2020.05.20 朝日・読売両紙の1面トップ記事(5月18日)にみる安倍政権の凋落ぶり

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)
              
 5月18日の朝日・読売両紙を広げて驚いた。朝日の1面トップ記事は、河合夫妻が昨年7月の参院選を控えて広島選挙区の地元議員や陣営関係者ら約30人に700万円を超す現金を持参していたことを、県議らの証言を基に詳細に報じている。自民党本部から提供された破格の選挙資金1億5千万円をフルに活用して、河合案里氏の当選のため、夫の河合克行氏が票の取りまとめを依頼するため現金をばら撒いたとの疑いだ。検察当局は立件を視野に、公職選挙法違反の買収容疑で捜査しているという。

〝うるわしい夫婦愛〟と言いたいところだが、やっていることが露骨極まりない上に、しかも汚い。いくら河合夫妻が安倍首相や菅官房長官の「肝いり」だとはいえ、公職選挙法など眼中にないが如く我が物顔に振舞うようになると、さすがの検察も黙っていられなくなったのだろう。それに国会では、検察庁法改正案の強行採決が今日明日にも迫っている(いた)。これも、安倍首相がお気に入りの人物を検事総長にするための法案だというが、元検事総長をはじめ検察ОBが多数反対意見を表明しているので、現役は張り切らざるを得ない。検察の矜持を懸けて「立件」の準備が進んでいる様子を、朝日は1面トップで伝えたのである。

加えて、河合夫妻関連記事の横に「検察庁法改正案 反対64%」「内閣支持率下落33%」という緊急世論調査結果が掲載されていることも、紙面を引き締めている。5月16、17日に行われた全国世論調査では、改正案に「賛成」は15%にとどまり、「反対」が64%に達した。安倍首相の「検察の人事に政治的な意図をもって介入することはない」との国会答弁を「信用できる」16%、「信用できない」68%が、そのことを裏付けている。また、改正案の今国会での成立を「急ぐべき」5%、「急ぐべきでない」80%も、政権の火事場泥棒的な意図を見抜いていて興味深い。

その結果、内閣支持率は前回調査(4月18、19日)の41%から33%へ急落し、不支持率は41%から47%へ急上昇した。これは、モリカケ疑惑への批判が高まった2018年3月と4月調査の過去最低31%に次ぐ低さであり、安倍政権への赤信号が灯ったことを示している。ちなみに同時期に行われたNHK世論調査でも、検察庁法改正案について「賛成」17%、「反対」62%、安倍内閣を「支持する」37%(前回39%)、「支持しない」45%(同38%)なり、「支持しない」が「支持する」を上回ったのは2018年6月以来のことだという。後述するように政権与党が検査庁法改正案の強行採決を断念したのは、NHKからのホットライン情報をはじめ、これらの世論調査結果を見ての判断かもしれない。

 一方、読売はよほどの自信があったのか、各紙に先んじてズバリ「検査庁法案 見送り検討、今国会 世論反発に配慮」「政府・与党 近く最終判断」と報じた。リード部分で「検察官の定年を延長する検査庁法改正案の今国会成立を見送る案が、政府・与党内で浮上していることが17日、わかった。野党や世論の批判を押し切って採決に踏み切れば、内閣にとって大きな打撃になりかねないためだ。安倍首相は与党幹部らと協議し、近く最終判断するとみられる」と書いているところをみると、5月17日の段階で政府筋からの確度の高い情報を得ていたのだろう。

 また、東京本社社会部長の「検察の独立性 守れるか」とのコメントも付けられ、検事総長や検事長の定年延長の特例について「検察人事の自律性を損なう恐れがある」「政権と検察の適切な距離感やバランスを崩す可能性がある」「検察が国民の信頼を得ながら、かつ公正に職務を進められるようにするためには、法案の修正もしくは検察の自律的な人事を損なわない運用の明確化が不可欠だ」との明確な態度表明もなされている。おそらく、このまま政府・与党が暴走すれば「安倍政権が危ない」との判断が社内(社主も含めて)でまとまり、政府筋への働き掛けも含めて1面トップの記事になったのではないか。

ただ今後の見通しとして、「改正案は施行日を2022年4月1日と定めており、『秋の臨時国会の成立でも間に合う』(政府関係者)との見方もある。今国会成立を見送る場合、改正案だけでなく、束ね法案ごと継続審議にする可能性が高い」との観測記事が付けられていることからも、読売が最後まで筋を通すかどうかはわからない。世論の批判が収まり支持率が回復して来れば、今度は一転して「政治部長見解」(社会部長見解ではない)でも出して改正案支持に回るかもしれない。国民の監視が必要な所以だ。

いずれにしても、安倍政権は検査庁法改正案の見送りで(崩壊は免れたが)大きく傷ついた。今後の政局は、河合夫妻の立件を機に破格の選挙資金を提供した自民党本部およびそれを指揮した安倍首相や菅官房長官への批判が高まり、内閣支持率が低落する中で政権の求心力が一気に衰えていくプロセスを辿るだろう。すでに巷間では、新型コロナウイルス対策への安倍首相のリーダーシップが地に堕ちている。上述の朝日世論調査でも、安倍首相が「指導力を発揮している」30%、「発揮していない」57%と結果がはっきりしている。緊急事態宣言を出すだけで、後は国民の「気のゆるみ」次第というのでは、無責任すぎると誰もが言っているのだ。アベチャンにできるのは「アベノマスク」2枚ぐらい―というのがいまや通り相場なのである。

いつも言うことだが、安倍政権の凋落がここまで来ているのに、野党共闘の方はいっこうに姿が見えてこない。自民党支持率は依然として30%台を維持しているのに、野党第一党の立憲民主党はいまや5%前後にまで凋落している始末だ。増えているのは「支持政党なし層」(46%)だけで、野党勢力は痩せ細ったままだ。野党党首や代表は、コロナ対策では小池東京都知事や吉村大阪府知事らにイニシアティブを握られ、出番のないまま逼塞(ひっそく)している。工夫しなければ出る幕がないのに、陰気な顔で文句を言っているだけなのである。これでは国民が浮かばれない―そんな気持ちを抑えきれない人が多いことを彼らに知ってほしい。
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