2020.06.01  「シックハウス被害」が深刻になる季節、コロナ禍の今年はとくに注意が必要だ
          シリーズ「香害」第14回

岡田幹治 (フリーライター)

 新築やリフォームしたばかりの一戸建て住宅やマンションに入居したら、激しい頭痛や疲れやすいなどの症状が出る「シックハウス(病気にする家)による健康被害」は、気温が上がり、湿度も高くなるこれからが深刻になる季節だ。「今年は新型コロナウイルス対策で、子どもも大人も自宅で過ごす時間が増えるので、十分注意してほしい」と専門家は言っている。

◆入居して数日で体調不良に
 40歳代の元看護師Aさんは2年前に埼玉県内で、内装を新築同然にリフォームしたマンションをパートナーと購入した。真夏の8月に入居して数日のうちに、せき・目のチカチカ・頭痛などに悩まされるようになった。
 自宅にいるとしんどいが、自宅を出ると楽になるので、看護師の仕事を続けていたが、だんだん自宅以外でも体調が悪化するようになった。職場でミスが続き、勤務先の医師に「シックハウス症候群(SHS)ではないか」と言われ、購入したマンションが原因と気づいた。
 SHSは、建物内に揮発(放散)された汚染物質を吸い込み、体調が悪化する病気だ。症状は、めまい、吐き気、手足の冷え、疲れやすい、うつ、頭痛、記憶力や意欲の低下、関節痛、目・鼻・のどの粘膜がチクチクするなど多岐にわたる。
 症状が一つだけの人もいるし、いくつもの症状が同時に出る人もいる。また個人差が大きく、同じ住まいに暮らしても何の症状も出ない人もいる。Aさんのパートナーは、入居直後は激しく咳き込むなどの症状が出ていたが、やがて支障なく暮らせるようになった。
 SHSの人は原因となる建物を離れると症状が和らぐが、進行すると、場所に関係なくどこでも、ごく微量な成分を吸い込むだけで症状が出るようになる。これが化学物質過敏症(CS)だ。重症のCSになると、普通の生活も仕事もできなくなり、子どもたちは学校へ通えなくなる。
 Aさんは昨年6月に専門医を受診し、SHSからCSに移行したとの診断を受けた。
 保健所からホルムアルデヒド(SHSの原因物質の一つ)の検出試験紙(ドクターシックハウス)を送ってもらい、リビングルーム・寝室・和室とベランダで測定したところ、ベランダでは濃度が「ゼロ」だったのに対し、三つの部屋では「10ppm」(ppmは100万分の1)を示した。
 厚生労働省が定めたホルムアルデヒドの室内濃度指針値(0.08ppm)の100倍以上だ。
 そこで仲介業者と売主の不動産業者に対応を求めたが、「換気したらどうか」「住宅に問題はない。あなたがCSになりやすい体質なのではないか」などと言うだけで、取り合ってくれない。
 その後、仕事を続けられなくなり、昨年2月から休職し、休職期間が切れた8月に退職、岩手県の実家に避難した。
実家のクローゼットを改装してもらい、なんとか暮らしているが、実家周辺は野焼きがあったり、畑に除草剤を散布したりで、化学物質が絶えず、体調は回復しない。虫歯が痛むが、麻酔ができず、治療もできない。
 最近はコロナ対策で実施される消毒に悩まされている。先日、通院のため盛岡市までバスで往復したら、車内に消毒液の揮発成分が立ち込めていて、体調がさらに悪化した。
 パートナーが住み続けているマンションは、Aさんの名義で住宅ローンを借りてあり、パートナーと折半で35年で返済の予定だ。でも、仕事に復帰できなければ返済も難しくなる。
 この先どうなるのか、Aさんは不安でたまらない。

◆ほとんどが「シックハウス(病気にする家)」
 「最近の住宅は一戸建てもマンションもアパートも、ほとんどが『シックハウス』だ」と、CSの発症者でもある建築家の足立和郎・パハロカンパーナ自然住宅研究所(京都市)代表は言う。
 柱・梁・壁・床などは集成材や合板でできており、接着剤・防腐剤・塗料などが大量に使われているから、その成分が常にわずかずつだが揮発している。
 揮発量は新築やリフォームから1年くらいがとくに多く、設置が義務づけられている機械式換気装置を動かしただけでは室内の空気は清浄にならない。
 また高温多湿の季節になると揮発は活発になるが、エアコンで冷房し、窓を閉め切るようになる。機械式換気装置を止める人も少なくない。
 こうして室内にたまった有害化学物質を吸い込み、SHSになるわけだ。
 室内の汚染物質はアレルギー疾患の原因にもなる。新築やリフォームしたばかりの住宅やマンションに転居して間もなく花粉症(アレルギー性鼻炎・結膜炎)やアトピー性皮膚炎、喘息になったときは、室内の汚染物質がアレルゲン(アレルギーの原因物質)である可能性が大きい。
 SHSやアレルギー疾患を発症させる誘因物質は、次の5種類に整理できる。
 1 建物の建材に使用されている接着剤・防腐剤など。壁や天井、床に多用されている塩化ビニールクロス(塩ビクロス)には有害な添加剤も使われている。
 2 木造住宅では、床下や床板に使われるシロアリ駆除剤。最近はジノテフランなどのネオニコチノイド系農薬がよく使われている。「5年保証」とある場合、農薬成分が10年以上、高濃度で放散され続ける可能性が大きい。
 3 家具・カーペット・カーテンなどに使われている接着剤・塗料・難燃剤など。輸入家具には、有害なホルマリン系接着剤が大量に使われていることが多い。家中のカーペットを取り替えたことが原因でSHSを発症した例もある。
 4 建物内で芳香消臭スプレーや殺虫剤・防虫剤を使ったり喫煙したりすれば、汚染物質が放散される。人が生活することで発生するハウスダスト(ホコリ・人の髪の毛やペットの毛・カビの胞子・ダニの糞など)もSHSの原因になる。冷暖房が普及し、密閉性が高まった現代の住環境はダニとカビの温床なのだ。
 5 外気が含む有害物質。交通量が多い道路沿いだと、排ガスなどで汚染されている。マンションや住宅地では、近隣の人が使う柔軟剤などで汚染されている場合がある。
 シックハウス被害は1990年代に大きな問題になり、厚労省や国土交通省が2003年までに対策を実施した。そのうち法的拘束力があるのは、シロアリ駆除剤として使用されていたクロルピリホスの使用禁止と、接着剤として大量に使用されていたホルムアルデヒドの使用制限などを内容とする建築基準法改正だ。
 しかし、ホルムアルデヒドは使用が制限されているだけで、放散量が少ない「F☆☆☆☆」(エフ・フォースター)」の建材ならいくらでも使える。
 厚労省はSHSの原因になる13物質について、業界に自主規制を求める「室内濃度指針値」を定めたが、業界はすぐに、それらに代わる代替物質を見つけ出した。
 またSHSの原因物質が多い揮発性有機化合物(VOC)の総量(TVOC)について、室内空気質の目安として「暫定目標値」を定めたが、「新築の住宅やマンションでは上回っているのは当たり前」(柳沢幸雄・東京大学名誉教授)だ。
 このような実態だったところへ近年、省エネのために建物の密閉化・断熱化が一段と進み、シックハウス被害が再び増えてきたと足立さんはみている。

◆被害防止にはまず換気
 どうしたらシックハウス被害を避けることができるだろうか。
 足立さんが勧めるのは、新築やリフォーム後の住まいを買った場合、数か月間は入居せず、24時間窓を開けて換気に努めることだ。
 そんな余裕がなく入居した場合は、数か月間は換気を頻繁に行うとよい。部屋の対角線にあるドアや窓を開け、空気が流れやすくするのがコツだ。
 もし室内で変なニオイがしたり、家族の体調がおかしくなったりしたときは、24時間の開窓を長期間続けるとともに、生活を見直すことが必要だと、CS発症者の藤井淑枝・化学物質過敏症あいちReの会代表は言う。
 消臭スプレーや消臭剤・防虫剤を使っていたり、喫煙したりしていれば、やめる。室内の家具などをできるだけ減らす。そして徹底的な掃除でハウスダストを減らすことだ。
 具体的には、部屋のすみずみまで掃除機をかけた後、天井・壁・排気口・家具の裏・カーテンレール・窓周り・網戸・ベランダ・玄関のドアやたたきまで、洗剤などを使わない水で拭き掃除をすると効果があるという。
 もし住まいや勤め先が新築・リフォームされた後に、家族の体調が悪化し、原因がはっきりしないときはSHSを疑い、専門医を受診するとよい。子どもは自分の症状をうまく表現できないので、すぐ切れる・根気がない・イライラする・粗暴になるといった行動の変化として表れることもある。
 体調がおかしくなったとき、多くの人は風邪やインフルエンザに罹ったと思ったり、更年期障害を疑って婦人科を受診したり、うつになって心療内科や精神科を受診したりするが、実はSHSやCSである場合が少なくない。
 建物内の環境が原因でSHSを発症したと診断されたときは、どうするか。
 CSに詳しい水城まさみ・国立病院機構盛岡医療センター医師(化学物質過敏症・環境アレルギー外来など担当)は、室内空気をガスクロマトフィで分析してもらい、濃度の高い汚染物質を確定することを勧める。
 その物質が揮発しないよう、CSに詳しい工務店に工事してもらうと、体調が回復した例が多いと書いている(水城まさみ「電磁波、シックハウス、化学物質・・・過敏症はみなつながっている」=『建築ジャーナル』2017年5月号)。

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