2020.01.20 京都市長選始まる (1)
            京都市長選始まる(1)
       国政と地方政治は違うという〝オール与党〟の究極のご都合主義

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 新春早々、1月19日(日)から京都市長選が始まった。選挙期間は2週間の短期決戦、2月2日(日)が投開票日だ。選挙戦は、自民・公明・国民・立憲・社民5党が「オール与党=与野党相乗り」で推薦する現職候補・門川大作氏、共産・れいわが推薦し市民が支援する革新系候補・福山和夫氏、そして地域政党候補・村山祥栄氏の三つ巴合戦となった。このところ京都では、オール与党の非共産系候補と共産系候補が対決する「2極選挙」が続いてきたが、今回は地域政党候補が参入することで久しぶりに「3極選挙」となったのである。

市長選の告示日を1週間後に控えた1月12日(日)、国立京都国際会館のホールで門川氏の4期目当選を目指す「未来の京都をつくる会・総決起大会」が開かれ、壇上には西田自民党京都府連会長(参院議員)、竹内公明党京都府本部代表(衆院議員)、前原国民民主党京都府連会長(衆院議員)、福山立憲民主党幹事長(参院議員)、伊吹元衆院議長(衆院議員)などが勢揃いした(社民党は京都の国会議員がいない)。この5党と連合京都がオール与党体制を組み、財界や業界団体と結束して現職候補の必勝を期して決意表明したのである。

西田氏(自民)、竹内氏(公明)をはじめ、前原氏(国民)、福山氏(立憲)が異口同音に強調したのは、投票率の低下によって現職候補の票が減ることの危険性だった。門川氏が当選した過去3回の市長選は、オール与党会派の自民・公明・(旧)民主・社民4党(今回は民主が分裂したので5党)が、財界や業界団体、町内会団体などと共に「市役所ぐるみ」で選挙母体を組み、連合京都の組合員や創価学会会員などを総動員して戦われてきた。これだけの陣容で臨んでいるのに、彼らはなぜ投票率の低下を懸念するのか。

京都市の有権者数は、2019年12月現在117万2千人(男性54万7千人、女性62万5千人)、過去3回の門川氏の得票数・得票率は、2008年15万8472票(36.7%)、2012年18万9971票(45.3%)、2018年25万4545票(62.5%)と回を重ねるごとに票を伸ばしてきた。この調子だと今回も大丈夫だと考えても不思議ではないのに、「かってないほど厳しい!」と言うのである。その背景には、従来の「2極選挙」が今回は「3極選挙」に変化したことがある。門川氏が初出馬した2008年市長選は、門川(オール与党)、中村(共産+市民派)、村山(第3極)の三つ巴の戦いとなり、第3局の村山氏が8万4750票(得票率19.6%)を獲得した結果、門川氏15万8472票(同36.7%)、中村氏15万7521票(36.5%)とその差は僅か951票(同0.2%)に接近した。まさに〝薄氷の勝利〟だったのである。

西田自民京都府連会長は、この時の「951票」という数字を大声で連呼し、「投票率を上げなければ勝てない!」と会場の参加者に何度も檄を飛ばした。「40%台」に乗せれば勝てるが「30%台半ば」では危ないと言うのである(投票率35%で41万票、40%で46万9千票)。過去3回の市長選投票率はオール与党(彼らはこれを「オール京都」という)で臨んでいるのに、投票率は2008年37.8%、2012年36.7%、2016年35.8%とじりじりと下がってきたので、このままの調子で下がると革新票の比重が増し、現職候補が危ないと言うのである。

 竹内公明京都府本部代表は、オール与党で市長選を戦う理由を「地方分権の時代に中央のイデオロギー抗争を持ち込む方がおかしい。地方政治は住民の福祉向上のためにある」という(京都新聞1月13日)。しかし、現実はどうか。目下、国政の争点となっている原発再稼働、沖縄軍事基地拡充、社会保障制度再編などは、全てが安倍政権の中央イデオロギーがそのまま地方政治に持ち込まれた結果であり、自公連立政権が地方自治・地方分権を踏みにじっているのである。

 前原国民京都府連会長は別の理由を上げる。「門川市長に立候補を要請したのは旧民主党で、製造者責任がある。安定のため一部の党を除きオール与党化するのはどの自治体でもあり、批判には丁寧に説明していく。ポイントは多選の是非だが、党の市議の評価を尊重する」(同上1月12日)というものだ。だが、旧民主党が門川氏を推薦した本当の理由は、長年にわたって京都市政を蝕んできた同和行政をめぐる利権を維持するためだったのではないか。旧民主党や連合京都が部落解放同盟の要求実現団体として終始活動してきたことは紛れもない事実であり、そのことが国民民主党と立憲民主党に分裂したいまでも、彼らがオール与党の1員として動いている背景でもある。

一言で言えば、彼らがオール与党で市長選を戦うのは、現職候補が落選すれば「市役所利益共同体」が崩壊するためである。自民党はオール与党体制のもとでは市政のうまみを独占することができないので時折「多選の弊害」を口にするが、その他のオール与党にとっては「現職の多選」は利益確保のための不可欠の条件となっている。市役所利益共同体を維持するために「多選=従来体制の維持」にこだわり、勢揃いで選挙戦を戦うのはそのためだ。しかし、有権者を前にこんなことを有体に言うわけにはいかないので、表向きは上記のような各党各様の発言となる。

 問題は、立憲民主党幹事長である福山氏の動きだろう。「未来の京都をつくる会・総決起大会」から2日後に共産党第28回党大会が開かれ、大会第1目の様子を伝える「赤旗」には、野党各党代表の挨拶が大きく掲載されている。その中で私が注目したのは、国民民主党は平野幹事長、社民党は吉川幹事長が挨拶しているのに、立憲民主党はなぜか福山幹事長ではなく安住国対委員長が挨拶していることだ。

 それはそうだろう。福山幹事長はその2日前の京都市長選のオール与党決起集会に立憲民主党を代表して参加し、自民党国会議員と並んで現職候補に檄を飛ばしていたのである。立憲京都府連は昨年12月8日、国民京都府連に続いて現職候補の推薦を決めたが、福山氏は同日、立憲京都府連会長を辞任している。各紙は「党務に専念するため」とその理由を伝えているが、実のところは国政では野党共闘を進めているのに、京都では自公両党の推薦する現職候補を応援することへの支持者の反発が強いので(立憲市議の1人がすでに離党している)、京都から「逃げた」のではないかと言われている。

それでいて、福山氏は立憲民主党幹事長という党務に専念すべき要職にありながら、京都市長選のオール与党決起集会には「党務」を放棄して駆け付けているのだから、こちらの方の絆がよほど太いのだろう。権謀術数が渦巻く京都では、このように国政と地方政治の「ねじれ」が普通になっているが、これでは国政と地方政治の「ねじれ」のどちらが本筋なのか分からない。国政では自公与党と「対決」しながら、京都では自公両党と平気で手を組むような政党には信頼が置けないと誰もが思っている。この政党の立ち位置がいったいどこにあるのか、その正体がよく分からないからである。

 京都市長選の投票率低下の原因はもっと別の所にある――と私は考えている。「未来の京都をつくる会・総決起大会」の光景がその証明だ。2000人を超える参加者のほとんどが中高年男性で占められ(黒一色の光景!)、女性が1割にも満たなかった。有権者の過半数(京都市では53%)が女性なのに、それが1割にも満たない選挙集会なんて今まで見たことも聞いたこともない。考えられる理由は、1つは自民党の支持基盤である地域婦人連合会(現在は地域女性連合会)に若い女性たちが加入しなくなり、動員が利かなくなったこと。もう1つは、公明党選挙部隊の中核である創価学会婦人部の姿が見られなかったことだ。それに動員された連合系の組合員も男性がほとんどで、女性の姿はなかった。

 選挙集会に女性の姿が見られない、ということの意味は大きい。自公両党の支持基盤である地域婦人会会員や学会会員が高齢化し、選挙活動や投票動員が思うようにならなくなってきているという年齢要因もあるが、それ以上に市長選ごとに繰り返される「オール与党選挙」に対する政治不信が大きく、嫌気がさしてきているのである。これでは幾ら動員をかけても投票率は上がらないし、候補者に対する支持も広がらない。それでもオール与党候補の現職が勝つという現状をどう打破するのか、その回答が求められている。

 勝敗の帰趨は、やはり投票率の動向にあることは間違いない。だが、「投票率が上がれば現職候補が勝てる」という西田氏の情勢分析は誤りで、私は逆に「投票率が上がれば革新系候補が勝てる」と考えている。問題は投票率がどれだけ上がるかだろう。理由は、立憲支持者など革新系市民の中に「現職離れ」の兆候が見られることであり、これに無党派層の流れが加わると一挙に形勢が変わる可能性があるからだ。

この点で、「れいわ」が福山氏を推薦した影響が大きいと思う。れいわは山本代表が福山氏の応援演説に入り、大型宣伝車を走らせるなどすでに選挙活動を開始している。これに福山陣営の労組や団体の活動が本格化すると、思いがけない相乗効果を発揮することも考えられる。投票率が40%台に乗るようであれば、これは保守派の動員の影響によるというよりは、むしろ革新系の動きによるものと考えるべきだろう。どれだけ革新系市民の浮動票を掘り起こせるか、ここに福山氏の勝利が懸かっていると言っていい。(つづく)
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