2019.12.18 記憶と反省と想像 (2)
韓国通信NO622

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

<ローソクで変わった韓国社会>
2016年10月に始まった民衆蜂起によって現職大統領が弾劾、罷免(2017/3/10)、逮捕され、新大統領が選出(同年5/9)された。それは歴史上稀に見る「民主革命」だった。
手許にある写真集『ローソク革命』(2017/10/29刊)を開くと当時の熱気と感動が生々しく伝わってくる。何て凄いことが起きたのだろう。
ローソクデモとは何だったのか。何が変わり、何を変えようとしているのか、あらためて振り返る。それを抜きに韓国社会は理解できない。

<国の主人は私たちだ>
「主権在民」といっても日本ではピンとこない人が多いらしい。安倍首相も主権は「ソーリ」にあると思っている、、ふしがある。選挙の低投票率からもわかるように国民と政治の距離は遠い。不満があっても政治には期待しない。韓国の人たちが以前から主権在民を強く意識していたとは思えないが、韓国の憲法第一条第二項 「主権は国民にあり すべての権力は国民に由来する」は誰でも知っている。天皇から始まる日本国憲法にくらべてとてもわかりやすい。デモや集会ではいつもの憲法第一条が叫ばれてきた。
「私たちは大韓民国の主人公だ !」。
ローソクデモですべての国民の確信になった。
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<史上初、 国民の意思で大統領を変えた>
約半年の間に23回の集会が開かれ、延べ1,685万人が参加したと写真集で説明されている。一日の最大参加者は232万人(ソウル170万 全国62万 2016/12/3)。毎週土曜日、光化門広場では100万人規模の集会が凍てつく寒さの中で開かれた。憲政史上最低の大統領支持率4%。弾劾決議に与党議員も参加。否認の可能性があった憲法裁判所では8名の裁判官全員が弾劾に賛成し国民の意思に応えた。検挙者ゼロ、死者ゼロ。非暴力に徹した壮大なドラマが生まれた。参加者一人ひとりがドラマの主人公だった。大統領の不正に対する民衆の怒り、国政の私物化は許さない。彼らは見事に「国の主人公」であることを全世界に立証して見せてくれた。

<新大統領のもとで始まった新しい政治>
わが国ではローソク革命後の韓国社会の変化はあまり知られていない。人口5千万人ほどの、日本から見れば小さな国で起きた「民主革命」に関心を持つ人は少ない。明治以降の日本社会はアジア軽視、見習うべきは欧米と思い込んできたからかも知れない。
新政権は「ローソク」から誕生した。所得格差の解消、仕事を求める声。労働組合をはじめとする反対勢力の弾圧、報道、教育に対する干渉、原発推進、環境破壊に対する前政権に対する広範な市民の怒りと不満があった。「セウォル号事件」「従軍慰安婦問題」の解決を求める声も巷にあふれた。さまざまな国民の期待に応える使命を負った新政権の出現だった。

新政府は民主的な政治の実現を柱に、次のような公約をしている。
①政治がもたらした弊害を改める(積弊清算)。権力によって苦しめられた済州島4.3事件、光州事件、朴正煕、全斗愌時代の弾圧事件等の解明と名誉回復。李明博・朴槿恵政権下の数々の不正疑惑の解明が約束された。
②北との和解による民族分断の克服と平和社会の実現
③所得格差解消-最低賃金の引き上げ、税負担の公平化、経済成長より分配を重視する社会。財閥企業中心の経済から中小企業重視育成
④福島原発事故を教訓としたエネルギー政策の転換。脱原発
⑤大統領の権力集中を改める憲法改正
⑥政治に過度に干渉する検察制度の改革
⑦安全保障政策の抜本的な見直し
など画期的な政策を課題とした。
ローソクによって生まれた新政府は、これまで押さえつけられてきた人たちに自由に発言し行動する空間を与えた。女性に対する差別♯MeToo運動は、家父長的な韓国社会に不満を抱く女性たちによって、かつてない盛り上がりを見せている。チョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が大きな反響を呼び日本でも話題になった。かつて「通信」で紹介した女子高校生がソウルのど真ん中で訴えていた国定教科書制も吹き飛んだ。

<日本人として学ぶこと>
大きな期待を託された新政権だが、内政・外交とも問題は山積である。失敗をひそかに期待する韓国内の守旧勢力とそれと同調する一部の国外勢力もある。
公共放送二社KBS・MBCの改革が進む一方で、保守派の新聞「朝鮮」「中央」「東亜」は息を吹き返したように、政権に対して連日のように集中砲火を浴びせている。その主張は旧朴槿恵派右翼政党「ウリ共和党」が現政権を「左翼独裁」と口汚く批判するのに通じる報道ぶりだ。
翻って日本の韓国報道は「朝・中・東」を下書きにしたと思われる記事が実に多い。共通するのは冷戦思考から抜け出せず、新自由主義経済の行き詰まりを理解していないこと。それは今回のGSOMIA報道と文在寅政権批判によく表われている。これでは韓国社会、文政権に対する理解は歪むばかりだ。
私の韓国とのかかわりの原点は日韓の市民がお互いに学ぶべきものは学ぶ、市民の交流を通じて双方の市民社会の発展に生かそうという立場だ。
日本のマスコミがしきりに報じる「窮地に追い込まれた文政権」「支持率低下」などと余計な心配はしない。「改ざん」「嘘」「私物化」が横行する日本のほうが韓国よりずっと心配だ。
12月3日、「アベ政治を許さない」「原発反対」のプラカードを掲げてサンタ姿で駅頭に立った。韓国のローソクデモが脳裏に浮かぶ。首相の「桜を見る会」。来年の桜が咲くころは安倍首相が散ることを期待して…。とにもかくにも日本社会の大掃除が必要だ。
駅前宣伝行動に仲間がひとり増えた。とてもウレシイ。
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