2020.10.30  「トランプ・クーデタ―」成功も?
         米大統領選挙、緊迫の開票速報

金子敦郎 (国際問題ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)

 米国は緊張の中に歴史的な大統領選挙を迎えようとしている。バイデン民主党候補がリードを守りきり、現職トランプ共和党候補の再選を阻むことができるのか。4年間にわたりあらゆる世論調査で5割に達する支持を得られず、選挙戦でも終始バイデン氏にリードを許してきた少数派権力トランプ氏。事実上のクーデターを強行してでも権力を手放すまいとしている。「陰謀論」がまかり通る米国とはいえ、そんなことが本当に起こるのだろうか。結果はどうあれ、これも今の米国の現実だろう。

一方的勝利宣言か
 世界の民主主義にとって最も望ましいのは、➀ バイデン候補が順調に多数の支持を得て選挙戦を制し、さらに民主党が上院で多数を奪還、下院でも多数を維持することだ。
 だが、➁ 最悪ケースのシナリオが米国に重苦しくのしかかっている。トランプ氏が得票数で多数を獲得していないと思われるまま、開票途中に一方的に「不正投票」があったと主張して勝利宣言し、開票を停止させる。選挙直前の駆け込み人事で保守の圧倒的優位を確立した最高裁がこれを容認して、トランプ「再選」が決定する。それまでには憲法が決めている政権交代の期日、1月20日ぎりぎりまで大混乱が続くかもしれない。
 この両者の間に次のような、いくつかの可能性がある。
 ➂ バイデン氏が勝っても、共和党が上院の多数を維持する。バイデン政権は上院が権限を持つ予算、外交、重要人事などの重要政策はすべて阻まれる。場合によると、バイデン政権は半身不随に陥る可能性もある。
 ④ トランプ氏がどんな経過にせよ再選されても、民主党が上院の多数を得て、両院を支配するケース。第2期トランプ政権の大事な政策はすべて議会に阻まれる。トランプ氏は大統領命令を乱発するだろうが、政治はマヒ状態に陥る(オバマ政権の第2期と同じ)。
 大統領選挙の投票日は11月3日。投票締め切り後、直ちに開票に入り、テレビ、ラジオの開票速報がはじまり、日本でも4日の昼前後からテレビなどを通して見守ることができるはずだ。しかし、この選挙戦には複雑な要素が絡み合っているので、開票速報からは選挙の結果がどうなるのかよくわからないということになりそうだ。

郵便投票が半数
 トランプ政権の4年を米国民がどう評価するのか。米国の基本的なあり方を 問う選挙への関心は極めて高く、米国時間27日の米メディアの報道によると、投票日は1週間後なのに、すでに6900万人が期日前投票を終えている。これは2016年大統領選挙での期日前投票5800万人をこえた。このうち郵便投票が4600万人と3分の2を占めている。コロナ感染が世界最悪となり、さらなる感染防止のために投票投票(期日前投票と重なる)が広く取り入れられたからだ。
 郵便投票は黒人、ヒスパニック(中南米系)など投票率の低い少数派が投票しやすくなるとみられた。少数派には民主党支持者が断然多い。そこでトランプ氏は何の根拠も示さないまま「郵便投票は不正投票を横行させる」と強く反対した。実際に郵便投票の多くは民主党票のほぼ半数とみられている。トランプ氏が猛反対しているので、共和党員の郵便投票は2割程度とされる。これがトランプ氏の「クーデター」計画につながっている。
 投票日は11月3日。投票・開票時間は、米本土の4つタイムゾーンにしたがって東から西へと順次進行する。今回の大統領選挙戦の行方を握る激戦州はほとんど、中西部と南部に位置しているので、早めの時間帯にこれらの州の情勢が先行的に報じられることになる。だが、郵便投票の開封・集計は一般投票の開票より遅れる。開票速報では初めは当日投票の多い共和党票の割合が高く、トランプ氏がリードするとみられる。その後、郵便投票の開票が順次加わり、バイデン氏が追いかけるレースになる。
 そこでトランプ氏が激戦州のリードが続いているうちに「勝利宣言」して郵便投票の開票停止を求める。トランプ氏がいつ、どの段階で「勝利宣言」をするのかを世界中が見守ることになる。(「Watchdog 21」10月21日拙稿「『米大統領選』正常に実施できるのか」参照)。

読み切れない激戦州の行方
 選挙の結果を握るとされ、両党勢力が拮抗しているのが、中西部から南部にかけての次の6州である(数字は大統領選出の最終権限を持つ大統領選挙人数)。
 ▽中西部(ラストベルトとも呼ばれる) ウィスコンシン(10)、ミシガン(16)、オハイオ(18)、ペンシルベニア(20)
 ▽南 部 ノースカロライナ(15)、フロリダ(29)
 中西部と南部の6州は元々は民主党の地盤だったが、2016年選挙でトランプ氏
が奪取して、予想外の当選を決めた因縁の州。南部2州は共和党が強い。
 ▽その他接戦州として挙げられるのが、ジョージア(南部16)、テキサス(同38)、アリゾナ(サンベルト11)、ネバダ(同6)。
 大都市を持つカリフォルニア(55)などの太平洋岸州、ニューヨーク(29)など
北部諸州は民主党、その他の人口の少ない諸州は共和党と色分けが出来ている。
 これらの激戦ないし接戦州は郵便投票の開封・集計について、3日の投票が終わるまでは手を付けない州もあれば、開票などの処理作業は投票日前に行うが集計は投票日以降という州もある。バイデン氏がかなりはっきりとリードしている州もあれば、きわどい競り合いになっているところもある。
 これらの州の開票速報に民主党票が多いとされる郵便投票の票数が多く加わってくるのが、どの段階になるのかを想定することは極めて難しい。トランプ氏がそれを見極めて、いつ「勝利宣言」を出すのか。郵便投票に不慣れな有権者のミスによる無効票は相当数出る可能性はあるが、開票が終わらない前に、残りの郵便投票をまとめてすべて「不正票」にして、自分が当選にしたことにしようという話。「陰謀」というには余りにもずさんだ。

追い詰められた末
 共和党が州最高裁判事の多数を握っている州ではトランプ氏の権力を押し通せるかもしれないが、連邦最高裁の判事までその威令にひれ伏すと思っているのだろうか。この「クーデター」は元々、支持率が伸びない中で「黒人の命は大切」(BLM)運動を受けとめられず、新型コロナを軽視して対応に失敗-などなど。追い詰められた末に逃げ込んだ先だったと思うのだが、トランプ氏は何をするのか分からないという不安は残る。   (10月28日記)

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