2019.11.15 トランプ大統領、IS壊滅の同盟者クルド人を裏切る
NYタイムズの調査報道(3)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 米国がシリアでISと戦うために、地上作戦を担う主力友軍として引き込んだのが、クルド人武装組織。「イスラム国」(IS)がシリア北部の都市ラッカを占領して首都と宣言した2014年だった。シリアのアサド政権は2011年から始まった民主化勢力の鎮圧で精一杯。そこにイラクを追われたバグダーディを最高指導者とする「イスラム国」がシリア北部に拠点を拡げつつあった。
 オバマ政権下の米国は、シリアの民主化勢力を支援するとともに、「イスラム国」の拡大を強く警戒、アラブ諸国の協力を得て、「イスラム国」への爆撃を始めた。しかし、シリア人が住民の都市や村を爆撃することはできず、「イスラム国」の拡大が防げなかった。強力な地上作戦が必要なことは明らかだった。米国は地上作戦を担う部隊として、クルド人武装勢力への働きかけを開始した。
 2011年から始まったシリア内戦にクルド人勢力はほとんど関わらず、北部の事実上の自治地域への「イスラム国」の拡張を防いでいた。クルド人住民は自衛組織を強化、最高指導者アブディの下、2015年にシリア民主軍(SDF)と改称、クルド人を主力に、キリスト教徒、アラブ人その他のシリア人も参加して、「イスラム国」との戦いを展開した。こうして「イスラム国」との地上戦はSDF,空爆が米軍主力にアラブ諸国、少数ながらNATO諸国の空軍も参加して、形勢を逆転、「イスラム国」を次第に追い詰め、今年3月、最後の支配地を壊滅した。残党は主にイラクで地下に潜行しているほか、リビアはじめ他国で小グループがいる。

 以下に、MYタイムズの調査報道の最後の部分を紹介しようー
 SDFの最高指導者アブディは、米国が彼の人民の安全を保障すると信じた。連携関係は堅いように見えた。米国は最も神経を使う作戦―バグダーディ狩り作戦への協力を求めた。
 米当局がバグダーディの隠れ場所とみなした家屋を、シリア北東部のイドリブ県に発見、クルド人勢力が情報員たちを派遣して、その家を監視した。アブディ氏とクルド人情報機関幹部によると、その家に何室あるか、だれがいるのかを確認、地下にトンネルがあることまで突き止めた。最後に攻撃を受けた最中、バグダーディは3人の子供たちと地下トンネルに入り、子供たち全員と自分を殺した。
 監視中、クルド人情報員たちは、バグダーディのボクサー・シャツを盗み、血液型を判定するサンプルを得た。アブディ氏は「情報作業だった」と言っている。DNA検査でバグダーディだと確かめたあと、アブディ氏の情報員たちは米国がバグダーディを捕まえるよう、監視を続けた。

 「俺たちをだましたな!」
 10月6日、トランプ氏がエルドアン・トルコ大統領との電話で、トルコ軍が米国のシリアのパートナー、SDFを越境攻撃しようとしているシリア領内の経路から、米軍を撤退させ始めたことを告げたとき、クルド人たちはバグダーディの隠れ家の襲撃を遅らしていた。アブディ傘下のクルド戦士たちが、トルコ軍との戦闘に備えて移動したからだった。一部の米当局者たちは、クルド人たちが防衛体制を解いたところをトルコ軍が攻撃することを非常に恐れていた。クルド武装勢力のアブディ司令官は「俺たちをだましたな!」と米当局者たちに叫んだ。
 クルド人当局者たちはシリア政府に支援を求めた。しかし、取引ではなく、冷たい交渉になった。アサド政権側の“裏切り者め”という感覚は、クルド人だけでなくシリア北東部の多くの人々に向けられている。そこの人々は、米国によって守られていると感じる一方、トルコとアサド政権の軍隊を恐れていた。(続く)

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