2021.01.11 「ガースー」から「スガーリン」へ
 
WEB上で拡散する菅首相の独裁イメージ
                
広原盛明 (都市計画・まちづくり研究者)

 
 今年に入ってから、週刊誌のトップ記事に「次の総理は誰?」「さらば菅総理!」といった見出しが目立つようになった。昨年暮れの世論調査で内閣支持率が急落してからというものは、各週刊誌の次の企画テーマとして〝菅退陣マター〟が急浮上しているのである。次の世論調査結果次第では、この動きが一挙に加速して一大政局に発展するかもしれない。

 そんな風潮を受けてか、菅首相の人物像についても新たな論評が見られるようになった。毎日新聞1月6日の政治コラムがそうだ。見出しは「独裁イメージ? 広まる呼名『スガーリン』」というもの。掲載されている菅首相のポスター(自民党作成)と旧ソ連の指導者スターリンの写真が並んでいるのを見て、その意味が初めて分かった。強権的政治で知られる菅首相を旧ソ連の独裁体制を築いたスターリンになぞらえ、「スガーリン」という呼び名が広まっているというのである。

 私は時代遅れでネット交流サービス(SNS)などとは無縁の人間だが、ツイッターでは「#スガーリン」というハッシュタグをつけられた投稿が最近は相次いでいるという。内容は「異を唱える者は徹底的に弾圧・妨害・排除する」「周りに侍っている官僚はイエスマンだらけ」など、菅首相の強権的、独裁的体質を指摘するものが多いそうだ。私なら「思想統制・公安内閣」「説明抜き恫喝政治」などといった内容もこれに付け加えたいところだ。

 一方、今年に入って菅首相が「復古イメージ」を強力に打ち出したことにも気づく。読売新聞(1月4日)は、「菅首相『現状では男系継承を最優先』…旧宮家の皇籍復帰については『発言控えたい』」 との見出しで次のように伝えた。
 
 「菅首相は3日のニッポン放送のラジオ番組で、安定的な皇位継承のあり方について、『今日まで男系継承で脈々とつながってきている。そこは極めて重いものがある。現状では男系継承を最優先にしていくべきだ』と語った。戦後に皇族の身分を離れた旧宮家の男系男子の皇籍復帰については、『私の立場で発言することは控えたい』と述べるにとどめた。ラジオ番組は2020年12月18日に収録された。安定的な皇位継承策を巡っては、17年に成立した平成の天皇陛下の退位を実現する特例法の付帯決議で速やかに検討するよう求められており、政府で議論が続いている」

 そう言えば、1月3日の産経新聞6、7面全紙を使って掲載された「菅義偉首相インタビュー」記事にも驚いた。インタビューといっても産経記者が質問するわけではない。インタビュアーとして登場したのは、かの有名な右派勢力を代表する櫻井よしこ氏なのである。紙面の扱い方からしても、菅首相と櫻井氏のツーショット写真の掲載からしても、記事は事実上、両氏の〝対談〟として位置づけられている。これは「菅首相新春インタビュー」ではなくて、「菅首相・櫻井よし子新春対談」なのである。

 見出しがまた面白い。「10年先を見据え 出発の年に、改憲へ しっかり挑戦したい」「春になれば雪は解ける、我慢すれば必ず変わる」とあるように、「ガースー発言」以来、苦境に陥っている菅首相を右派勢力が総力を挙げて支えようとする意図が透けて見える。もはや「スマホ値下げ」といった小手先の手法では世論を引き付けることができなくなったので、今度は保守勢力を結集するための2大テーマ「改憲」「皇位男系男子継承」を前面に出し、右派勢力を総動員するキャンペーンが始まったのである(と見るべきであろう)。

 これまで菅氏の人物像としては、「秋田出身、地方出身の苦労人」「たたき上げの庶民政治家」といった〝地方イメージ〟が意識的に打ち出されてきた。安倍・麻生氏に象徴されるような(日本の支配階級の系統を受け継ぐ)世襲政治家とは異なるイメージを打ち出すことで、自民党政治を一時的に立て直す「ワンポイントリリーフ」としての役割が期待されていたからだ。

 ところが、菅氏は学術会議会員任命問題で出足から躓(つまづ)いた。著名な学者6人を理由もなく任命拒否することで、この人物が「庶民政治家」とは縁もゆかりもない、公安情報に依拠して思想統制を目論む独裁者であることが赤裸々になったのだ。また首相の1日が記録される「首相動静」によって、菅氏が朝昼晩「はしご会食」を繰り返し、夜には(国民には自粛を求めながら)「多人数ステーキ会食」などグルメ三昧の生活を送っていたことも明るみに出た。

 地に堕ちた「庶民政治家」を立て直す旗印は何か。それは「政治理念がない」「政策哲学がない」「国家構想がない」などと言われてきた菅首相に〝政治イデオロギー〟を与えることだ。産経新聞の「菅・桜井新春対談」は、まさしくそのために企画されたと考えることができる。シナリオは、ニッポン放送のラジオ番組が収録された昨年12月中旬にはすでに出来上がっており、それが新春早々の大型対談で本格に発進されたのである。ちなみにその内容がどんなものか、一部を抜粋して紹介しよう。

 櫻井、「昨年、首相が日本学術会議が推進した新会員候補6人の任命を拒否したと知ったとき、失礼ながら『お主、やるな』と思いました(笑)」
 菅、「官房長官時代にこの組織は既得権益のようになっているのではないかと感じていました。私は昨年9月の自民党総裁選で『既得権益、あしき前例主義を打破し、規制改革を進める』と公約し、当選しました。そういう思いの中で判断しました」

 櫻井、「安倍晋三前首相は憲法改正を公約に掲げ、野党時代を含め連続6回国政選挙に勝利しました。日本をもっと元気で、開かれた国にしていくために菅首相にも期待していいでしょうか」
 菅、「安倍前首相は大変熱い思いで取組んでおられました。憲法改正の国会発議には衆参両院の総議員の3分の2以上の改憲勢力を確保しなければならないという大きな壁があることも事実です。ですから、私もしっかり挑戦したいと思います」

 櫻井、「安定的な皇位継承の在り方については男系男子を維持し、2千年以上続く日本の伝統を受け継ぐのが正しい道と思いますが、どうお考えですか」
 菅、「日本は今日まで男系男子の継承で脈々とつながってきているわけでありますから、極めて重いものがある、こういうふうに思っております」

 菅首相は「自助」を強調する根絡みの新自由主義者だと言われるが、その一方、皇位継承では男系男子にこだわる極め付きの復古主義者でもある。「スマホ値下げ」といった小手先の人気取り政策が通用しなくなったいま、また新型コロナ対策で打つべき手がすべて後手後手にまわっているいま、菅首相は櫻井氏と組んで「改憲」「皇位男系男子継承」を政治課題化して右派勢力を総結集し、政権維持のための新たな「賭け」に出たのではないか。

 毎日新聞の政治部デスク・野口記者は、「オピニオン、記者の眼」(1月7日)の中で、菅氏の政治姿勢を次のように分析している。
 「私は第1次安倍政権発足前から菅氏を取材する。政治姿勢を一言で表せば『ばくち打ち』だ。政局となれば、全政治財産を賭けて勝負に出る。第1次、第2次安倍政権誕生前、水面下で真っ先に動いて安倍氏勝利の流れを作った。昨年9月は二階幹事長といち早く組み、首相の座をつかんだ」

 だが、「ばくち打ち」の菅氏に国民の生命と暮らしは任せられない。菅氏の取るべき道は、自らの非力を認めて政権の座から降りるしかない。菅首相は昨年11月からの「勝負の3週間」に続き、今年1月からは「勝負の1カ月」(緊急事態宣言)に政治生命を賭けるというが、その成否は前回と同じく目に見えている。

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