2020.03.27 ヤマアラシに見習い猫に学ぶ
           私たちに本当に必要なものは何?

杜 海樹(フリーライター)

  心理学の方面で使われることも多い“ヤマアラシのジレンマ”という有名な寓話がある。ヤマアラシとは、体の大部分を鋭い針毛で覆われた小動物で、大概の動物園に行けば目にすることができる動物だ。そのヤマアラシは、冬の寒さを凌ぐ時、他の動物同様に仲間同士が身を寄せ合って暖を取るというのだが、体毛が針毛であることから、近づきすぎるとお互いを針で刺し合う結果となってしまい暖を取るどころではなくなってしまう。そうかといって離れていては寒さは防げない。ヤマアラシは近づけば痛いし遠ざかれば寒いという葛藤に悩まされることになる訳だが、次第に中間点というか双方が許容できる距離を見つけて安定していくという話だ。現在のヤマアラシはというと、お互い争うことなく針毛を折り畳んで皆仲良く並んで温々と暖まっているという。人間社会にもこうした芸当が当たり前の様にほしいところだ。
 
 かつて、宮城県石巻市沖の田代島という小さな島に“垂れ耳ジャック”という名の人気者の猫がいた。片耳がペコンと垂れていたことからそう呼ばれていた猫で、人間のアイドル歌手顔負けの人気があり、猫好きの間ではかなり名の通った猫であった。人気者の猫というと、丸々と太っていて可愛らしいとか、子猫の様に甘えてくる等のイメージで想像されるかと思うが、ジャックの場合は全く違っていた。その風貌は人気という言葉から連想するには余りにもかけ離れていて、常にオドオド、毛はボサボサ、隅っこ暮らしの毎日・・・といったとても残念な雰囲気満々の猫であった。だが、そんなジャックを人々は次々と応援したのであった。ジャックの姿は、どこか公園の片隅に佇むホームレスの様でもあり会社の隅に追い込まれた窓際族の様でもありで、存在し続けていること自体が人気の源泉であったという珍しい猫であった。人間にもジャックのような魅力がほしいところだ。

 そのジャックの棲んでいた田代島は別名“猫の楽園”とも呼ばれている猫島だ。元々は養蚕のネズミよけとして猫が飼われていたというが、次第に半野生化し、現在は漁業の守護神的存在として島の地域猫として暮らしているという。その田代島に、2011年3月11日、大津波が襲った。島は10メートル程の波にのまれたという。震災当時、島の猫たちはどうなった…という心配の声が飛び交った訳だが、何と猫たちは真っ先に高台へと走って逃げ、ほとんどの猫たちが無事だったという。断っておくが、島の猫たちに大津波の経験があるわけもなく、ましてや避難訓練など受けたことは当然ない。地震の後には津波が来るとか、高台が安全だとか誰かに教えられた訳ではない。それにもかかわらず高台へ一目散に逃げたというのだから驚きだ。人間にも猫の様な基本性能がほしいところだ。
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