2020.11.18 米大統領選 バイデン大接戦制し、米民主主義の危機救う(下)
トランプ支持勢力は崩せず 「不正選挙」と裁判闘争に

金子敦郎(国際ジャーナリスト、元共同通信ワシントン支局長)
 
「敵ではない、同じ米国人だ」
 バイデン氏は投票から4日経った7日夜(日本時間8日午前)、ようやく勝利宣言をした。バイデン氏の勝利演説の内容は日本でも新聞で詳しく報道されている。そのなかでバイデン政権がトランプ政権とは違う方向を目指すことをはっきりと示したところを、いくつか拾ってみた(東京新聞掲載のワシントン共同による演説全文から)。  

 ▽分断ではなく、融和を目指す大統領になることを誓う。米国は(共和党を支持する)赤い州も(民主党を支持する)青い州もなく、合衆国なのだ.
 ▽米国の魂を取り戻すため、大統領を目指した。屋台骨である中間層を立て直し、米国が世界で尊敬されるようにし、この国をまとめるためだ(筆者コメント、以下同じ:トランプ氏の「米国を再び偉大な国に」に対して「米国を再び尊敬される国に」を対置)。  
 ▽(副大統領になるカマラ・ハリス氏について)女性として、黒人女性、南アジア系の女生として、移民の娘として、初めてこの国の副大統領に選ばれた。こうしたことがこの国では不可能だと言わないで欲しい(トランプ氏の「白人の国」に対して、女性、移民、非白人などに対する差別のない多様性の国を強調)
 ▽ウイルスを封じ込め、繁栄を築き、医療を保障し、構造的な人種差別を米国からなくす闘いがある。気候変動から地球を救い、良識を取り戻し、民主主義を守り、全ての人に公正な機会を与える闘いもある。
 ▽私に投票しなかった人たちのためにも、私に投票した人たちのためと同じように懸命に働く。
 ▽米国の歴史はいつも私たちが何者なのか、どうありたいのかについて難しい判断をする転換点によってつくられてきた(以下、リンカーン、フランクリン・ルーッズベルト、ジョン・F・ケネディ、バラク・オバマをあげる)。
 ▽米国民は、良識と最も暗い衝動との闘いを絶え間なく続けてきた。この闘いにおいて、大統領の発言は重要だ。良識が打ち勝つ時だ。今夜、世界中が米国を見ている。米国は世界の灯台であり、力を示すだけでなく、模範となることによる力で世界を導く。

「傷」をいやす大統領になれるか
 米国は1950年代から70年代初めにかけて、公民権運動とベトナム戦争反対運動が続き、国内は大混乱に陥った。その後ニクソン氏が2回の大統領選挙を制し、内外政の混乱の収拾に取り掛かったが、2期目の途中にウォーターゲート事件で弾劾不可避に追い込まれて辞任し、米国は新たな傷を背負わされた。
 1976年大統領選挙で米国民はジョージア州ピーナツ農園主でワシントンとは無関係だったカーター氏に、傷を癒す「静かな大統領」の任務を託した。カーターはテヘランの米大使館占領事件の解決に失敗、再選をかけた1980年大統領選挙でレーガン氏に大敗した。カーターの4年をワシントンで取材した経験からは、カーター氏はあの不運な事件がなければ期待された役割を果たしたと思う。
 バイデン氏は民主党予備選のスタートで低迷、左派サンダース氏が独走するのではない
かいう情勢になっていた。しかし3月のミシガン州予備選で圧勝して息を吹き返した。同州予備選は共和党員の投票も認めていて、対立と分断の時代を「普通に戻そう」と呼びかけるバイデン氏に勝って欲しいと思った共和党員が多数、バイデン氏に投票したのが後押しになったとされている。
 そのバイデン氏の勝利演説を聞いて、カーター氏のことを思い出した。
 バイデン氏は「傷」をいやす大統領になれるだろうか。カーター氏の時代と大きく違っていることがある。トランプ氏の世界の事実と、バイデン氏の世界の事実は同じではない。ネットが持つ負の機能を操ったトランプ氏が異様なフィクションの世界をつくりだした。事実の共有ができないと対話は成立しない。トランプ氏という人物は何者なのか。

                             (11月11日記)

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