2019.10.29  ソウル地下鉄一号線物語
          韓国通信NO618

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 ソウルの地下鉄は1号線から9号線まで、その他に支線がその外周を走る。
日本で地下鉄が上野、浅草間に開通したのが1927年。ソウルは47年後の1974年に開通した1号線をスタートに拡張を続け、東京の地下鉄と全く遜色のないほど驚くほどの発展を遂げた。路線図を見るたびに、韓国経済の「漢江の奇跡」そのもののように感じられる。
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 地下鉄1号線はソウル駅から清涼里(チョンニャンニ)までのわずか8キロたらずだが、鐘路から東大門までの目抜き通りを走るので利用する人が多い。外国人の私にも身近な地下鉄だが、乗るたびに日韓の不幸な歴史のひとつ、黒い経済癒着を象徴する事件を思いだす。

 1973年から75年にかけて、金大中氏の拉致事件とともに、地下鉄疑惑事件が新聞紙面を賑わせた。三菱商事を中心とする商社が請け負った地下鉄建設をめぐる不可解な資金の動きは、日韓両国の政界を巻き込む大事件として注目を集め、日本の国会でも追及された。
 これは、地下鉄の車両が当初額の2倍の価格で水増し契約され、大儲けをした商社は手数料(リベート)としてアメリカ在住の韓国人に250万ドルを支払い、さらに22億円もの巨額資金が三菱商事から朴正煕政権へ賄賂として、また日本の政治家にも多額の金が還流したとされる事件だ。日本での国会追及は「守秘義務」の壁にさえぎられ、結局、真相解明は不発に終わった。

 「日韓条約」と「日韓請求権協定」によって、「すべて解決ずみ」という安倍政権の主張にもかかわらず、ここにきて、「経済援助」の実態があらためて注目され始めた。
 言うまでもなく、日韓請求権協定の無償3億ドル・有償2億ドルのうち、3億ドルは返済の必要のない「独立祝い金」という位置づけであり、2億ドルは返済が必要な経済援助だった。5億ドルの使途が日本からの輸入と役務、経済復興に限られたことが「不正」の温床になった。
 問題点だらけの「経済援助」の中でも、ソウル1号線建設とPOSCO(旧浦項総合製鉄所)の開設にまつわる疑惑については、韓国側の資料によって、これまで蓋をされてきた日韓の経済癒着の実態が、白日の元にさらされる可能性がある。疑惑では「日韓協力委員会」の会長だった岸信介と政界の黒幕として名をはせた矢次一夫の暗躍が取りざたされてきた。真相が明らかになると「すべて解決ずみ」と主張する安倍首相は祖父岸信介とともに無事ではいられなくなるのではないか。

<違うようで、似ている関西電力の疑惑>
 関西電力の原発立地、福井県高浜町の元助役が関電の役員に3億2千万円の金品を贈った事件。「日韓条約」が生んだソウルの地下鉄事件を思い出させる。3億2千万円は氷山の一角、町の一助役が引き起こした単純な事件と考える人はあまりいない。
 工事代金の「水増し」という古典的な手法。水増し発注で生まれた利益が還流して、現金や小判、一着50万円の背広に化けた。関電役員の私腹を肥やすためだったとは考え難い。背景にはもっと根深く、大掛かりで組織的なカネの流れがあると直感した人も少なくない。役員たちが、助役に押し付けられたと釈明したことで、かえって疑惑が深まった。
 電力会社の周囲には随意契約で甘い汁を吸う「吉田開発」のような企業が存在するとみてよい。電力会社とはいわば「持ちつ持たれつ」の関係にある。
 福島原発事故以降、原発への風当たりが強くなり、各社が原発の維持に苦心しているのは想像に難くない。いきおい原発推進派の政治家と原発に利権を持つ「原子力ムラ」に頼らざるを得なくなったが、「私設応援団」には何といってもカネが必要だ。その錬金術のひとつ、「水増し」発注のカラクリが発覚したというのが私の見立てである。
 電力会社はソウルの地下鉄のように、業者に2倍の工事代金を払っても腹は痛まない。総括原価方式によって経費はすべて電力料金として利用者に転化される。甘い汁-原発マネーの負担はすべて国民が負う構図だ。
 韓国の朴正熙大統領には政権維持のために、また対米工作のために金が必要だった。朴正煕の裏金作りを関西電力の手法になぞらえるなら、地下鉄の水増し発注による資金が政権維持に使われたように、電力会社は原発を維持する資金を水増しによって得る。その負担は、それぞれ税金であり、電力料金という違いだけだ。

<窮地の原発>
 原発の危険性と不経済性は今や常識となった。それでも、「原発は安全、放射能も安全」「甲状ガンと福島事故は関係ない」「CO2対策に原発が必要」などという馬鹿げた主張が後を絶たない。この悪あがきはもはや通用しない。それでも「裏金」作りに精を出す。窮地に追い込まれた電力会社の焦りそのものだ。電力各社は関電事件の露見に呆然自失、首都圏にある東海第二原発を再稼働させるのが「希望の星」という情けない状態だ。
 ちゃっかり50万円の背広を着てしまった人もいるかも知れないが、原発にこだわり、政界や学会に資金をつぎ込む資金作りの一端が見えた。
 関電の第三者委員会には期待はできない。関電経営者が選んだ委員会は第三者ではあり得ない。マスコミの頑張りに期待したいところだが心もとない。人間を不幸にする原発社会を変える粘り強い運動を続けていく道を私は選びたい。
 9月16日、代々木公園の「さよなら原発集会」の会場で元首相の菅直人さんと話をする機会があった。彼はお孫さんを連れての参加だった。政治家として原発の危険性を見抜けなかった不明を恥じ、反原発への熱い思いを率直に語ってくれた。かつての民主党政権に言いたいことはいっぱいあるが、「事故当時、首相が麻生や安倍でなくてよかった」という私の感想から、事故当時の状況に話が及んだ。次の世代のために「このままでは死ねない」。共通する思いをふたりで語り合った。
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 菅さんは会場で発言者の訴えに熱心に耳を傾けていた。最近、彼の原発に対する積極的な発言がSNSで発信され、話題を呼んでいる。 

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