2020.06.24  トランプ大統領、最後の1年(15)
          剛腕右派のボルトン前補佐官が暴露本出版 

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 共同通信は23日早朝、同日米国で出版され、同国内で大騒ぎを起こしている、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官の著書について、次のように速報した。
「 【ワシントン共同】ボルトン前米大統領補佐官は23日出版の回顧録で、昨年7月に訪日した際、トランプ大統領が防衛費の分担金として年間約80億ドル(約8500億円)の負担を求めていると日本政府高官に伝えたと証言した。在日米軍を撤収させると脅して交渉を優位に進めるようトランプ氏から指示を受けたことも明らかにした。共同通信が回顧録を入手した。
 80億ドルは日本が現在、負担している在日米軍の駐留経費負担の4倍以上に相当する。日本政府はこれまで米側の負担増要求の報道について「そのような事実はない」(菅義偉官房長官)と否定していたが、米側の当事者本人が明確に認めた形だ。」



 トランプ米大統領の国家安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトン氏が、1年半にわたる任期中の政権内部と外交の実態を暴露した回顧録「それが起きた部屋、ホワイトハウス回想録」を23日に出版した。大統領はワシントン地裁に「国家安全保障に損害を与える」として、出版の差し止めを求めて提訴したが、同地裁は19日、訴えを却下した。
 出版社のサイモン&シュスターは、出版を前に、トランプ政権の出版差し止め提訴を想定し、今月上旬から一部の新聞、テレビ、通信各社を選んで、完成本や抜粋を提供した。各社の報道合戦が国内はもちろん、各国に広がった。発売禁止を求めるトランプ氏側の提訴と却下も、ボルトン氏と出版社は予測していたことは間違いない。出版社側は米国内と全世界で何百万部も売れることを予測しているとの報道もある。しかし、米紙やBBCの抜粋報道を読む限り、ボルトン氏が書いている米国も世界も、ぎすぎすした世界で、感動するような話も見当たらない。世界のベストセラーになるかどうか?
 ボルトン氏は、その経歴、強硬な右派的主張から、17年1月のトランプ政権当初から、国家安全保障担当補佐官の有力候補者と見られていたが、まず国連大使に就任、翌18年4月に国家安全保障担当補佐官に就任。トランプ政権の対ロシア・ウクライナ政策、対イランはじめ中東政策、対アフガニスタン政策、対中国政策などに強硬な右派としての影響力を発揮し始めた。
 しかし、ボルトン氏の顔が何より示しているように、論理的で、自己主張が強く、抜け目がない。両方とも敵に対しては残忍になるが、トランプ氏のように、論理的に政策、物事を考えずに、感覚的に処理するタイプの人間は、ボルトン氏には理解できない行動をとる。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談、会場でトランプ氏がニコニコしてみせることなど、ボルトン氏は唾棄する思いだったのではないか。

▼ボルトンの主張十項目
 ボルトン氏の著書の内容をBBC電子版が要領よくまとめているので、これに沿って以下に10項目を紹介しよう―

1.トランプは再選のための支援を求めた
 この本の中でボルトン氏は、昨年の日本での先進20か国首脳会議(G20)の際の、中国の習近平主席との会談について、次のように書いている。―「トランプ氏は、会談で米大統領選についての議題を持ち出し、さりげなく中国の経済力に言及、大統領選での勝利を確実にするための支援を嘆願したので驚いた」
 「彼は農民の重要性を強調、中国が大豆と小麦の買い上げを増加してくれることを求めた」
 農業は米国中西部の主要産業の一つで、2016年の大統領選でのトランプの勝利の地盤となった。

2.トランプは、抑留施設の建設は「正しい行動だ」といった・・・
 中国でのウイグル族や他の少数民族の取り扱いは、国際的な非難を引き起こしており、約100万人が新疆地域のキャンプに抑留されているとみなされている。
 トランプ氏はこの大量拘留に関わった中国当局者への制裁を承認、中国の怒りを引き起こした。しかし、ボルトンの本によれば、習主席がこれらの収容所建設を正当化したさい、中国の行動を承認した、という。

3.トランプは「私自身は独裁者好きだ」と発言
 ボルトン氏は、中国の指導者だけが、トランプ氏が迎合した独裁者ではない、と非難している。
 トランプ氏は彼が好む独裁者たちに「事実上の好意的措置を与えるため」犯罪捜査に介入したがっていると、ボルトン氏は書いている。
 本書によると、トランプ氏は2018年、トルコのエルドアン大統領に対し、トルコ企業のイラン制裁容疑に対する米当局の捜査に関して、助力を申し出た。
 米大統領は「注意深く捜査を進める」ことに同意し、捜査担当の検事たちは「オバマ時代の者たちだ」と言ったという。

4.民主党は弾劾努力をもっと進めるべきだった
 本書でボルトン氏は、民主党の大統領選候補者バイデン氏への捜査を開始するよう、ウクライナ政府に圧力をかけるために、トランプ氏はウクライナ政府への軍事援助の停止を望んでいたという民主党の主張を支持している。この民主党の主張により、トランプ氏に対する弾劾の動きが始まった。
 しかしボルトン氏は、本書の中で民主党を非難し、「彼らはウクライナだけに集中し、弾劾に失敗した」と述べている。ボルトン氏は、もし彼らが調査をもっと広げていたら、トランプ大統領を辞めさせるために必要となる「重大な犯罪と軽犯罪」を彼が犯していたと、より多くの米国民に信じさせることになっただろう、と述べている。
 ボルトン氏は、彼が述べる新たな主張が、弾劾に結び付くかどうかについては述べていない。
 彼は、昨年遅くに行われた、下院でのトランプ弾劾への手続きでの証言を避け、上院では、共和党議員たちによって証言が阻止された。

5.トランプは二期以上、大統領を続けるのを望んでいることを示唆した
 トランプ大統領の習近平との会話について続ける。ボルトンは、トランプ氏が中国の指導者に、米国人はトランプ氏が2期以上大統領を務めるために、憲法を改正することを熱望している、と述べている。
 「習はトランプに、6年以上やってほしいと思っていると応じて、会談は最高潮に達した。トランプは、国民は彼のために、2期までと定めている大統領の任期条項を廃止すべきだと言っている、と応じた」とボルトンは、ウオールストリート・ジャーナルが掲載した本書抜粋で書いている。
 「習は、選挙が多すぎる。と述べた。彼はトランプの交代を望んでいないからだ」
 ―以下、長くなるので、BBC電子版の一部を省略。

6.トランプは英国が核保有国であることを知らなかった
7.・・・もしフィンランドがロシアの一部だったら・・
8.彼はNATO脱退実行にとても近い
 トランプ大統領はしつこくNATO批判をしており、他の加盟国の分担金増額を要求している。
 米国はNATOメンバーに留まってはいるが、2018年のNATO首脳会議に際しては、トランプはNATO脱退を決意していた。
 ボルトン氏によると、大統領は「われわれは脱退する。支払わない国は守らない」と言った。

9.ベネズエラ侵攻は“クール”に
 トランプ政権の外交にとって、頭の痛い重要テーマの一つは、ベネズエラのマドーロ大統領の、ゆるぎない反米姿勢だ。
 この問題について、トランプ大統領は、ベネズエラ侵攻は「クール」だろうし、この南米の国は「実際は米国の一部なのだ」と述べていた。(この項後略)

10.同盟国でさえ彼を嘲笑している
 ボルトン氏のこの著書には、ホワイトハウス内の公職者たちがトランプ大統領を嘲笑している数例が記されている。
 彼はホワイトハウス内の機能不全について書き、会合が政策作成の努力とみなすより、“食べ物の奪い合い”に似ている、と記述している。
 彼がホワイトハウスに到着した時、首席補佐官のジョン・ケリーは「ここは、働こうとする人には悪いところです。あなたも分かるでしょう」といった。
 大統領に忠実だとみられているポンぺイオ国務長官でさえ、大統領のことを“Full of shit”(くそったれ)と呼んでいるメモを書いたといわれている。(了)

(注)トランプ米大統領はじめ人物の敬称、肩書については、BBCの原文になるべく従った。日本のメディアは、見出しでも文中でも、おそらくすべて「大統領」とか「氏」とかを付けているが、世界のメディアは違う。文中では単に「トランプ」で、肩書、敬称を付けないこともある。
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