2020.03.10 世界はコロナウイルスとの戦いに共同して立ち向かおう
         
村田忠禧 (横浜国立大学名誉教授)

新型コロナウイルスの特性把握

 昨年12月末に湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス肺炎の被害は湖北省だけでなく中国全土に広がった。習近平国家主席が率いる中国政府は1月23日より武漢市と外部との交通を遮断し、総力を挙げて感染拡大阻止の戦いを展開した。しかし当初は新型ウイルスの特性をつかめていないため、手探り状態にならざるを得なかった。武漢は中国のど真ん中に位置し、交通の要衝であり、人や物の往来がそもそも盛んなうえに、春節を迎える人々の大移動が発生する「春運」と重なった。そのため武漢では爆発的に感染が広がってしまった。
 次第に明らかになったことは今回のコロナウイルスは感染力が非常に強く、症状が現れない状態でも他人に感染することや、検査結果でいったん陰性とされても、しばらくして陽性になることもある、という厄介な特性がある。また高熱が出たため大勢の人が病院に押し寄せたため、病院が感染拡大源と化してしまうこともあった。そのため医療関係者が感染し亡くなる事例も多く発生している。初動の対応に問題があったとの批判は否定できないが、残念ながら新生事物の認識は一挙に実現できるわけではなく、多くの実践の積み重ねを通して実現されるのが一般的である。

強力な指導力と中国独特の解決策

 中国政府は人口1,100万の大都市・武漢を封鎖するという前代未聞の作戦を展開した。中国にはある地方が災害等の重大な困難に直面した時、人民解放軍を素早く投入して処理にあたるとともに、全国が競うように分担して支援する「対口支援」という解決策がある。これまでもチベット、四川大地震、新疆などの問題解決に活用されてきたが、今回も全国からの武漢市への支援とともに、専門医療体制の弱体な湖北省の武漢市以外の16の市、州に対し19の省が医療従事者や物資を支援する活動を展開した。感染者が大量に出ることが見込まれたため、火神山、雷神山という二つの専門病院をわずか15日間で建設し供用させた。素早く、集中的で強力な対応が感染拡大を防ぐうえで大いに役立ったことは間違いない。
 1月27日から2月19日までは毎日、新たな感染者が4桁台で出現していたが、2月20日以降は3桁台に収まるようになった。新たに治癒した人は2月12日までは3桁台であったが、13日以降は4桁台に増えており、2月28日の新感染者は427人、新治癒数は2,885人、新たな死者は47人である。中国を除く世界の新感染者数は1,027人で、3日連続で中国以外の国々の新感染者のほうが多い状態が続いている。(3月1日現在WHOが公表しているデータでは台湾、香港、マカオも含む中国の新感染者は579人、中国以外の新感染者は1160人、新たな死者は中国が35人、中国以外は18人とのこと)
 WHO(世界保健機関)はこの事実を踏まえ、これまで中国を危険度で最高レベルの「とても高い」としてきたが、中国以外の国々をも危険度が「とても高い」に切り換えた。中国以外の国で感染者が急増している国は韓国(3736 新586)、日本(239 新9)、イタリア(1128 新240)、イラン(593 新205)、新たにフランス(100 新43)が加わり5カ国で感染者累計が3桁以上になっている。南米のブラジルでも感染者の発生が確認されたため、五大陸すべてで新型コロナウイルス被害が発生したとなる。中国の新型肺炎との戦いを「対岸の火事」であるかのように見てきた米国でも感染者は62に及び、韓国駐留米軍にも感染者が出るという深刻な事態が発生している。米国CDC(疾病対策センター)は、アメリカでもいずれ新型コロナウイルスの継続的な感染が起きるとの見通しを表明。WHOも各国に警戒を呼びかけている。
 これまで中国の多くの工場で生産が停止し、部品の供給が途絶えたことで日本企業の生産活動に深刻な影響が生じている。ウイルスに国境はない。人間が用意するさまざまなバリケードをくぐり抜け、世界中で暴れ回っている。世界経済に深刻な影響を及ぼすものとの懸念から、株式市場も連日下落している。中国との連携を阻もうとする「デカップリング」(分断)政策が有害であり、不可能であることを新型コロナウイルスが立証している。

犠牲を少なくするために共同してコロナウイルスとの戦いに勝利しよう

 3月1日までの中国の新型コロナウイルスによる死者は2,873人に及ぶ。二カ月ほどでこれほどの死者が出るとは、人類がまさにコロナウイルスとの「戦争」状態にあることを意味している。最初の主戦場が中国。そこではまだ最終段階にいたってはいないが、最悪の状態からは脱しつつあるように見える。油断は禁物だが、4月末には制圧できるであろうとの専門家の推定も出ている。
 一方、中国以外の国々(日本を含む)はこれから拡大期に入る恐れがある。韓国、日本、イタリア、イランがまず注意すべき国々と見なされているが、他の国でも日々感染者が増えており、油断は禁物。
 中国はこれまでのコロナウイルスとの戦いで多大な犠牲を出しながら、被害の拡大を抑え込むことができるようになった。世界中から中国の奮戦にたいし、声援・支援が寄せられた。危機意識をしっかり持つとともに、この難局を必ず乗り切ることができる、という自信が共有できているから、着実に、力強くウイルスとの戦いを展開でき、一定の成果を収めることができたと言えよう。新型コロナウイルスは制御可能という事実を世界に示すことができれば、目に見えぬ敵への恐怖におののくことなく、冷静に、科学的に「脅威」に立ち向かうことができるだろう。
 中国の「成果」は数千人に及ぶ犠牲のうえに成り立っていることを忘れてはならない。犠牲を可能な限り少なくするためには、第一主戦場で戦いつつある中国の成果と教訓を全世界に公開し、共有することが大切である。もちろん「成果」の共有化は引写しであってはならない。それぞれの状況に応じて適切に調製される必要がある。同時に「成果」の共有化はもちろん必要だが、失敗の事例とそこから得た教訓を隠さず公開する必要がある。未知の世界を開拓する時に連戦連勝は不可能である。敗北や失敗を恐れず、それを直視し、再び同じ失敗を繰り返さないよう努力することが重要である。真の勇者は敗北を直視することから生まれる。

<村田忠禧氏>むらた・ただよし。東京大学教養学部助手、横浜国立助教授、教授をへて、横浜国立大学名誉教授。神奈川県日中友好協会副会長。日本現代中国学会・全国理事。専門 中国現代史、現代中国論、日中関係論



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