2020.11.17 米大統領選 バイデン大接戦制し、米民主主義の危機救う(中)
トランプ支持勢力は崩せず 「不正選挙」と裁判闘争に

金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)

「ラストベルト」の「身元証明」
 2016年選挙でトランプ大統領に勝利をプレゼントしたのは、歴史的に民主党の州とされた中西部の工業地帯の有権者が多数トランプ支持に転向したからだ。米国経済発展を担った鉄鋼や自動車など花形産業はグロバリーゼーションの繁栄から取り残されて「ラスト(さび付いた)地帯」と化し、白人労働者の憤懣と怒り、政治・経済の支配層に対する不信が蓄積されていた。陰謀論好きトランプ氏はこうした不信に満ちた米国を実質的に支配している既成エリート支配層を「地下政府」(deep state )と呼び、敵視する。
 トランプ氏は強権で工場の海外移転を止めさせたり、閉山した炭鉱を再開させたりと、「弱者の味方」を演じた。だが、それで米国が世界に広めてきたグロバリーゼーションを止められるわけではない。今度の大統領選挙でもこの地域をバイデン氏が取り戻すか、トランプ氏が守り抜くかが勝敗を分け、大接戦にはなったがバイデン氏が全部取り戻した。
 しかし、「ラストベルト」に代表される白人低学歴層の不満、怒り、不信の底辺にあるのは単なる経済問題ではない。オバマ政権の下でやっと実現した医療保険制度「オバマケア」は低所得層の加入者を徐々に増やしてきたが、「小さい政府」の呪縛から抜けられない共和党は執拗に「オバマケア潰し」の機会を狙っている。トランプ支持層の低所得者も加入すれば恩恵を受けるはずだが、その動きは表には出てこない。「サンベルト」問題の本質は経済問題ではなく「身元証明」(アイデンティティー)の問題だからだという(新進ジャーナリストE・クライン、歴史哲学者F・フクヤマら)。「ラストベルト」問題は「白人の国」と同じ人種問題につながっているのだ。
 急速な科学技術、経済の発展によって、米国社会における彼らの役割は低下し、存在感が薄らいだ。移民の数は増え続けている。白人が多数を失う日が見えてきた。彼らは民主党の中核を占めていた労働組合を通して民主党の下にいた。もう民主党には頼れないと思ったところにトランプ氏が現れた。しかし、トランプ氏は「弱者の味方」なのか。選挙の結果からは何かが変わり始めたようにも見る。

ファクト・チェック1「史上最高の経済」
 世論調査は大統領候補としての支持、不支持を問うとともに、その時々の状況に応じて、有権者が関心を持つとみられる政策について個別に賛否を聞いている。経済政策、新型コロナ感染対策、人種差別解消、治安対策、移民問題、気候温暖化などだ。これらの中でトランプ氏が一貫して常に強い支持、あるいは信頼を受けてきたのが経済政策だった。
 米経済はトランプ政権のもとで(コロナ禍が広がるまでは)順調に推移して、失業率や新規雇用で好数字を残してきた。トランプ氏が不動産業で成功した実業家とされることも理由になっている。トランプ氏はことあるごとに、米大統領として米国に史上最高の経済繁栄をもたらしたという実績を繰り返してきた。
 政治家の発言に誇張はつきものだろうが、「史上最高の経済」は全くのうそである。トランプ政権下の経済成長率は2%そこそこ。オバマ政権末期からの延長である。1950〜60年代の高度成長期を除けば1990年代後半(民主党クリントン政権)の経済成長率は4.5〜4.7%で、これが「史上最高」である。

ファクト・チェック2「法と秩序」
  世論調査でトランプ氏がもうひとつ、バイデン氏より高いポイント得ているのが「法と秩序」。「黒人の命は大切」(BLM)や市民団体の人種差別に対する抗議デモでは、黒人が白人警官の暴力的な取り締まりで殺される事件が相次いだことで世論の支持が高まった。だが、参加者の一部の暴走や意図的挑発によって略奪や放火事件に発展することがある。トランプ氏は暴動をデモに紛れている極左勢力が引き起こすとしながらも、BLM、民主党、バイデン氏をひとまとめにして社会主義者(米国では今も社会主義と共産主義を同じように考える人が多い)、極左勢力と非難して恐怖をあおり、「法と秩序」を強調した。
 しかし、レイFBI(連邦捜査局)長官は議会で、デモに介入し暴力を挑発しているのは極右勢力や白人至上主義組織だと証言し、極左暴力組織の存在やBLMの暴力化を否定した。選挙が終わるとすぐ、BLMデモ鎮圧に実戦部隊出動を求められて拒否したエスパー国防長官が解任された。トランプ氏に都合の悪い事実を明らかにしたFBI高官が次ではないかとの観測がしきりだ。

フェイク、3年10カ月で22,247回
 ワシントン・ポスト紙の「ファクト・チェック」(トランプ氏の意図的うそと、事実ではないことを事実と思い込ませる発言を監視)によれば、トランプ大統領は就任以来2020年8月27日までの3年8カ月で22,247回、平均すると1日15〜16回のフェイク発言(ツイートも含めて)をしている。このうちで最も多く繰り返されたのが「史上最高の経済繁栄」で、407回に上った。
 トランプ支持者は、この大量の「フェイク情報」をそのまま信じている。トランプ氏は自分に都合の悪い新聞やテレビの報道はすべて「フェイク・ニュース」と切り捨ててきた。トランプ支持者たちは、トランプ支持のはっきりしているFOXテレビニュースと少数のラジオ局のほかの一般の報道は、ほとんど見聞きしていないとみられている。〈続く〉


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