2020.04.01 『それでも 蟷螂(とうろう)の斧をふりあげて』
韓国通信NO632

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

<真相は究明されなければならない>

 『それでも 蟷螂(とうろう)の斧をふりあげて』。かつて『朝日ジャーナル』に掲載された同誌の懸賞論文入選作のタイトルである。筆者の大西公哉さんは職場の先輩であり労働組合の先輩だった。
 正副委員長の解雇、組合分裂攻撃と闘った数少ない中堅役付き社員のひとりとして、また、「わだつみの会」の活動などの平和活動、また社会派の歌人でもあった。
 昇格は遅れに遅れ、非組合員になったのは定年間際。自身の経験をもとに銀行の分裂攻撃の実態を明らかにし、それに抗った自身の心情を手記としてまとめた。自分を蟷螂(カマキリ)に喩えた悲痛な叫びは後輩の私の心に残った。
 海軍兵学校出身。世渡りが不器用な大西さんは、変わり身の早い同僚たちが次々と仲間を裏切り出世していく企業社会の醜さを世に問うた。
 以下の二首は平和万葉集慣行委員会遍『平和万葉集』(1986/8/15)に掲載された大西作品だ。

 覆轍(ふくてつ)に学ばざる政党は度し難し 国家機密法を議会に出す
 <過激派>が一転し<右翼>に転ずる日の 日本にはわが生くる余地なかるべし

 稀有な職場体験のみならず、戦中戦後を生き抜いた一市民として日本の行く末に一匹の蟷螂として斧をあげ続けた。治安維持法まがいの「国家機密法案」が提出されると警鐘を鳴らし、戦中派としてのやりきれなさを「生くる余地なし」と詠んだ。

<死者の魂が蟷螂の斧となって> 
 公務員は、「全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない<憲法15条2項>」。警察官、自衛官も地方公務員、国家公務員、検事、裁判官、議員は公務員だから当然「公僕」である。
 好き勝手な振る舞い、権力を笠に着た公僕の名に値しない公務員は罷免する他ない。罷免する権利は国民固有の権利として憲法で保障されている。
 国有地の払い下げ疑惑を追及された首相が、「事実なら首相も議員も辞める」と見えを切ったばかりに、直接改ざんにかかわった地方の財務局職員赤木俊夫さんが自殺に追い込まれた(2018/3)。
 公文書改ざんという前代未聞の国家的犯罪に財務省は身内で関係職員の処分をおこなっただけ。改ざんを指示した目的と理由については明らかにしなかった。自殺した職員に対して感想を求められた首相と財務大臣は「お気の毒」の一言で済ませた。
 大阪地検特捜部が告発を見送ったため、事件の真相は闇に葬られることになった。あろうことか、改ざんを指示した佐川理財局長は国税庁長官へ栄転、その片棒をかついだ中村稔氏もイギリス公使に栄転、森友問題が表面化した直後、安倍晋三首相の妻・昭恵氏付の職員谷査恵子氏もイタリア日本大使館の職員に栄転した。醜悪の極みである。浮かばれないのは自殺した赤城さん、主権者の私たちもすっかり虚仮(こけ)にされた。
 事件から2年後の今年、自殺した赤木さんの遺族が遺言とメモを発表し、無念の死を遂げた本人に代わって提訴したことが明らかとなった(3月18日)。手記と遺書には、改ざんを指示する佐川氏に対する疑問とその苦しみが綴られている。官僚組織、国家の壁。死なずに頑張って欲しかったという思いもわく。組織のために波風を立てたくない遺族の気持ち、二年間の苦しみが痛いほどに感じられる。私がその立場だったらどうしただろうかと自問した。
 とっさに「蟷螂の斧」という言葉が浮かんだ。弱い力であってもファイティングポーズを崩さないカマキリの必死な形相が浮かんだ。蟷螂の斧は遺族によって引き継がれた。
 事件が終わっていないのを実感する。佐川氏はすべてを語るべきだ。自殺に追い込んだ人間としての最低のモラルである。首相と副総理はただちに再調査の必要はないと反応したが、疑惑の当事者にそういう資格はない。
 真の公僕であろうとして苦悶した赤木氏の思いを私たちは引き継ぎたい。孤立した蟷螂の闘いにしてはいけない。

<首相、財務大臣を罷免すべし>
 遺族が求めているのは佐川局長の指示と自殺の関係を明らかにすることだ。佐川氏が理由もなく改ざんを指示したとは考え難い。事実関係が白日の下にさらされると安倍首相は総理どころか議員辞職もしなければならない。佐川氏を利用した安倍首相は佐川氏に生殺与奪の権利を握られた構図である。ただでさえ「桜を見る会」、検事長の定年延長問題で窮地に追い込まれている首相である。真相究明を求める提訴と世論の高まりは政権に追い打ちをかけるに違いない。
 窮地に立たされた安倍首相はオリンピック開催とコロナ対策で政権の延命をはかっているように見える。政府がコロナ対策に総力をあげて取り組むのは当然のことだが、自ら招いた国民の政治不信のなか、政府のコロナ対策には不信感がつきまとう。人類の危機に対して、余計なことを考えるから対策の足元が定まらない。不純な動機に不信感は高まるばかりだ。
 森友疑惑を追及しないことを決めたNHK(元NHK記者相澤冬樹著『安倍官邸vs NHK』に詳しい)は一体どこまで安倍政権と「伴走」を続けるつもりか。連日、オリンピックの盛り上げに狂奔する。安倍首相とともにNHKも思考停止のさなかにある。官営放送、アベチャンネルと揶揄されてきたNHKもそろそろ理性を取り戻す時期に来たように思えるのだが。
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