2020.01.18 ほんとうに大丈夫なのか?オリンピック輸送問題
ほんとうに大丈夫なのか?オリンピック輸送問題

          ドライバーの労働環境は既に限界

杜 海樹(フリーライター)

 東京オリンピックを目前に控えても各種交通機関が滞りなく機能するかどうかの懸念が続いている。特に選手村などが設置される臨海部は公共交通機関自体がそもそも少ないところであり問題が指摘され続けて来てきたところであるが、今日に至っても問題が克服されたという話は耳にしていない。
 
国や東京都は、首都高速道路では1日あたり約7万台の交通増が見込まれるとして、関係各位に対してオリンピック期間中の交通量削減に向け協力を求める文書等を発出し、臨海部混雑マップなどを示してはいるが、お願いされただけで削減できるような余裕のある経営をしている企業がそうあるとも思えず、この先一体どうなるか非常に気になるところだ。何しろ、臨海部の交通が麻痺してしまえば、オリンピックの運営だけではなく、東京港からの食糧輸送、郵便配送や各種宅配配送、企業や工場への輸送等々に深刻な影響が出ざるを得ないからだ。
 
そもそも、臨海部の混雑は東京オリンピック時の混雑という問題以前に慢性的な渋滞問題として長い間黙認されてきた経緯の上にあるということは知っておきたいところだ。東京一極集中が進む中、東京港においても十分な待機スペースがあろうはずもなく、コンテナ船などの大型船が着岸すれば幹線道路もトレーラートラックで溢れかえり微動だにしない状況が長い間続いて来た。そして、大渋滞が発生する度、問題として取り上げられては来たものの、ピークが過ぎれば、喉元過ぎれば熱さを忘れるごとくに問題が先送りされ続けてきた経緯がある。
 2018年上半期の東京港のコンテナ取扱個数は244万TEU(TEUはコンテナを数える単位。1TEUは長さ20フィートのコンテナ1個分を指す。最近は長さ40フィートのコンテナが主流となっているため2TEUがコンテナ1個分である場合がほどんど)を数えており、これを1日分に換算すると概算で6777個のコンテナを東京港で取扱う計算となる。時間に換算すれば12.7秒に1個の割合でコンテナを運んでいかないと追いつかない計算となっている。さらには、都も施設容量の不足を認めているところであり、新たな車輌待機場の整備、ターミナルの整備、埠頭の再編等を推進するとはしているものの、現状に全く追いついていないのが実態となっている。
 
東京港臨海部で輸送に携わっているトレーラードライバーは渋滞で数時間待たされるのは常であり、長いときは7時間も8時間も路上で渋滞のまま待たされ、朝に並んで夜まで待たされるといった悲惨な状況にもおかれている。混雑時には主要道が完全に機能停止となってしまうのだ。そして、路上にはトイレも売店も何もないことから、ドライバーはペットボトルを尿瓶代わりに持参したり、オムツをして乗車するなどの状況に追い込まれてもいる。
 もちろんこうした状況が労働基準法を満たしている訳は全くなく、業界紙である物流ニッポンは、2017年実績で、トラック運送事業所の内の84%が労基法違反、69%が自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)にも違反だと報じている。自動車運転者の労働時間等の改善のための基準は、1日の拘束時間は最大で16時間までが限度(一般のサラリーマンで例えれば9時に出勤して深夜1時まで拘束できるというような長時間拘束が認められる)、1年間の拘束時間は最大で3516時間が限度等々と極めて緩い基準となっているのだが、この緩い基準すらも守れていないのが実態となっているのだ。
 
2020年現在、厚生労働省内には委員会が設置され、過労死防止の観点から、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の見直し作業が始まっているが、まだまだ改善の道は遠いというのが実態となっている。
 こうした厳しいトラックの現実の中に東京オリンピックの輸送問題が割って入って来た訳なのだ。臨海部の渋滞問題は小手先の回避策では到底対応できるものではないであろう。臨海部周辺で働くドライバーは、既に労基法違反の長時間労働で首が回らない状況にある。オリンピックからパラリンピックまでを考えると約1ヶ月の期間があり、その間、通常の生活に必要な物流を止めることなく、オリンピックの輸送を本当に行えるのであろうか?
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