2020.06.22  「香りつき柔軟剤の販売を後押ししている」と批判を浴びる『朝日』の「香害」記事
          シリーズ「香害」第15回

岡田幹治 (フリーライター)

 5月9日の『朝日新聞』(東京本社版)に「ブームの柔軟剤 漂う匂いは『香害』?」という記事が掲載されて1か月余り。「香害や化学物質過敏症(CS)のことを理解せず、香りつき柔軟剤の販売を後押しする記事だ」という批判がくすぶり続けている。なぜなのだろうか。

◆「好きな香りでリラックスを」と呼びかけ
 柔軟仕上げ剤は、合成洗剤で洗濯すると衣類がゴワゴワしたり、静電気をもったりするのを防ぐために開発されたものだが、10年ほど前から「香りつき」が人気になり、近年は強い香りが長続きする「高残香性」商品が多数発売されている。
 この種の柔軟剤で洗濯した衣類からは成分が揮発し、これを吸い込むと、体調が悪化したり、CSになったりする人が少なくない。日本消費者連盟の「香害110番」では柔軟剤が原因のトップだった。
 このため国民生活センターは今年4月、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供(2020)」を公開し、「使用量の目安を参考に、過度な使用は避けましょう」などを消費者に呼びかけた。

 こうした状況の中でこの記事は掲載された。こんな内容だった――。
 「柔軟剤の香りが気になるという相談が国民生活センターに相次いでいる」と始まり、香りを重視した柔軟剤が増えており、販売量は10年前の1.5倍にまで伸びたと指摘した後、「(柔軟剤によって空気中に放たれる化学物質の)体への影響はわかっていない。ただ、化学物質は空気中の汚れ。なるべく出さないほうがよい」というセンター担当者の発言を引用する。
 併せて、メーカーは香りの強さを容器に表示し、まわりに配慮するよう注意喚起もしていると紹介する。
 記事は次いで、札幌市の渡辺一彦小児科医院には、「匂いでCSになった患者」が昨年だけで83人訪れたことを記し、「香りを求める商品開発競争がアクセルを踏んでいる」「『香害』は深刻だ」という渡辺医師の発言を引用する。
 記事はその後、「なぜ、人は香りを求めるのか」に話を転じ、「霊長類は優れた視覚と聴覚を得たので、嗅覚は生死を決める重要な感覚から、生活を彩る感覚へと変わった」という平山令明・東海大学先進生命科学研究所長の見解を紹介し、こう締めくくる。
 「ラベンダーなどの香りには心を安らかにする効果もある。ストレスがたまりやすいこのごろ、使いすぎに注意しながら、自分の好きな香りで少しでもリラックスを」

◆「香害」とは何かを知らぬ記者
 江戸川夏樹記者によるこの記事でまず指摘できるのは、誤った記述が少なくないことだ。たとえば記事は「匂いでCSになった患者」と書いているが、においでCSになることはありえない。
 柔軟剤をはじめとする香りつき商品(制汗剤や消臭剤など)はいくつもの有害成分(化学物質)を含んでいる。それらの成分が揮発したのを吸い込んで体内に取り込み、その影響で体調が悪化したり、喘息などの病気になったりするのが「香害」であり、そのうち最も深刻な病気がCSなのだが、そうした事情を記者は理解していないようだ。

 香りつき商品にはどんな成分が含まれているだろうか。ライオン(株)の「ソフラン プレミアム消臭 ホワイトハーブアロマの香り」を例にとると、この柔軟剤には①エステル型ジアルキルアンモニウム塩と②ポリオキシエチレンアルキルエーテルと6種類の化学物質および「香料」が含まれている。
 このうち①は「陽イオン型合成界面活性剤」で、皮膚刺激性や眼刺激性が強い。②は「非イオン型合成界面活性剤」で、強い眼刺激性と弱い皮膚刺激性を持つ。
 香料はこの商品では36成分が混合されており、この中にはベンジルアルコールやゲラニオールなど、欧州連合(EU)が皮膚アレルギーを起こすと認めた化学物質が含まれている。これらは飲み込んでも吸入しても有害だ。
 柔軟剤のにおいを嗅ぐということは、以上のような有害な物質を体内に取り込むことなのだ。

 記事はまた「嗅覚は生活を彩る感覚へと変わった」と書いているが、嗅覚はいまでも「生死を決める重要な感覚」である。
 嗅覚が正常なら、たとえば食べものが腐っているかどうかをニオイで判断できるし、都市ガスが漏れればニオイですぐに気づく。ところが、香りつき商品を長年使い続けていると、嗅覚がマヒする可能性が大きい。香りつき商品の氾濫にはそうした弊害もある。

◆目安量通りの使用でも無害ではない
 記事の結びは、使いすぎに注意しながら、好きな香りでリラックスしようという呼びかけだ。この呼びかけは、香りつき柔軟剤はメーカーが表示する目安量通りに使用すれば、周囲の人の迷惑にはならない、という前提に立っている。
 しかし、香りの強い柔軟剤は目安量通り使用したからといって無害になるわけではない。目安通りの使用でも、その成分を吸い込んで体調が悪化する人たちは少なくないのだ。
 なぜそうなるのか。その理由が、国民生活センターが実施し、「柔軟仕上げ剤のにおいに関する情報提供(2020)」で公開した「柔軟剤に関するテスト」に示されている。
 このテストは、市販されている①洗濯用合成洗剤、②無香性の柔軟剤、③微香タイプの柔軟剤、④香りの強いタイプの柔軟剤を使って衣類を洗濯し、9畳ほどの広さの室内に干して、1時間後の空気中の揮発性有機化合物(VOC)の総量(TVOC)を測定した。VOCは香害の原因物質を多く含んでいる。

 測定の結果、①②③は室内のTVOC濃度が1立方メートル当たり40マイクログラム(㎍=100万分の1グラム)程度の上昇にとどまった。
 これに対し④は、表示された目安量通り使用した場合は80㎍程度上昇し、表示の目安量の2倍を使用した場合は230㎍程度も上昇した。香りの強い柔軟剤を使うと、目安通りであっても、TVOCの濃度が合成洗剤だけの場合の2倍にも上昇するのであり、目安量の2倍を使用すれば5倍以上にもなるわけだ。

 こうした事実を無視し、「使いすぎに注意しながら、自分の好きな香りで少しでもリラックスを」と呼びかける記者は、他人の吸うたば こで被害を受ける人のことを考えず、喫煙者に「吸い過ぎに注意しながら、たばこでリラックスを」と呼びかけているようなものだ。
 以上のように問題だらけの記事だが、柔軟剤メーカーからみれば、こんなありがたい記事はないだろう。
 『朝日』の記者は、だれの立場に立って記事を書いているのだろうか。
Comment
的確な情報発信 感謝です。今後もよろしく。
佐藤禮子 (URL) 2020/06/23 Tue 19:36 [ Edit ]
https://consumernet.jp/物質過敏症の方だけでなく、「臭い」は好悪の大きな問題です。香害として消費者問題として取り上げられるのは比較的最近のことですが、合成洗剤や食品添加物の香料など化学物質化による人体健康への影響はもっと人権に取り上げられるべき課題です。新聞記事が業界よりの事なかれ主義の記事を掲載したことについて真っ向から批判した記事はとて価値があると思います。
古賀真子 (URL) 2020/06/24 Wed 10:00 [ Edit ]
化学物質過敏症の方だけでなく、「臭い」は好悪の大きな問題です。香害として消費者問題として取り上げられるのは比較的最近のことですが、合成洗剤や食品添加物の香料など化学物質化による人体健康への影響はもっと人権に取り上げられるべき課題です。新聞記事が業界よりの事なかれ主義の記事を掲載したことについて真っ向から批判した記事はとて価値があると思います。
古賀真子 (URL) 2020/06/24 Wed 10:17 [ Edit ]
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() 2020/06/27 Sat 16:19 [ Edit ]
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