など植物が栽培されていないところ(雑草のみのところ)に限られ、農作物のほか庭園樹・盆栽・街路樹・ゴルフ場の芝や山林樹木などを含む「農作物等」には使用できないと農薬取締法で決まっているのだが、ほとんど守られていない。
登録除草剤や非植栽用のグリホサートは「土壌に成分が残留せず、環境にやさしい安心安全な除草剤です」(「根まで枯らす除草剤」)などの説明つきで販売されている。

メーカーに損害賠償命じる判決が3件も
グリホサートの有害性については、さまざまな物質の発がん性をランクづけしている国際がん研究機関(IARC、世界保健機関=WHO=の専門組織)が2015年にグリホサートを「グループ2A」(人に対する発がん性がおそらくある)」に位置づけて論議になった。2Aは危険性が高い方から2番目のランクだ。
これに対しては欧州食品安全機関(EFSA)や米国の環境保護局(EPA)が発がん性を否定。日本の内閣府・食品安全委員会も2016年に「食品を通じて人の健康に悪影響を生じるおそれはない」と結論づけている。その理由として食品安全委は「IARCは科学的に価値が低い、問題がある論文まで取り上げて結論を出している」ことなどを挙げた。
しかしグリホサートの発がん性に対する懸念はなくならず、米国カリフォルニア州政府は2017年にグリホサートを州の「発がん性物質リスト」に掲載し、商品には「発がん性」と表示することを義務づけた。
これを受けて同州のいくつもの郡や市が、公園・学校など自治体が所有する場所でのグリホサートの使用を禁止する条例を制定。同じ動きはニューヨーク州やフロリダ州などにも広がっている。
こうした中で、ラウンドアップの使用でがんになったとしてモンサント社(昨年6月にドイツの総合化学会社バイエルが合併)に損害賠償を求める訴訟が多数起こされ、原告が勝訴する判決が昨年8月から今年5月までに3件続いた。
最初の判決はカリフォルニア州上位裁判所(1審)の陪審が下した。同州内で校庭管理人を務めていた46歳の男性が、グリホサートを主成分とする除草剤を年に20~30回ほど使用し続けた結果、2014年に「非ホジキンリンパ腫」というがんを発症したとして、損害賠償を求めた。
これについて陪審は男性の訴えを認め、総額2億8900万ドル(約320億円)の賠償をバイエル社に命じた。賠償額には、モンサント社がグリホサートの危険性を知りながら使用者に十分に伝えていなかったことに対する懲罰的損害賠償が含まれていた(2審では損害賠償額が約8000万ドルに減額された)。
1審判決が出ると、米国では同様の訴訟が急増し、最近では1万8000件を超したとバイエル社が認めている。同社の株価はモンサント社を合併した昨年6月から4割も下落している。

オーストリアでは下院が全面禁止を可決
一方、欧州連合(EU)では、農薬としての使用が認可されているため、いくつかの加盟国が公園・学校・家庭などでの使用を規制する方向へ動き出した。たとえばベルギーはグリホサートの一般市民向けの販売を禁止している。
そうした中でオーストリアの国民議会(下院)は今年7月、グリホサートの使用を全面禁止する法案を可決した。連邦議会(上院)やEU委員会が異議を唱えなければ、2020年1月から施行される(有機農業ニュースクリップ2019年7月21日)。
全面禁止を訴えてきた社会民主党の党首は「グリホサートの発がん性を裏づける科学的証拠は増えており、この毒物を身の回りから追放することは我々の責務だ」と述べている。
グリホサート追放の動きは欧米にとどまらない。ベトナム農業農村開発省は今年4月、グリホサートの使用と輸入を禁止すると発表した。同省は2016年にグリホサートを主成分とする農薬の新規登録を禁止し、人の健康や自然環境に与える影響を精査してきた。
グリホサート追放の動きは世界の小売店にも広がりつつある。
米国では、ワシントン州のスーパーがラウンドアップと他のグリホサート除草剤を店頭から外すと発表。イギリスでは、全英に約600店を展開するDIYチェーンがグリホサートを店頭から撤去している。
日本では、「小樽・子どもの環境を考える親の会」(北海道小樽市)が2万2000筆余りの署名ととともに小売業者4社にグリホサートなどの販売中止を要望したのに対し、100円ショップ最大手の大創産業(広島県東広島市)が「在庫がなくなり次第、グリホサートの販売をやめる」と回答し、実行している(注1)。

(注1)大創産業はグリホサートに代え、「グルホシネート」除草剤と「お酢」の除草剤を販売し始めている。このうちグルホシネートは生殖毒性などが疑われており、国内では農薬としての使用が認可されているが、フランスは2017年に販売許可を取り消し、EUでは翌年、農薬登録が失効している。

国際婦人科連合が世界的な禁止を求める声明
多くの国とは逆に日本では、農林水産省がグリホサートを主成分とする除草剤を次々に認可(登録)し、厚生労働省はグリホサートの農作物への残留基準(これ以下なら農薬が残留していても安全とされる値)を大幅に緩和してきた。
非農耕地用のグリホサートは、スーパー・ホームセンター・100円ショップなどのほか、ネット通販でも大々的に売られている。
そうした中で今年7月31日、産婦人科医の国際組織である国際婦人科連合(FIGO)がグリホサートの禁止を求める声明を発表した。
同連合の「生殖と発達環境衛生に関する委員会」が作成した声明は、今年発表された二つの研究から、「非ホジキンリンパ腫の増加とグリホサート曝露の間には密接な関係があること」と「グリホサートに曝露したラットでは、世代を超えた健康影響が見られること」が明らかになったとする(注2)。
そして、人に対するきわめて深刻な健康影響の可能性が明らかになった以上、グリホサートについては「予防原則」(人の健康や環境に重大な影響を及ぼす恐れがある場合、因果関係が科学的に十分に証明されていなくとも、予防措置を取ること)を適用すべきだとし、グリホサートを世界から段階的に排除することを求めている。
生殖と発達にかかわる医療に日々向き合っている医師たちの提言を、世界の関係者は重く受け止めるべきだ。

(注2)一つ目の研究は、Zang L(米カリフォルニア大学バークレー校)らが実施したメタ分析(複数の究結果を総合し、より高い見地から分析したもの)。
二つ目の研究は、米ワシントン州立大学のスキナーらが実施した。親世代と第1世代(子)に影響は出なかったが、第2世代(孫)では肥満に加え精巣・卵巣・乳腺の疾患が著しく増加した。第3世代(ひ孫)ではオスに前立腺の疾患、メスに腎臓の疾患が増えていた。2代目の母親の3分の1が妊娠せず、3代目はオスメス合わせ4割が肥満だった(天笠啓祐「グリホサート、安全神話の終焉 人体への健康被害が明らかになる」=『週刊金曜日』2019年6月14日号)
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