2020.02.07  京都市長選終わる
          現職 当選はしたけれど...
          立憲・国民支持層に見放された「オール京都・ワンチーム」


広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 2月2日に投開票された京都市長選は、国政与野党5党相乗りの現職・門川大作氏が21万票640票(得票率45.1%)を得て4選を果たした。しかし、新人で弁護士の福山和人氏(共産・れいわ推薦)は16万1618票(同34.6%)、新人で元市議の村山祥栄氏9万4859票(同20.3%)を獲得し、新人票を合わせると54.9%となり現職票45.1%を約10ポイント上回った。

 今回の市長選の最大の特徴は、過去半世紀にもわたって続いてきた京都府知事選・京都市長選の「オール京都=国政与野党5党相乗り体制」がいよいよ終焉の時を迎えたということだろう。直近の2019年参院選における京都市内の比例代表得票数・得票率をみると、「オール京都」は自民14万6428票(28.7%)、公明6万1894票(12.1%)、立憲7万4102票(14.5%)、国民1万9940票(3.9%)、社民4534票(0.9%)、計30万6898票(60.2%)と有効投票数の6割を占めている。これに対して対抗勢力は、共産9万6883票(19.0%)、れいわ2万9656票(5.8%)、計12万6539票(24.8%)の少数派で、「オール京都」とは倍以上(2.4倍)の開きがある。なお、市長選に参戦しなかった維新は5万8382票(11.7%)、諸派は1万7621票(3.5%)だった。

 このように、19年参院選では得票率6割を占める「オール京都」の現職が45%しか得票できず、革新系・無党派系新人候補の55%に遠く及ばなかった。結果として、選挙は勝ったけれども与野党相乗り5党体制は機能不全に陥り、事実上崩壊したと言ってもよい。このことは、京都新聞・毎日新聞・共同通信が協力して行った出口調査によっても確かめられる。支持政党別の投票先をみると、相乗り候補の現職に対して自民支持層の7割、公明支持層の8割強が投票しているのに対して、立憲支持層は4分の1、国民支持層は3分の1しか投票していない。社民支持層に至ってはゼロなのだ。

 今回の市長選では(でも)福山哲郎立憲幹事長や前原誠司国民府連代表は、「オール京都」の1員として奮戦した。要職にありながらしかも国会開催中にもかかわらずトンボ返りで応援演説に駆け付け、陣営の引き締めを図った。前原氏などは「自分は『非自民非共産』を信条とする〝リベラル保守〟だ」と自称しながらも、「非自民」の方は臆面もなく投げ棄て「非共産」の先頭に立った。福山氏は、「大切な京都に共産党市長『NO』」の反共新聞広告に「違和感」を感じただけで事前事後も何ら対応しなかった。両氏とも「反共」の母斑が付いているのか、京都では生き生きと「オール京都」の1員として活躍するのである。

 だが、福山・前原両氏が先頭に立って現職支持の旗を振ったにもかかわらず、立憲・国民支持層の大半はソッポ向いて対立2候補に投票した。この傾向を最もビビッドに示すのが、左京区と東山区の選挙区だ。左京区は大学関係者が多く従来から革新票の多いことで知られるが、今回の市長選では投票率が前回2016年39.49%よりも8.7ポイント上昇して48.21%になり、市内最高を記録した。得票数は、福山2万2558票(37.4%)でトップ、門川1万9159表(31.8%)で第2位、村山1万8091票(30.0%)で第3位となった。支持政党別投票先のデータはないが、この得票分布からして立憲・国民支持増のほとんどが福山・村山候補に投票したことはほぼ間違いない。

 清水寺や祇園がある京都観光の中心地、東山区ではどうか。ここでも投票率が前回35.24%から41.77%へ6.53ポイント上昇し、門川5093票(41.1%)に対して福山4493票(36.2%)と肉薄した。福山・村山票を合わせると7128票(57.5%)となり、門川票5093票(41.1%)を大きく上回った。東山区の市会議員は自民・国民2人で共産はいない。2人の市議に応援される現職候補が圧倒的得票して当然なのに、なぜ福山候補がこれほどの差にまで詰め寄ったのか。言うまでもなくその理由は、東山区全体を覆うオーバツーリズム(観光公害)に対して門川市政が取るべき対策を取らずに「まち壊し」が進み、「子育て環境日本一」を自画自賛する門川市政のもとで、東山区の出生率が〝全国市区町村ワーストワン(最下位)0.77〟(1人の女性が生涯0.77人の子どもしか産まない、産めない)の状態から脱出できないからだ。

 2月2日投開票日の翌日、各紙のニュースを読み比べてみた。地元紙の京都新聞が特大の紙面を割いて詳細に報道したほかは、あまり見るべき記事がなかったというのが率直な感想だ。そんな中で目を引いたのが、「現職への批判 2人に分散」とする朝日新聞の解説だった。短いコメントだが簡にして要を得ている。そのまま再録しよう。
 ―現職の4選による「安定」を選ぶのかが問われた京都市長選。投票率は前回から約5ポイント上がった。安定ではなく「停滞」ととらえた有権者が、批判票を投じた結果だろう。門川氏に対する厚い信任とは言い難い。現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因だ。これまでの京都市長選は「非共産対共産」といった党派の動きを中心に語られることが多かったが、今回は「現職支持対現職批判」の票の奪い合いだったお位置づけられそうだ。
 ―門川市政3期12年の間に京都の街は大きく変わった。観光は京都の大きな魅力だが、足元では「観光公害」と呼ばれる問題が顕在化している。歴史ある景観を含む観光資源と、住民の暮らしをどう調和させるのか。少子高齢化や厳しい財政事情にも対応が必要だ。門川氏は「オール京都で京都を前へ前へと進めていく」と唱え続けた。「オール」にどれだけの市民を巻き込むことができるのか。4期目の「挑戦と改革」の真価が問われる。

 私は、朝日解説の中の「現職」を「現体制=オール京都」と読み替えれば、今回の京都市長選の全てが理解できると思う。「現職=門川市長」は「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り」の単なる利益代表にすぎず、有権者の一部が「オール京都」の代表と錯覚しているだけの話なのだ。事実、今回の市長選における現職候補得票数21万640票は、有効投票数46万7117票の45%に過ぎず、対立2候補の得票数25万6477票を4万5837票も下回っている。「現職支持票」よりも「現職批判票」の方が多いのであり、しかも「現職批判票」が過半数を占めているのである。

 この点で、「現職への批判票が新顔2人に分散したことが、門川氏の最大の勝因」だとする、朝日の指摘は的を射ている。また、これまでの京都市長選が「非共産対共産」といった党派的文脈で語られることが多かったのに対して、今回の市長選の対決軸は「現職支持対現職批判」だとする分析視角も優れている。このような分析視角でなければ、なぜ立憲支持層の4分の1、国民支持層の3分の1しか現職候補に投票しなかったのか、その理由を解明できないからだ。要するに、福山立憲幹事長や前原国民府連代表がいくら「非共産対共産」の文脈で反共ムードを煽ろうとしても、支持者たちは「現職支持対現職批判」の視点すなわち「現体制=オール京都=国政与野党5党相乗り批判」の立場から投票したのである。

 門川市長は4期目を「挑戦と改革」の気概で乗り切ると表明した。だが、門川市政の前途には観光公害ならぬ「観光地獄」というべき事態が待ち構えている。自らが煽りに煽った市内の宿泊施設拡大政策が、いまや「飽和状態」から「過剰状態」に劇的に変化しつつあるからだ。わけても中国新型コロナウイルス肺炎の影響は大きく、このところ市内宿泊施設のキャンセルが日増しに増えている。外国人宿泊客の3分の1を占めていた中国人観光客の激減が、京都観光に与える影響は計り知れない。「ゴーストビル」ならぬ「ゴーストホテル」が林立しないことを祈るばかりだ。

 また、「非自民非共産」と言いながら「非共産」に徹する前原国民民主党京都府連代表(衆院議員)も大きな打撃を受けるだろう。前原氏の選挙区は、左京区・東山区・山科区の3区にわたるが、その大票田の左京区で現職票が沈んだ影響は大きい。レームダックと化した4期目の門川市長と前原衆院議員が権力の座から滑り落ちる日はそう遠くないのである。
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