2020.11.16 米大統領選 バイデン大接戦制し、米民主主義の危機救う(上)
トランプ支持勢力は崩せず 「不正選挙」と裁判闘争

金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)

 米大統領選挙は民主党バイデン候補が接戦を制し、トランプ大統領の再選阻止に成功した。しかし民主党はトランプ氏の固い支持基盤を切り崩すことはできず、上院の多数奪還は来年1月の再選挙に持ち越し、下院も多数は確保したものの議席を減らした。トランプ氏は選挙に「不正」があったと裁判闘争に訴え、バイデン次期大統領への政権引き継ぎへも拒否の構えだ。共和党首脳部はトランプ支持を表明しているが、同党内部からも含めて民主主義の土台にある選挙の信頼性を損なうと強い批判が向けられおり、選挙結果が覆るとは思えない。バイデン新政権は国家を二分するトランプ勢力と対峙しながら米民主主義の回復を進めるという難題に挑むことになる。

トランプ支持票も伸びた
 異常な才能を持つ1人の人物が民主主義のルールを破り捨て、その規範をゴミ箱に放り込んだ(T.フリードマン、ニューヨークタイム紙コラムニスト)ことによって、民主主義国の盟主ともいわれた米国の民主主義は漂流状態に突き落とされてしまった。ニューヨーク・タイムズ紙は米民主主義が「断崖の渕」に立たされている中での選挙と表現した。
 こうした危機感が有権者の意識を高めて、投票率は66%超と記録的な高率になるとみられる。民主党はその選挙で大統領を奪還したうえで、長年の地盤、中西部で4年前に失った3 州を取り戻し、共和党根拠地の南部と西部の一角に切り込んで1州を奪い、2州を僅差に追い詰めている。選挙戦としてはひとまず危機を回避し、成功だったといえる。
 しかし、両候補が獲得した得票数を詳しく見ると、勝ったと喜んでいるわけにはいかない。得票数ではバイデン7,705万、トランプ7213万と492万票差、比率では50.7対47.5%と3.2ポイント差。前回選挙ではクリントン6584万票の48.1%、トランプ6298票の46%と2.1ポイント差だったから、差は1.1ポイント開いた。しかし、敗れたとはいえ総人口1億6660万人の米国で7000万人をこえる支持を得たことは、トランプ支持の堅固さを示している。
 トランプ大統領は就任以来、権威あるとされる多くの世論調査の支持率は終始40%前後にとどまり、過半数を超えたことはない。大統領選挙戦でも常に同バイデン氏にリードを許してきた。トランプ氏は2016選挙でもクリントン民主党候補にリードを許しながら最後に大逆転を果たした。この苦い経験から各世論調査は精度を高める努力をしたとされる。
 バイデン勝利の予想は動かなかったが、激戦州は「誤差の範囲」を超えた大接戦となった。世論調査は危うく、2016年の二の舞いになるところだった。トランプ氏には「隠れ支持者」がいるともいわれるが、専門家は裏付けるデータはないといっている。トランプ氏には特別な集票力があるのだろうか。

「白人国」への回帰?
 数ある問題の中で特定の一つ、あるいは二つを大きく取り上げて、思い切った強硬策を打ち出して注目を集める。反対は敵視して激しい言葉で攻撃を加え、支持を煽り、ブームを起こす。いわゆるポピュリズムの政治手法で、選挙には結構、有効なのだ。欧州ではハンガリー、ポーランドでこの型の強権政権が生まれている。「マッチョ好み」(macho男らしさ)の国とはいえ、米国にこのタイプの大統領が登場するとは誰も予想できなかった。
 政治経験のなかったトランプ氏が2016年大統領選挙に出馬、著名な共和党幹部たちをたちまち押しのけ、これも民主党を代表する本命候補クリントン氏も破って大統領になった。このとき以来、トランプ氏が掲げてきたのがスローガン「米国を再び偉大な国にする」(MAGA)、それを実現するための方法論が「米国第一」だった。
 トランプ氏は「偉大な米国」がいつの時代の、どの米国なのか直接示したことはない。だが、この4年間でそのイメージははっきりと浮かび上がった。「白人支配の国」である。トランプ氏の最初の政権人事でトランプ氏は白人至上主義の指導者S・バノン氏首席戦略官という要職に据えた。白人至上主義や極右の団体の活動が活発化して、紛争も起こり、不安も広がった。しかし、トランプ氏は記者の質問を受けても非難することは拒み続けてきた。
 白人警官の暴力的取り締まりで、女性や未成年を含む黒人が命を奪われる事件が相次ぎ、差別に抗議する「黒人の命は大切」(BLM)と呼ばれる抗議デモが全米に広がり、南北戦争の南部指導者の記念碑や顕彰像を取り壊し、スポーツその他のイベントで南軍旗を掲げることに反対するなどの運動が起こった。
  トランプ氏は歴史と文化を破壊すると強硬に反対して、人種差別反対のデモがBLM旗を振るのも、南軍を支持する人が南軍旗を掲げるのも同じ言論・表現の自由だとインタビューで主張した。大統領選挙のテレビ討論でBLMデモに介入する白人至上主義や極右団体を非難しないのかと質問されたが直接は答えず、テレビ画面を通して彼らに「今は下がって(不正選挙監視の行動に)備えよ」と呼びかけた。トランプ氏のこうした一連の言動から、トランプ氏が南北戦争で敗れても奴隷制度廃止に徹底的に抵抗した Ku Klux Klun などの白人至上主義を信奉しているとみて間違いはないだろう。
 トランプ氏が2016年選挙で掲げて就任早々から推進してきたのが「不法移民」の追放と新しい移民の厳しい制限だ。これも合わせればトランプ氏が復活を目指すいつの時代かの「偉大な米国」が白人支配の国であることは自ずと浮かび上がってくる。
 米国は建国時の白人国家から多数の移民を受け入れ、「人種のるつぼ」といわれた。しかし、白人移民は次第に頭打ちになり、第2大戦後の急速な経済発展に伴って非白人移民が増え、米国は多様性・多元文化の国「サラダボウル」への転換を果たしてきた。現在はなお70%を占める白人は2040年代半ばには半数を割る。「MAGA」はこの歴史の歩みを逆転させようとしている。トランプ氏とその支持者はそれが実現可能と考えているのだろうか。トランプ氏はそれによって政権を手にし、再選も果たせると考えていたのかもしれないが、その先どこまでこのスローガンを推し進めるつもりなのだろう。(続く)

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