2019.10.19  トルコ軍、シリア・クルド地域に大規模侵攻
    トランプ、全米軍にシリアからの撤退命令
    米国内でもクルド人への裏切りとの非難高まる


坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 トランプ米大統領は13日、シリアに駐留していた1千人を超える米軍全員の撤退を命令した。さらに大統領は16日、ホワイトハウスで、記者団の、9日から始まったトルコ軍のシリア北部クルド人地域への侵攻を助けるのではないかとの質問にー「あそこは我々の国境ではない」「我々は天使ではない」と突っぱねた。米国内では、トルコ軍のシリア侵攻に対する対応を強く非難する声が高まっている。
 2014年に出現して以来、シリア、イラクに支配地域を広げた極端に過激・残酷な「イスラム国」は、今年3月、シリアのイラク国境の町を最後に、組織としては壊滅した。長かったイスラム国への壊滅作戦の主力は、シリアの地上作戦ではクルド人武装組織YPG(シリア防衛隊)で、空爆は米軍だった。
 クルド人は、シリア総人口1800万人台の10%以上を占め、北部のトルコ国境からかなり広い地域を、事実上、自治支配している。今回、トルコ軍が侵攻した国境地域の十を超える町も、すべてクルド人の町。
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  トルコ軍が侵攻、クルド人武装組織YPGと戦闘が激化している、トルコ・シリア国境(斜線)の、
  シリア領クルド人居住地帯。南北の幅は32km。東西の延長は480km。
  茶色くつぶしてあるのは、すでにトルコ軍が占領した地域。


 一方、トルコ政府は、治安の目的で延長約480kmの国境のシリア側に、幅32kmの安全地帯をトルコの支配下に設置して、そこに、現在トルコ国内にいる360万人に達するシリア難民のうち100万人を居住させる方針を明らかにしている。その方針には、シリア政府もYPGも拒否、強く反発している。この地域は豊かな平原地帯で、10を超す町が点在、住民の多くはクルド人。「イスラム国」が一部を占領したこともあったが、激戦の末、撤退させ、YPGが主力の政治組織のPYD(民主連合党)の統治が続いている。しかし、そうした戦闘で、畑と牧草地は荒れ、国際人権団体「セーブザチルドレン」によると、多くの住民に人道援助が必要な現状だ。トルコのエルドアン政権は、100万人のシリア難民を追い出して、ここに住まわせようとしているのだ。
 トランプ大統領は先月、アフガニスタンでの内戦を終らせ、米軍を撤退させるための反政府武装勢力タリバンとの1年がかりの交渉に合意した。正式調印を、アフガにスタンのガニ大統領とタリバンの代表をキャンプデービッド(最高の外交用施設)に招いて派手に行う準備を始めながら、突然、ぶち壊したばかり。(「リベラル21・9月10日」参照)。
 シリアでは、2014年以来、残酷なイスラム過激派「イスラム国」が台頭、支配地域をシリア北部に拡大、さらにイラク北部へと広げた。しかし、シリアのアサド政権は国内の民主化勢力鎮圧に手いっぱい。アサド政権に代わり、自治拡大に取り組んできたクルド人のYPGが地上戦の主力になり、空爆では米軍が主力になった。「イスラム国」は今年3月、米空軍の爆撃支援を受けたYPGの包囲作戦で、最後の拠点を失い、地下にもぐっている勢力は残っているとしても、地上からは一掃された。シリアとイラクに勢力を広げた「イスラム国」は、シリアでは、米軍の空爆と主にYPGの地上作戦で、イラクでは、米軍の爆撃とクルド人の治安部隊ペシュメルガの支援を受けた政府軍によって、4年で壊滅したのだ。
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   国境地帯のクルド人武装勢力YPGの陣地に加わっていた米軍兵士。今年2月撮影。
   ーいずれも、英BBC電子版に掲載された図と写真。

 ISを壊滅したシリアでは、PYD(民主連合党)が北-東北部での自治を主張、16年3月には、連邦制の施行を一方的に宣言したが、シリア政府は認めていない。PYDは「イスラム国」の壊滅によって、北部でのクルド人自治区の確立、連邦制の実施への行動をさらに活発化したところだが、トルコ軍が大規模に越境攻撃を開始、実質的にクルド人の自治が行われている国境近くの町々を占領支配し始めた。 
 それに合わせるように、トランプ米大統領は、シリアに駐留している1千人以上の米軍の撤退を命令。トルコ軍のシリア侵攻を非難したが、口先だけのサービスに終わっている。
(続く)
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