2020.11.24 野党共闘の安全保障政策について
        ――八ヶ岳山麓から(326)――

阿部治平 (もと高校教師)

10月19日、共産党の人に誘われて、岡谷市まで共産党の街頭演説を聞きに行ってきた。6年前、やはり亡友に誘われて共産党の衆院選演説会に行ったことがある。そのときは私の質問に対して共産党の候補者は、「日米安保条約など国政の重要問題で一致できないから他党との共闘はありえない」と答えた。
しかし今回は様変わりで、山下副委員長以下予定候補3人が3人「野党連合政権の実現、そのため間近の衆院選では野党共闘を」という趣旨を繰り返して訴えていた。戦術変更の理由は言わなかったが、小選挙区制のもとでは、勝とうと思えば野党共闘は当然の戦術だと思う。
 
野党共闘ともなれば、国会議員の数では立憲民主党、票集めでは老人が多いとはいえ足のある共産党が中心である。この2党が重要な政策で妥協しなければ統一候補の実現は不可能だ。その際、第一に重要なのは安全保障政策である。
中国の出方によっては、次の衆院選で、安全保障問題は重要な争点になる可能性がある。というのは、台湾海峡ではアメリカの戦艦が動き回っているし、尖閣海域では中国海警の領海侵犯が頻繁になり、ことは空域にも及んでいる。尖閣諸島への中国民兵などの上陸、日本漁船への妨害がまったく考えられないわけではない。
立憲民主・共産2党が足並みをそろえられるのは、いまのところ、安倍政権が閣議決定した集団的自衛権の一部行使容認の撤回、新安保法制の廃止である。しかしそこに止まるだけだと、新安保法制制定以前の、アメリカの核抑止を前提とした自民党の安全保障政策と同じになってしまう。しかしこれを一歩進めようとすると、両党の安全保障政策はかなり大きな隔たりがあることがわかる。

立憲民主党は、個別的自衛権を持つ自衛隊は合憲だし、必要だとしている。綱領では、安全保障政策の基本として、専守防衛を貫き、現実的な安全保障や外交政策を推進する、健全な日米同盟を軸にアジア太平洋地域とりわけ近隣諸国との連携を強化する、さらに核兵器廃絶を目指している。党首の枝野幸男氏は、「米国との同盟関係を維持しながら核兵器禁止条約に参加するための具体的ロードマップを描く必要がある」と語っている。
アメリカとの同盟の維持とは、歴代政権の安全保障政策と同じで、アメリカの核の傘に入れてもらうことだ。にもかかわらず、同党が核兵器廃絶を目指すとか、核兵器禁止条約に参加するというのは二律背反である。だから「ロードマップを描く必要がある」というあいまいな言い回しになったのだろう。だが、私は枝野氏を笑うことはできない。アメリカの核抑止への依存と核兵器廃絶は、日本国民の多くが持つ心理を反映している。

日本共産党の綱領は、日米安保条約は廃棄、自衛隊は違憲としているが、ただちに自衛隊を解散せよとはいっていない。日米安保条約の廃棄も自衛隊の廃止も、「(党が主導するのではなく)国民の圧倒的多数」が要求したとき、これをすすめるとしている。
両党が連合政権の安全保障政策を作成しようとすれば、理念上の大きな違いが存在する。共産党はこれを解決する手段として、自衛隊は党としては違憲だが、連合政権としての憲法解釈では合憲、集団的自衛権行使は憲法違反という憲法解釈となるという。
日米安保条約については、党としては廃棄し、新たな日米友好条約締結をめざすが、連合政権としては「維持・継続」する対応をとり、政権として廃棄をめざす措置はとらないとしている。つまり共産党は、党と連合政権の足の向きがちぐはぐでも構わないというのである。
村の共産党の人によると、共産党の小池書記局長は、野党の連立政権ができれば防衛大臣になってもいいと言ったとのことだ。そうすると情勢次第では、小池防衛相は防衛予算獲得のために尽力し、共産党機関紙の「赤旗」は軍備拡張に反対するという事態が生まれかねない。

いま「国民の圧倒的多数」は、日米安保体制の破棄も自衛隊の廃止も望んでいない。世論がそうなるのは何十年先かわからない。その間自衛隊は存在するのである。
ならば共産党は、専守防衛に徹し個別的自衛権を行使するのみの自衛隊を合憲としたらどうか。憲法九条の制約をそう解釈すれば、国民に分かりやすいし、党と連合政権のまた裂き状態も解消できる。
ただし、共産党にはもう一つ課題がある。かつて藤野という政策委員長が防衛予算を「人殺し予算」と呼んで物議をかもしたことがあったが、その心理と認識は、私がつきあっている村の党員も同じである。この党員の自衛隊嫌いはできるだけ早くなおさないといけない。

思い返せば、民主党鳩山政権は、はじめ「対等平等な日米関係」「普天間基地は最低でも県外」ということだったが、「抑止力を学んだ結果」アメリカ海兵隊が沖縄にいなければ抑止力にならないからということで辺野古への移転となった。当時私は中国にいて、日に日に期待を裏切る民主党政権に歯ぎしりし罵りつづけたものだ。
小泉純一郎内閣が自衛隊のイラク派遣を決めたときも、安倍晋三内閣が集団的自衛権を認める閣議決定をしたときも、「日本がアメリカに従って戦わなかったら、アメリカは日本を守ってくれない」という理屈だった。いずれもアメリカの核抑止力に頼るものだが、立憲民主党がいまもって冷戦時代同様、アメリカの核抑止力に頼るとしているのは認識不足というほかない。

いま北朝鮮の核・ミサイル開発は長足の進歩を遂げ、その射程はグアムや日本はもちろん、アメリカ本土に届くかもしれないというようになった。北朝鮮とは桁違いの脅威は中国である。習近平主席は「中華民族の偉大な復興」実現のために、宇宙空間を含めた大規模、急速な軍拡を行っている。中国軍は、相手国の軍事システムを攪乱する強力なサイバー攻撃能力を持ち、また空母と大量の中長距離ミサイルを持つようになった。これは台湾だけでなく、沖縄とグアムに集中する米軍基地を短期間に無力化できる戦力である。さらに習氏は「戦えば必ず勝つ」中国軍実現のために、今後際限なく軍拡を行う勢いである。

冷戦が終って、21世紀に入っても歴代政権はアメリカの核の抑止力に頼る政策を続けてきた。安倍政権にいたっては自衛隊と米軍の一体化を図り、いわれるままに中距離ミサイルを装備し、高価な戦闘機を買い、自衛艦「いずも」を海外派遣・敵地攻撃目的の空母に改造した。南シナ海では海上自衛隊は、アメリカと共同訓練をやり、南シナ海と台湾海峡を遊弋する米艦護衛任務についている。

今日、沖縄を含む日本の軍事基地は中国ミサイルの攻撃の対象となる。
現状ではどんなに迎撃能力を高めても、相手のミサイルを全部撃ち落すことはできないし、かりに敵基地攻撃を試みたとしても、敵基地のすべてを撃滅できるわけではない。いずれも生残ったミサイルが日本に飛んでくることに変わりはない。自衛隊員だけでなく一般国民の犠牲も生まれる。アメリカの核抑止に頼りきりの安全保障政策は、すでに陳腐化しているといわなければならない。

日本の安全・平和のためには、米中間で武力衝突をしないことが一番である。米中力比べに対しては、日本はアメリカにすがりつくのではなく、両国の妥協を促す外交に踏み切る必要がある。そうするためには、少しばかりでも対米自立をしなかったら、相手にされないだろう。日米安保条約下であっても、アメリカとの距離をせめてNATO並みにする必要があると思う。
わたしは、連合政権の新しい安全保障政策は、軍事的には対米自立・専守防衛であること、外交的にも「日米対等」であり、「中立」を原則にするよう望みたい。鳩山政権の腰砕け状態をもう一度見るのは嫌だ。立憲民主・共産両党は、防衛費が際限なくかさみ、自国の安全がおぼつかない従来型の安全保障政策を続けるか否か、しっかり議論してほしい。決めたらそれを貫いてほしい。

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