2020.11.23 世界中がホッと一息―バイデン・ハリス政権の光と影(下)
     トランプ不信任、主役は女性たち

伊藤三郎 (ジャーナリスト)

 「米国初の女性副大統領(候補)に私を選んだバイデン氏です」 ― カマラ・ハリス上院議員(56歳)は、ジョー・バイデン前副大統領(77歳)率いる民主党チームの「勝利宣言」でバイデン氏をこう紹介した。バイデン氏が次期大統領選での勝利を確信するに至った7日夜、同氏の地元、米東部デラウェア州で開かれたこの集会。恒例のトランプ現大統領の「敗北宣言」を待たず、コロナ禍の中、支持者の多くがマスクを着用して愛車に乗ったままにぎやかなクラクションの音で祝意を表すなど、異例ずくめの「勝利宣言」だった。中でも世界中の耳目を集めたのは、主人公のバイデン氏に先立って10分間の演説を続けたハリスさんのはじけるような笑顔だった。
 
 「私は女性として最初の副大統領になるかもしれないが、最後とはならない。なぜなら、今夜の私の話を聞いた多くの少女たちがアメリカはどんな夢もかなう国だと記憶するからです」
 バイデン氏紹介のために立ったハリスさんだったが、その演説自体そのまま「勝利宣言」だった。それは、就任すれば間もなく史上最高齢となるバイデン大統領に万が一のことがあれば自らが大統領に、という重大な使命を自他ともに意識したもの、と私の耳には聞こえた。
 果たしてハリス演説を聞いて胸がスカッとしたのは私一人ではなかった。私の古巣「朝日新聞」の元パリ特派員K君からこんなコメントが―
 「先日のバイデン勝利宣言とハリス副大統領候補の演説をTV中継で拝聴し、その知性と情熱に胸に迫る熱いものを感じました。とくに、ハリスさんのセンス、明るさ、優しさは印度人の母、ジャマイカ出身の父のDNAに加えてアメリカ暮らしの文化文明を合わせた新しい魅力を感じました」
 
 もう一人、やはり古巣の先輩で元ワシントン特派員A氏からは、こんどの米大統領選を明るくした女性たちを賞賛する次のようなメールも―
 「この大統領選の“脇のハイライト”ともいうべき三人の米国人女性のことを思います。
一人は言うまでもなくハリス。二人目は超人気の米音楽家レディー・ガガ。バイデンの勝利を聞き、あふれる涙にアイメイクをボロボロに崩しながら『トランプ大統領、敗北を認めて』と叫んだ姿が愛らしい……」
 
 A氏は続けて、こんどの米大統領選で三人目の「活躍した女性」として、バイデン、トランプと闘った第三の大統領候補、ジョー・ジョーゲンセンさんを挙げ、彼女の果たした役割を詳しく分析した一文の存在を知らせてくれた。
 それはブログの「YAHOO JAPANN ! ニュース」に掲載された『大統領選の勝敗を左右したのは、第3党の女性候補ジョーゲンセンだった』という長いタイトル付きのコメント(日本語)。書き手は、知る人ぞ知るパリ在住の欧州・EU(欧州連合)研究者、今井佐緒里さん。このコメントはそのまま引用するには長過ぎるので、話の要約を紹介したい。ナマの文章の引用は「つまみ食い」になるが、お許し願いたい。
 
 今井さんがこのコメントを執筆・発表された11月6日時点では、大統領選はジョージア、ネバダ、ペンシルバニアの3州が勝敗の運命を握る展開に。その時点でのジョージア州の得票数はバイデン244万9371票、トランプ244万8454票とその差はわずか917票でバイデン氏がリード(開票率99%)。この時、今井さんが注目した第三の候補、リバタリアン党の女性候補、ジョー・ジョーゲンセンさんが何と6万票以上を獲得。
 「『え、三人目がいたの? 二人じゃないの? 』と思う人が多いのではないだろうか。しかも、聞きなれない名前の党である。二人がたったの917票差という大接戦で競う中、彼女が獲得しているジョージア州の6万票はとても大きな意味を持つ」と今井さん。
 そのリバタリアン党とジョーゲンセンさんは最終的に選挙人を一人も獲得できない。その意味では「泡沫候補」には違いない。でも、と今井さんは書く。
 
 「それでも同党と彼女が獲得した票数のために、今回の大統領選の勝者が大きく変わったことは注目に値するのではないか(まだ誰も言っていないようだが・・・)」
 確かにおひざ元のジャーナリズムもこのリバタリアン党の存在意義に詳しく触れて来なかったようだし、私も本稿<上>の書き出しにはバイデン・トランプ両候補の「一騎打ち」と書いた。今井さんの「まだ誰も言っていないようだが」という表現は、控えめだが、おひざ元米国ジャーナリズムの盲点をチクリと刺した自負心をのぞかせる。
 もちろん今井説に説得力を持たせるために、もしこの党が候補者を立てなかった場合にこのリバタリアン党に投票した人々が、どう行動したか、の分析が求められる。今井さんはそれに答えて、リバタリアン党とは「個人の自由」を徹底的に追求し、政府には「徴税権も与えず、福祉政策も余計なお節介でお断り」というのが彼らの求める「個人の自由」だとの立場だという。そこから、もしリバタリアン党が候補者を立てなかった場合には、その支持票はバイデン氏よりはトランプ氏に多くの票が流れ、ジョージア州ではトランプ氏が勝った可能性が高かった、との推論である。
 
 こんどの米大統領選は最終的にはバイデンの圧勝に終わった形だが、全50州のうち、大接戦の最後の2,3州の開票が終わるまでどちらに転ぶかわからない難しさが付きまとった。その謎を解く一つの盲点が、米国のジャーナリズム、いや当事者の米2大政党さえもが「泡沫候補」と位置付けていたこの第三の候補ジョーゲンセンさんを担ぎ出した政党、リバタリアン党。究極の「個人の自由」を守るためにはいかなる政府、権威の干渉を拒否するという政党が究極のキャスチング・ボートを握っていた、という今井さんの指摘には、薄氷を踏む思いで「バイデン勝利」速報を流した私も、正直言って虚を突かれた。
 
 こんどの「米大統領選」の開票結果の分析など本格的な総括はまだこれからだが、想定される問題点は①世論調査と実際の開票結果との誤差、②総数538人の「選挙人」の全50州への配分は現在の有権者数を正確に反映しているか、③選挙に敗れた候補の「敗北宣言」によって勝者が決まる、という「潔き敗者(good loser)」の美風はこんごも維持されるべきか、④トランプ大統領が問題にした「郵便投票」をはじめ投開票のルールが現在のように各州ばらばら状態でいいのか、などなど際限がない。
 
 さて、トランプ氏が米国民に残した「深刻な分断」という後遺症を克服し、より合理的に正しく民意を反映させる「大統領選」へのルール改正は可能か。今なおトランプ大統領の「敗北宣言」拒否によって政権移行にさまざまの不便を余儀なくされているバイデン・ハリスの新政権ペアが、「ホワイトハウス」入りを果たした後の大きな宿題の一つだろう。
 結びに、再びハリス副大統領(候補)の言葉を(冒頭に紹介した「勝利宣言」から)―
 「私たちの民主主義が今回の選挙で投票にかけられました。米国の魂は危機に直面し、世界が注目しましたが、皆さんは米国に新たな日をもたらしました。あなたがたは希望、結束、品位、科学への信頼、そして真実を選んだのです」

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