2020.09.10  トランプ政権、最後の1年(24)
       金子敦郎論文紹介―鋭く明快なトランプ黒人差別批判(追加)

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

(長文になるため省略した後半の一部を、短縮し、追加します)全文をオンライン誌「現代の理論」最新号でぜひお読みください )

奴隷制隔廃止―「隔離」へ移行
 南北戦争で南軍を降伏させた合衆国政府(北部)は南部連合諸州を軍事占領下に置き、奴隷制度の上に築かれた南部の「北部化」に奴隷の身から解放された100万人とされる解放奴隷は、合衆国憲法によって白人と同じ市民権を与えられることになり、選挙にも参加した。黒人の数は白人より多かったので、州議会に進出して多数を占め、州政府の要職に就く者も出たし、州兵に当たる民兵にも黒人が多数加わった。
 南部諸州の白人は必死に抵抗した。支配者としての人種的優位を手放したくないという思いと、黒人の支配下に置かれることへの恐怖が混じり合っていた。民兵に対抗する武装組織ライフル部隊を編成、解放黒人や「北部化」を支持する白人に対してテロ攻撃を加えたり、誘拐してリンチにかけたりする白人至上主義の秘密組織も結成された。代表的なのがキュー・クラクッス・クラン(KKK)だ(今も存続しているものもあり、トランプ政権のもとで表に出て活動している)。

「隔離しても平等」
 これで南部諸州は黒人が獲得した基本的自由をはく奪する州法を次々に制定していく。黒人隔離法(Jim Crow laws、Jim Crowは黒人を差別する白人)と呼ばれる。憲法修正14条で黒人もすべての市民と同じ市民権を得たが、州法優先とされ、ワシントンは黙認した。まず狙いをつけたのが投票権。読み書きのできない多くの黒人がテストを科せられて選挙人登録を拒否された。白人は議会を支配して「合法的」に権力を奪還した。

「合法的差別」
 米国では開拓の初期から奴隷制度があった。徐々に同制度を廃止する州が出て、自由黒人の数も増えていった。独立戦争(1775-1781年)には約5,000人の奴隷が参戦して、戦後は約束通りに自由を得ている。南北戦争のころ奴隷制度を続けていたのは15州で、南部連合11州と加わらなかった4州。もちろん南北戦争で奴隷制度はすべて廃止された。

公民権運動で「隔離法」無効に
 「黒人隔離法」の外に黒人を連れ出したのは1929年大恐慌のさなかに、共和党に代わって登場した民主党ルーズベルト政権だった。ルーズベルトは北部のリベラルなインテリ層や労働組合に加えて少数派を取り込んだ「ルーズベルト連合」を政治基盤にして、1970年代へと続く「民主党時代」をスタートさせた。黒人は政治勢力としてこの連合の一角に場所を得た。
 第2次世界大戦で黒人部隊が編成され、日系人の2世部隊とともに欧州戦線に派遣され、両部隊は戦争勝利に貢献した。だが、彼らが帰った先は隔離されたスラムだった。
 共和、民主両党の対立が続き、2008年に黒人初のオバマ大統領が生まれたものの、両党の対立をさらに先鋭化させることになった。そしてトランプ大統領が登場する。

白人至上主義
 南部連合リーダーの記念像・碑を撤去し、あるいは名前を外し、南軍旗の掲揚禁止を求めることに対して、共和党や軍部も含めて世論の大勢は支持しているが、トランプは強硬な反対に出た。建国の父であるワシントンやジェファーソンが奴隷を所有する農園主だったことを批判して標的に加える声が上がり、さらにさかのぼってコロンブス批判も出る。トランプはこれをとらえて、民主党も「黒人の命」運動もひっくるめて過激な左翼アナーキスト、ファシスト、暴徒などと呼び、建国の英雄に矛先を向けて米国の歴史すべてを書き替える「文化革命」と決めつけて、対決姿勢を打ち出した(7月3日ラッシュモア演説)。大統領選の争点を人種差別から愛国心へとすり替えて保守派の支持を固め直し、中間層にアピールして大統領選挙戦の敗勢を挽回する-この狙いは明らかだ。

トランプの新南北戦争
 6月に「黒人の命」の抗議デモがホワイトハウスを囲んだとき、トランプは米軍現役部隊を使って排除しようとして、エスパー国防長官、ミレイ統合参謀本部議長に歴代首脳部も加わって「軍を政治目的に使うことはできない」と拒絶された。ミレイ議長は最近、国会に呼ばれて南軍を反逆者と呼び、20%を占める黒人将兵の中に祖父・曾祖父が奴隷だったものがいるのだと証言した。エスパー長官も軍施設で掲揚する旗はすべての人を尊厳と敬意をもって扱い、分断の象徴を拒否するという軍の責務に沿うものでなければならないと全軍に指示して、事実上、南軍旗掲揚を禁止した(7月17日)。
 トランプはFOXニュース・サンデー(7月20日)のインタビューで「南軍の旗を誇らしげに振ったといって人種差別ではない」「南軍の旗を振るのは『黒人の命は大切』の旗を振るのと同じ言論の自由だ」と答えた。常識で理解される理屈とは思えない。人種差別についての考えでトランプと軍首脳部との間に大きな隔たりがあることが浮き彫りにされた。
 トランプ支持率の急落は、新型コロナウイルスの蔓延を「民主党の陰謀」「春とともにウイルスは消える」などと、その重大さを理解できなかったことに始まる。米国にも感染が広がるとやむなく非常事態宣言・都市封鎖を受け入れたものの、今度は経済活動再開を急いで各州知事に圧力をかけた。これに応じた共和党知事の大都市を抱える州のほとんどが今、新たな感染拡大で深刻な事態に陥り、米国は世界最悪の感染国となっている。トランプはマスク着用を拒否し、感染防止のためにマスク着用を義務づけることに反対して、「コロナはいずれ消える」と責任放棄を続けていた。
 トランプが再選される可能性は日々薄らいでおり、バイデン勝利となれば、南北戦争の総決算という歴史的チャンスが生まれると思われる。
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