2019.11.06 人生の贈り物   詩 楊姫銀(ヤン・ヒウン) 訳 小原 紘
韓国通信NO619

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

♪ 春の山に咲く花が そんなにも こんなにも美しいとは
この歳になるまで 本当に知らなかった
もしも誰かが 私の人生の歳月を返してくれると言っても
笑いながら 静かに「結構よ」と云うつもり
先の見えない 霧雨のような若さなら
考えただけでも 大変だから 今の方がずっと好き
それが人生という秘密 それは 人生が与えた うれしい贈り物

♫ 春の山に咲く花が そんなにも こんなにも美しいとは
この歳になるまで 本当に知らなかった
私の人生という花がすべて咲き また 散ったその後に
初めて 私の心に ひとつの花が入って 咲いていた
ベンチに座って 何も語らず 頷きながら
私の心がわかってくれる友がひとり ひとりでもいたなら
ただ座って 何も語らず 沈む太陽を
一緒に眺めてくれる友がいるなら それ以上 望むことはない
それが人生という秘密 それは人生が与えたうれしい贈り物   <ヤン・ヒウン>

韓国通信619(1)
https://www.youtube.com/watch?v=UxFX-IoHjRQ  集会で「朝露」を歌うヤン・ヒウン2016/11/26

 高校時代の同級生8人と栃木県益子へでかけることになった。それも一泊旅行だ。
 これが「最期の旅行になるかも…」という幹事のつぶやきを聞いて、『人生の贈り物』という詩が思い浮かんだ。
 花の美しさに気づき、友への感謝と自分の人生へのいとおしさが静かに語られる。
 旅行には、2011年の災害に見舞われた福島の同級生が参加するし、今回の水害で大きな被害を蒙った千葉からも二人が参加する。参加者はそれぞれこの詩のように人生を語るのかも知れない。

 詩を作ったヤン・ヒウンさんは、1970年代の韓国の民主化運動で『朝露』を歌った反体制歌手として知られる。詩は彼女の歌手生活のエンディングを思わせる内容だが、実はそうではなかった。各地のローソク集会に参加して精力的に歌い、市民たちを感動させた。「若さはいらない」「沈む夕日を一緒に眺めてくれる友がいればいい」と人生をまるで達観したようでいて、社会変革の先頭に立つエネルギーに溢れた67才。
 有名な観光地はいくらでもあるのに、なぜか益子。「水先案内人」に指名されたのをいいことに、益子の「二つの美術館」を案内することにした。旅の終わりに真岡鉄道のSLに乗って少年少女時代に帰る。「人生の贈り物」になるかも知れない。

益子 二つの美術館
濱田庄司記念益子参考館 公開1977年
 濱田庄司(1894~1978)の自宅を活用、生前蒐集した陶磁器、漆器、木工、金工、家具、染織などが展示されている。展示品は国内、朝鮮、中国、中近東、ヨーロッパ各地、年代も多岐にわたる。住居、工房、登り窯から生前の民藝作家の生活ぶりがうかがわれる。
 濱田庄司を知るうえで柳宗悦、河井寛次郎、バーナード・リーチらとの交友を欠かせない。
 特に柳宗悦の民藝運動(白樺派文学にもつながる)に共感し、民の工芸に敬意を抱き続け、ともに「親しさのある美」と「心」を追求した。
 濱田は柳亡き後、日本民芸館の二代目館長に就任。二人は終生、民藝運動の同志だった。

韓国通信619(2)
 写真/左から濱田庄司 柳宗悦 河井寛次郎

関谷興仁陶板美術館「朝露館」 公開2016年
 陶芸家関谷興仁(1932~)が自身にとって大切な記憶を彫り続けた陶板作品を展示。テーマは「済州島4.3事件」「広島・長崎」「福島」「チェルノブィリ」「ホロコースト」「中国人強制連行の記録」など、無辜の死を迎えた、名も無い民への鎮魂、「悼」である。
 作家の執念が周囲の人たちの協力で実を結び、異色の美術館として3年前に一般公開。
 「温故知新」、静寂のなかに記憶と未来を語り続ける。また夫人の石川逸子の詩集『千鳥ケ淵へ行きましたか』の作品コーナーもある。
 常設展示の他に企画展、講演会、音楽会、映画会など多彩なイベントが取り組まれ、地域交流の拠点になっている。

 民が作りだす美を極上とし、優劣と偏見のない世界、互いの価値を認め合い、争いと無縁な世界を目指した民藝運動と朝露館が現代社会に問いかけるものに変りはない。ここへ若者ととともに訪れ、過去と現在、未来を語る有意義な時間を過ごしてほしい。

 運営は東京と地元のボランティア、財政は100名を超す会員の会費と入館料で支えられている。春秋の陶器市で賑わう益子に誕生した美術館は、参考館から徒歩でわずか数分のところ、林に囲まれた静寂のなかに佇む。朝露館のホームページは http://chorogan.org/
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