2020.09.15  人口減少対策は放置する、行革リストラはやる、消費税は上げる―、こんな言いたい放題の菅官房長官発言を許していいのか
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

前回に引き続き、新聞世論調査に見る菅官房長官の「虚像」と「実像」のギャップについて述べたい。毎日新聞調査(9月8日実施)と共同通信調査(9月8、9両日実施)の結果についてである。

【毎日新聞】
 〇安倍内閣を支持しますか。「支持する」50%(前回34%)、「支持しない」42%(同59%)
 〇自民総裁選が始まりました。新しく選ばれる総裁が次の首相になります。あなたが投票できるとしたら、誰に投票しますか。「石破」36%、「菅」44%、「岸田」9%
 〇あなたが次の首相に期待するのは、安倍政権からの継続性ですか。それとも政策や政治姿勢の変化ですか。「継続性を期待する」33%、「変化を期待する」55%
 〇安倍政権の新型コロナウイルス対策を評価しますか。「評価する」29%、「評価しない」47%、「どちらとも言えない」24%
 〇安倍政権の経済政策を評価しますか。「評価する」45%、「評価しない」35%、「どちらとも言えない」20%
 〇安倍政権の社会保障政策を評価しますか。「評価する」29%、「評価しない」41%、「どちらとも言えない」29%
 〇安倍政権の外交・安全保障政策を評価しますか。「評価する」57%、「評価しない」27%、「どちらとも言えない」16%
 〇安倍政権の政治姿勢を評価しますか。「評価する」43%、「評価しない」39%、「どちらとも言えない」17%

【共同通信】
 〇自民党の総裁選が8日に公示され、3人が立候補しました。新しく選ばれた自民党総裁が次の首相に就任する見通しです。あなたは、次の首相に誰がふさわしいと思いますか。「石破」30.9%、「菅」50.2%、「岸田」8.0%
 〇次の首相に、あなたが期待する課題は何ですか。二つまでお答えください。「新型コロナウイルス対策」43.9%、「景気・雇用」34.9%、「財政再建」18.5%、「年金・医療・介護」30.0%、「子育て・少子化対策」17.4%、「震災復興・防災対策」7.4%、「外交・安全保障」19.8%、「地域活性化」13.6%、「憲法改正」4.8%
 〇あなたは、次の首相が、大胆な金融緩和を柱とした安倍政権の経済政策「アベノミクス」を継承するべきだと思いますか。見直すべきだと思いますか。「継承するべきだ」33.3%、「見直すべきだ」58.9%
 〇あなたは、次の首相が、憲法改正に向けた安倍晋三首相の積極的な姿勢を引き継ぐべきだと思いますか。その必要はないと思いますか。「引き継ぐべきだ」36.0%、「引き継ぐ必要はない」57.9%

 上記2つの調査結果が示す最大の特徴は、菅官房長官を次の首相に推す回答が多いにもかかわらず、同氏の公約である「安倍政権の継承」を肯定する回答が3分の1程度しかないということだ。毎日調査はそのことをズバリ質問しているが、回答は「継承」33%よりも「変化」55%が倍近くになり、大差で「変化」が期待されている。おそらく「継承」を支持する3分の1は、これまで安倍政権を支えてきた「保守岩盤層」によるものだろうが、世論の大半は「変化」に傾いている。

 共同通信調査も、安倍政権のアイデンティティだった改憲姿勢とアベノミクスについて継承の是非を問うているが、回答はいずれも「見直すべき」が6割近くになり、「引き継ぐべき」(3分の1程度)を大きく上回っている。要するに国民世論の所在は明確なのであり、新政権が国民世論に応えようとすれば、安倍政権の政策を抜本的に見直すほかはないのである。

 それでは、掲げている政策と政治姿勢が「安倍政権・安倍政治の継承」であるにもかかわらず、なぜ菅官房長官が後継者としてクローズアップされるのか。理由は明らかだろう。安倍辞任劇が唐突に仕掛けられ、しかもその原因が持病の難病であることが大々的に報道されたために、国民の間では次期政権への政策課題やそれにふさわしい候補を考える暇もなく、自民党内の派閥の駆け引きと取り引きであっという間に後継者が決まってしまったからだ。

 こうなると、安倍政権の官房長官として朝夕記者会見を続けてきた菅氏が圧倒的に優位になることは目に見えている。マスメディアへの露出度で政治家の人気が左右される状況の下では、「知った顔」の菅氏に注目が集まるのはごく自然なことだ。だが、問題はこれからだろう。菅氏が次期首相となり政権を担うようになると、国民は菅政権が「安倍と変わらない」ことが次第に気付くようになってくる。

 この点で注目されるのは、菅官房長官が9月10日、東京テレビの立候補者討論会の席上で、消費税については「(将来的には)引き上げざるを得ない」との認識を示したことだ。菅氏は石破、岸田両氏と共に出演した番組で、「消費税は将来的に10%以上に上げるべきか」と質問されたのに対し、菅氏は「○」のフリップを掲げた。その上で「引き上げるという発言はしないほうが良いと思った。だが、どんなに頑張っても人口減少は避けられない。将来的なことを考えたら、行政改革は徹底して行った上で、国民の皆さんにお願いをして消費税は引き上げざるを得ないのかなと思った」と述べたのである。石破、岸田両氏はともに「△」のフリップを掲げた(毎日電子版、9月11日)。

 総裁選で菅氏がすでに7割以上の支持票を固めていることもあってか、思わず本音が出たのだろう。自分が新政権を担う以上「甘いことばかり言っていられない!」との気持ちが働いたのか、「人口減少は避けられない=少子化対策はやらない」「行政改革は徹底してやる=社会保障をスリム化する」「消費税を上げる=法人税は上げない」との本音を明け透けに打ち出したのである。

 菅氏の政権構想は上記の世論調査結果とは全く反するもので、国民の期待を100%裏切るものだ。こんな政権構想の下で行政リストラが実行され、消費税が増税されたら、日本社会はズタズタにされ、日本経済は消費不況で崩壊すること間違いなしだ。翌日、菅氏は「消費税増税は10年先のこと」と慌てて訂正したが、覆水はもはや盆に返らない。今後はこの発言が大問題として発展していくだろう。

 自民総裁選と同時並行的に行われていた立憲民主・国民民主両党の合流案件は、玉木氏らの不参加はあったが、一応合流新党である「立憲民主党」の結成を見た。この件についてはいずれ論評したいと思うが、今回の毎日調査を見る限り「前評判」は散々だ。

 〇立憲民主党と国民民主党などが合流して新党を結成することが決まりました。あなたの野党に対する期待は高まりましたか。「期待は高まった」24%、「期待は低くなった」10%、「もともと期待していない」65%

 こんな回答選択肢をよく考えたものだが、「もともと期待していない」という回答が3分の2に達したことは衝撃的だ。「期待する、しない」の以前の問題として、野党そのものの存在意義が無視されているのである。このまま総選挙に突入すれば野党の惨敗は免れず、結成されたばかりの合流新党が「海のモズク」になってしまわないとも限らない。

 野党が存在意義(レゾンデートル)を懸けて戦うためには、野党が総結集するための旗印が必要だ。菅官房長官は図らずも政権与党の立場からその旗印を示したのではないか。「人口減少対策に抜本的に取り組む」「社会保障を飛躍的に拡充する」「消費税を減税する」――このような国民全体を引きつける選挙公約が必要だ。立憲民主党の安住国対委員長が、菅発言に対して「次期総選挙で争点になる」「消費税解散になるかもしれない」(産経電子版、9月11日)と述べたというが、この総選挙戦略は重要だ。次の展開が期待される。
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