2020.05.28  生協だけが売り上げ伸ばし、他は減少
         コロナ禍がもたらした流通業界の明暗

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するための緊急事態宣言は日本経済に深刻な打撃を与えているが、流通業界では、ある一つの傾向が顕著になりつつある。それは、百貨店、スーパー、コンビニなどが軒並み売上高の減少に苦しんでいる一方で、生活協同組合(生協)が大幅に供給高(売上高)を伸ばしていることだ。それには、生協陣営がこれまで力を入れてきた個配(個別配達)が、緊急事態宣言で外出自粛を余儀なくされた市民たちに歓迎され、注文が殺到しているといった事情があるようだ。

 毎月、20日過ぎには、流通業界での前月の売上高の発表がある。今月は各業種の4月の売上高が発表された。
 
 日本百貨店協会は5月22日、会員企業73社の計203店の今年4月の売上高を発表した。それによると、1208億円で、前年の同じ月より72・8%少なかった。これを報じた朝日新聞は「落ち込み幅は統計のある1965年以降、最も大きかった。緊急事態宣言を受け各社が臨時で休んだ影響が出た。外国人が来日しなくなったことに加え、消費の手控えが日本人にも広がった」と書いていた。まさに、百貨店業界は過去最大の落ち込みようだ。

 これに先立つ21日には、日本チェーンストア協会が、加盟店(大手スーパーなど56社)の4月の売上高を発表した。それによると、総売上高は1兆162億円で、前年同月より4・5%減だった。食料品は外出自粛で家庭での需要が急増し、9・5%という大幅な伸びを示したものの、その一方で衣料品の売り上げが前年同月比で53・7%減、化粧品などの住関品が14・2%減となったのが響いた。これらの減少は、休業店舗の増加や外出自粛が影響したとみられる。

 これより前の20日には、日本フランチャイズチェーン協会が、主要コンビニ7社の4月の既存店売上高を発表した。それによると、7781億円で、前年同月比で10・6%の減。現在の統計方法となった2005年1月以降では最大の下げ幅だった。在宅勤務の広がりや外出自粛が響き、とくに大都市都心部や観光地の店で不振が目立ったという。客の一部がスーパーに流れたのも響いたとみられる。

 これらの業界に引き換え、ひときわ活況をみせているのが生協だ。生協の全国組織、日本生活協同組合連合会が21日発表した「主要地域生協の4月度供給高(売上高)速報」には、目を見張るような数字が並ぶ。
 主要地域生協とは比較的規模の大きい地域生協のことで、調査対象は64生協。その4月度の総供給高は2471億4600万円で、前年4月より15・3増だった。ちなみに、3月度は2316億6100万円で前年同月より12・2%増、2月度は2232億7700円で前年同月より1・4%増だった。いうなれば、生協はコロナウイルス禍が生じて以来3カ月連続して前年同月の供給高を超過してきたわけである。百貨店、スーパー、コンビニなど他の流通業界のこの間の動向と比べればまことに異例のことと言える。

 ところで、4月度の総供給高2471億4600万円の内訳をみると、店舗が843億500万円(34・1%)、宅配が1574億1000万円(63・7%)、その他の供給が54億3000万円(2・2%)である。
 で、宅配1574億1000万円の内訳をみると、その72%が個配(組合員の自宅玄関まで注文の商品を届ける方式)だ。残りは、班配(グループや職場へ注文の商品を届ける方式)である。いまや、個配が生協の主要な業態となっていると見ていいだろう。
 加えて、その個配の伸びが著しい。宅配全体の前年同月比は116・3%だが、個配は118・5%である。

 つまり、コロナウイリス禍で巣ごもり生活を余儀なくされた市民にとっては、個配がまたとない生活必需品の調達手段となっているわけだ。日本生協連の「主要地域生協の4月度供給高(売上高)速報」も「(個配を含む)宅配では、巣ごもり需要にともない生鮮・加工食品・非食品の全ての分類で伸長しました」と述べている。

 生協の供給事業といえば、かつては店舗と共同購入の二本立てだった。どちらかというと共同購入が主力だったが、商品の受取手であった専業主婦が減少したことから、共同購入に陰りが生じた。そこで、店舗による供給に力を入れたか、思うように伸びず、赤字の時代が続いた。そうした試行錯誤を経て生み出されたのが、商品を直接、個々の組合員宅の玄関先に届ける個配で、それが順調な伸長を続けてきた。組合員の生活スタイルの変化や個人ニーズに対応した供給の仕方が組合員に支持され、個配が供給事業の主力に躍り出たのだ。
 その個配の便利さが、突然襲ってきたコロナウイリス禍の中で改めて見直され、新たな注目を浴びている、というわけである。
 
 もっとも、都市部の生協では、組合員から殺到する注文に対応しきれないという現象が生じているようだ。
 例えば、パルシステム生活協同組合連合会(首都圏中心の13生協で構成・組合員157万人・本部東京)は5月11日付で組合員に「新型コロナウイルス感染症拡大に伴うこれまでの状況と今後について」と題するチラシを配布したが、そこにはこんな文言があった。
 「新型コロナウイルス感染症拡大本格化する直前の2月1回の利用人数は74万人でしたが、直近の5月1回では84万人となり、3カ月で7万人増加しました。とくに、これまで休まれていた組合員が注文再開されたり、遠隔利用の組合員が毎週利用されるなど、一台のトラックの配達件数も急増しています」
 「急増したご注文により、商品セットセンターに商品が入りきらない、セット時間が大幅に遅れ商品の配達時間に間に合わない、会員生協の配送センターの冷蔵庫に商品が入りきれない、配送トラック積みきれない、などの問題が生じています。ご注文いただいた組合員のすべての方に配達するためには、注文いただいた商品をやむなく一部欠品とさせていただいております」

 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(33生協で構成・組合員約40万人・本部東京)も5月1日に発表した「供給継続に向けた基本方針」の中で、次のように述べていた。
「生産者のご協力により消費財(筆者注・商品のこと)の生産は継続できる見通しですが、今後も一部の消費財で総量調整の必要による欠品や遅配が続く見込みです。生産者には通常より製造体制を強化して消費財の生産に取り組んでいただいていますが、注文の増加、人員・トラックの不足などがあり生産が追い付かない品目も発生しています」
 
 急増する組合員からの注文に即応できない生協現場の“混乱ぶり”が目に浮かぶようだ。
 緊急事態宣言が解除されても、流通業界がすぐ元の状況に戻るとは考えられない。「組合員の生活を守る」をモットーとする生協の挑戦はこれからも続きそうだ。
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