2020.07.17 米中新冷戦の急展開、香港から南シナ海へ
           ー緊張の米中対決新戦線
                      
田畑光永 (ジャーナリスト)

 私は13日付けの本ブログで、中国の香港に対する強硬姿勢を取り上げた。中國は先月30日に香港国家安全維持法を施行したことで、1997年に香港が英国から中国に返還されるにあたって、その前提条件であった「香港における『一国二制』を50年間は続ける」という国際約束を破り捨てた。そして習近平主席(以下、敬称略)にそれをさせたものは米トランプ大統領(以下、敬称略)の安全保障担当補佐官を昨年、解任されたジョン・ボルトン氏が回顧録に書いた、昨年の大阪におけるトランプ・習近平会談でトランプが今秋の大統領選挙に備えて自分の支持層である農民のために米国農産品を多量に買ってくれるよう頼んだことが、習近平に民主主義を馬鹿にする気を起させ、一気に香港の「一国二制」を名実ともに終わらせる決断をさせたのではないか、と書いた。
 私自身、その判断は間違っていないと思っているが、見込み違いだったのは、それに対するいわゆる西側諸国の反応が予想以上にきびしく、またその広がりが大きいことである。
 「民主主義は最悪の政治制度である。ただし、これまでに試されたすべての制度を別にすればの話だが」とは、英国の名宰相、かのウインストン・チャーチルの言葉だそうだが、わが国を含めて多くの国で、最近は「民主主義とはこんな程度のもの?」と言いたくなることが多い。なんでこんな人が、という人物が大小のポストに当選する姿にはもはや驚かないが、それにしても選挙に勝ったのをいいことにして、ことあるごとに公の仕組をつかって自分の周りに便宜や利益を集めることを当然とする風潮にも国民の方は慣れてしまっている。いや、だからこそ、750万人の香港の人たちが14憶人の政府に立ち向かって、民主をあれほどまでに大事にする姿に動かされるのかもしれない。
 そしてさらに注目すべきは、一昨年、昨年と貿易不均衡を大きな争点としていた米中新冷戦がここへきて香港をめぐって再構成されようとしていることだ。
 米中間では今年1月に第1段階の貿易協定が調印された後、新型コロナ・ウイルス肺炎の蔓延で貿易交渉は中断、今度はウイルス発生の責任を巡って、米側が「中国に賠償金を要求する」と言えば、中国側は「世界に先駆けて中国はコロナ・ウイルスと戦って、人類に貢献した」と言い返す口喧嘩が続いた。さらに世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長が中国寄りだとトランプがクレームをつけ、米がWHOを脱退するというところまで事態は進んでいる。
 香港については、昨年の逃亡犯条令反対運動でも米は陰に陽に市民側に肩入れしてきたが、国家安全維持法の施行を受けて、7月初めに米下院、上院で香港自治法案が可決され、14日、トランプが署名して香港自治法が成立した。この法律は香港の自治の侵害にかかわった中国や香港の当局者と取引がある金融機関に制裁を科すことが出来る、あるいは香港の民主々義の衰退に関与した個人が米国に保有する資産を凍結する、といった内容である。合わせてトランプは香港に対してこれまで認めてきた経済面の優遇措置などを終了する大統領令にも署名して、香港への特別扱いを終わらせた。
 これに対して、中国側は15日、外交部はじめ中央政府の香港マカオ弁公室、香港駐在連絡弁公室、さらに香港特別行政府と関係部署がそれぞれ強い非難声明を出し、報復として米の関係者と組織に制裁を実施するとした。中国側の反撃の具体策をまだ明らかになっていないが。
 また米国は7月14日、ポンペオ国務長官が南シナ海のほぼ全域を自国領と主張している中国に対して、その領有権主張を違法と決めつけ、中国と領有権を争っている沿岸の国々を支持する姿勢を鮮明にして、これまでより一歩踏み込んで、南シナ海における中国の行動を批判した。
 米中両国は7月初め、その南シナ海で同時に軍事演習をおこなうなど緊張が高まっていたところへ、追い打ちをかけるような米の「違法宣言」であった。中国は域内の島に滑走路を建設したり、新たな行政府を置いたりと、着々自国領化を進めているところへ冷水を浴びせるような宣言であるだけに、貿易摩擦どころではない緊張が常態化することが予想される。
トランプが米中新冷戦のテーマとして最初に選んだ貿易不均衡問題では、中国側にも譲る余地があったが、習近平が権力のよりどころとする「強い中国建設」の大方針を真っ向から否定されてはおいそれとは引き下がれまい。この局面のかじ取りは習近平にとってもむつかしいところである。
 トランプは7月10日、中国との第2段階の貿易協議は当面考えていないと述べており、貿易協議で当面の緊張をやわらげるという手も使えない。いやでも対立の表舞台の南シナ海、あるいは台湾周辺の東シナ海にどういう構えで向き合うかが問われる形勢である。それにして米大統領選が近いだけに大向こう受けを狙っての軍事挑発に出る可能性は双方にあると見られ、米中関係はこれまでより格段に緊張の度合いが高まることが懸念される。
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