2019.10.05  韓国で日本を想う―6日間のソウル観光を終えて (中)
          韓国通信NO615

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

<秋夕>
 今年の「お彼岸」-秋夕(チュソク)は9月13日だった。陰暦の8月15日が太陽暦でこの日にあたる。韓国では秋夕に法事のために一斉に里帰りする。「民族の大移動」とも言われ、ソウルの町はカラッポになる。<下写真/鐘路大通りから人も車も殆ど姿を消した13日正午ころ>
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 12日、私がかつてハングルを教わった「先生」の墓参りをした。
 私がハングルを教わったのは朴媛淑さん、朴仙姫さんという姉妹である。二人とも国費留学生として東大の大学院で学び、40年も昔、私たちにボランティアで韓国語を教えた。ある人が「韓国の宝」と称賛したほど、優秀な姉妹だった。
 姉の媛淑さんは帰国後、陶芸家として、また晩年は韓画作家として活躍したが、61才の若さで亡くなられた。妹の仙姫さんは帰国後、公務員として食品安全部で活躍中だ。

 墓参には、「先生」と旧知の李君を誘った。ソウル郊外盆唐(ブンダン)の地下鉄駅前で待ち合わせ、彼の車で忠清北道の清州(チョンジュ)市に向かった。生憎の雨模様だったが、帰省ラッシュに巻き込まれることもなく霊園で妹さんの仙姫さんと落ち合うことができた。納骨堂に納められた仙姫さんの遺骨と位牌の前で、しばらく故人の思い出話をした後、三人で会食した。

<日本が心配>
 久しぶりの再会で話は尽きない。
 「韓国に避難してきませんか」と、李君は放射能汚染水を心配した。「日本大好き」の彼はかつて一人娘を日本に留学させる夢を語っていたが、2011年以降、口に出さなくなった。逆に私たち夫婦に避難をすすめたことに耳を疑った。福島の汚染水について、韓国の人たちは日本人以上に深刻に受け止めているようだ。日本には、120万トン近い大量の汚染水を海へ放流する計画がある。慎重で冷静な議論が必要であるにもかかわらず、韓国政府の懸念に対し、「よけいなことをいうな」とばかりにケンカ腰になる日本政府。
 韓国にも24基の原発がある。韓国政府が原発について日本にとやかく言える立場ではないのは事実だが、事故処理ができないでいる日本に韓国を批判する資格はない。韓国の要請に「逆ギレ」して、前後見境もなく海へ放流することになったら、それこそ本末転倒だ。
 聞く耳を持たず理性を失ったような日本の外交。それこそ「冷却水」が必要だ。福島の漁民たちが海洋汚染を心配するように韓国が心配するのは当たり前のこと。当たり前で大切なことが「韓国ぎらい」の中でかき消されようとしている。

 焼き肉を食べながら、話が日韓関係の問題に向かったのは当然の成り行きだった。朴さんは日韓関係の悪化を心配しながら、韓国内の安倍政権批判に対しては同調しなかった。韓国側の対応にも問題があるという。何処に問題があるのか、という質問には「悪化している現状がその答え」というばかり。安倍政権の歴史認識を問題にする男性二人(李君と私)は意気込むのだが、彼女はそれを言いだしたら解決にはならない、と冷静だ。議論はそれ以上深まることはなかった。

<考える韓国の人たち>
 実質秋夕入りとなったその日、駅の売店、コンビニで新聞を手に入れることができず、やっとホテルで朝刊を手に入れた。
 12日付『朝鮮日報』は一面、二面、三面で法務部長官に就任した曹国氏の疑惑を報じ、広告のページでは「文在寅退陣、国民運動」のキャンペーン。光化門広場で開かれる決起大会の呼びかけが行われていた。その他、秋夕の関連記事と並び、安倍内閣の組閣人事の記事が目についた。
 1920年創刊の朝鮮日報は東亜日報、中央日報とならぶ韓国の三大紙で、最も保守、財閥寄りの新聞として知られる。文現政権に批判的なのは日本の新聞各紙と共通するが、安倍政権に対する批判もなかなか厳しい。日本では『赤旗』「日刊ゲンダイ」以外に、朝鮮日報並みの批判記事を書いた新聞はあったのだろうか。以下、要約して紹介する。

 見出し―「安倍内閣19名中17名交代…右翼強硬派前面に」/ 小泉進次郎の任命式に向かう写真とともに、茂木、萩生田、菅原、河野新大臣を顔写真入りで紹介。
 小見出し―経済産業相に右翼菅原、外相に9回当選のベテラン茂木「韓国へ国際法違反是正を要求する」、小泉元総理の次男 進次郎は38才で男性最年少入閣
 11日に行われた内閣改造では19名の閣僚のうち17名を更迭、右翼傾向の強い人物と側近を大挙入閣させた。今回の改造によって安倍政権の右翼的体質は色濃く、韓国は勿論、周辺諸国との衝突が繰り返されることが懸念される。第二次安倍内閣発足以降の最大の内閣改造だが、麻生副総理、菅官房長官はいずれも留任。茂木外相は就任最初の記者会見で「(韓国の徴用工判決に触れて)韓国の国際法違反の状態が1年近くも続いているのは遺憾だ、是正を強く求めていく」と語った。韓国に対する輸出規制問題を担当する菅原経産相は日本の右翼団体「国民会議」に所属し、「河野談話」を否定する立場の人間だ。東京の消息筋によると「安倍首相の狙いは外務大臣と経産相の変更によって日韓関係に新しい雰囲気を作ろうとする意向が働いた」と言われる。安倍首相はこれまで韓国との関係で問題発言を続けてきた人物を大挙起用した。総務大臣として再抜擢された高市早苗も植民地支配を謝罪した村山談話を否定した人物として伝えた。萩生田文科大臣は首相の側近中の側近である、と伝えた。

 以上、記事を短かくまとめたが、改造新内閣の右翼的傾向を見事に伝えていた。
 徴用工問題に端を発した日本側の経済制裁に韓国社会は大反発し、「日本製品の不買運動」、「日本に行かない」キャンペーンを展開中だ。キャンペーンに感情的な側面があることは否めないが、最近では、ズバリ「NO(아베)アベ」と、安倍首相に焦点をあてた意思表示がみてとれる。首相個人を前面に押し出した運動はこれまでないことだ。これを「反日」運動と日本のマスコミ各社は伝えるが、明らかに間違い。正確には「反安倍」である。『朝鮮日報』が、安倍内閣を右翼集団と断定したことからわかるように、韓国は保守・革新を問わず「NOアベ」である。
 久しぶりに鐘路の教保文庫(大規模書店)をのんびり歩いてみた。青木理氏の著書『安倍三代』(2017)と『日本会議の正体』の翻訳本が山積みにされていた。ベストセラーだという。「日本会議」に乗っ取られた感のある安倍政権に対する韓国市民の警戒心と関心は相当なものだ。
 「他に適当な人がいない」「安定感があるから」という理由で、安倍政権をなんとなく支持する日本人には理解しがたいかもしれないが、日韓関係の悪化の原因は安倍首相個人にあると考える韓国人は多い。

<未来のために>
 日韓関係改善の糸口が見いだせない状態が続く。両国の関係悪化を憂いながら、ほとんどのテレビ番組は、連日のように文在寅大統領の批判をするという異常な状態が続いている。そして、韓国バッシングでは、韓国問題の「専門家」たちが競って韓国批判の旗振り役を務める。政府に都合のいい「反韓ムラ」の人たちだ。中でも韓国大使館勤務を振り出しに駐韓大使を勤めた武藤正敏氏の“活躍ぶり”が注目される。

 『日本大使が徹底分析 韓国の大誤算』(2016)、
 『韓国人に生まれなくてよかった』(2017)
 『文在寅という災厄』(2019)
 という彼の著書のタイトルからもわかるように、韓国への悪意が感じられる。元大使の肩書で韓国への非難を売り物にテレビで発言しているように私には思える。韓国の実態を本国(日本)に忠実に伝え、両国関係を円滑にするのが大使の仕事と思っていた私には信じがたい。
 彼が韓国に赴任中には、大使館前で「水曜デモ」が毎週続けられていた。彼は大使館のなかにこもって元慰安婦のハルモニたちへの蔑視と憎悪の念を燃やしていたのだろうか。
 こじれている徴用工問題の責任も武藤氏にあると言っても過言ではない。企業責任を問われた被告企業三菱重工業の顧問だったという経歴から、武藤氏が重工の利益を守る立場だったといわれても仕方ない。

 実は安倍政権と同調者たちがまき散らす「反韓」「嫌韓」に反論するのに少々疲れている。バカバカしくなったというのが偽りのない私の気持ちだ。それでも黙っていたら「負け」という気持ちもある。この異常事態を克服するのは容易ではない。
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戦争と狂気のファシズムに抗して闘った先人たちを思うと、私たちにはまだまだやれること、しなければならないことがある。<左写真/8月27日首相官邸前の「韓国バッシングへの抗議集会」には約500人の市民が集まった>
 言い尽くされた感もあるが、やはり一人ひとりが自分の目で確かめ、考え、行動するほかない。武藤正敏氏に代表される「反韓」専門家たちの嘘を見抜くのは、隣国とは対等に、隣人として敬い、平和を愛する私たち一般市民をおいてない。

 秋の旅行シーズンを迎えてなお、韓国への飛行機代は往復1万円以下である。韓国からの旅行客激減が影響していると思われる。日韓の交流事業が相次いで中止になるなか、頑張って交流を続ける団体も少なくない。この時期にこそ魅力あふれる韓国へ! ご一緒しませんか。未来のために。<次号に続く>

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