2021.02.18 大坂なおみ対ムグルーザ戦短評(全豪テニス)

  テニスの世界4大トーナメントの1つ、全豪オープンがメルボルン・パークで開かれているが、この大会第3シードの大阪なおみ選手は16日の準々決勝に勝利して、ベスト4に進出している。本欄にハンガリーから原稿を送ってくれる盛田常夫氏はテニスにかけても専門家はだしの批評眼をお持ちで、興味深い観戦記を送ってくれている。
 今日は去る14日に行われたベスト8をかけた4回戦、昨年この大会で準優勝しているスペインの強豪、ガルビネ・ムグルーザとの熱戦の模様をお届けする。

盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)

 今年のテニス全豪オープンの大坂は非常に良い状態でたたかっている。少し丸みを帯びた体型になったが、フィットネスは完全に仕上がっている。グランドスラム大会の難関である4回戦(ベスト16)で、大阪はムグルーザと対戦した。全仏(2016年)とウィンブルドン(2017年)の優勝経験をもつムグルーザだが、タイトル獲得の後はやや低迷が続いている。安定した成績が残せていない原因の一つが、ストロークの安定性と勝負弱さである。昨年は全豪決勝まで行き、3つ目のタイトルを狙ったが、ヘニンに敗れた。今年の全豪に向けて、ムグルーザは十分な準備を進めてきた。前哨戦から調子が良く、全豪でも4回戦まで危なげなく進んできた。そこで大坂との初対戦が実現した。

第1セット
 第1セットは大坂のサーヴィスがブレークされて、4-6でムグルーザ。ポイントは大坂の25ポイントに対して、ムグルーザは28ポイント。ファーストサーヴィスの平均速度は大坂が173km/h、ムグルーザは159km/h。セカンドサーヴィスのそれは、大坂が132km/h、ムグルーザは134kmだった。
 ムグルーザのサーヴィスの速度は遅いが、プレースメントが非常によく、大坂にサーヴィスへの攻撃を許さなかった。大坂の速いストロークにも打ち負けず、逆にストロークエースを取る場面が何度もあった。3回戦までの対戦相手なら返球できないストロークを何度も切り返され、大坂はストロークのアンフォーストエラー(unforced errors)を重ねたことが、第1セットを失った原因である。
大坂が14本のエラーを記録したのに対し、ムグルーザは6本に抑えた。もっとも、ウィナー(winner、ストロークエース)は大坂が13本に対し、ムグルーザは5本だから、エラーとエースの数を比較(相殺)すると、ストローク戦はほぼ互角だったと言えるが、それは統計上のことで、実際の感覚ではムグルーザがストローク戦を制しているという状態だった。
 大坂がゲーム序盤で早々とムグルーザのサーヴィスをブレークして2-1とし、次のサーヴィスゲームで3-1とするはずだったが、このサーヴィスゲームを取り切れなかったことが、第1セットの行方を不確実にしてしまった。

第2セット
 第2セットもほぼ互角の戦いだった。サーヴィスエースの数(エースとダブルフォールトを相殺した数)、ウィナーとアンフォーストエラーの数(相殺数)を比較しても、まったく同数である。トータルポイントは大坂の27ポイントにたいし、ムグルーザの26ポイントとほぼ同じである。
 双方とも1ブレークダウンで迎えた大坂5-4の終盤。ムグルーザはサーヴィスゲームを落とし、このセットを失った。この結末はややあっけなかった。ムグルーザの勝負所での気弱さと、勝機を逸しない大坂の動物的感覚が、このセットを決めた。

第3セット
 ムグルーザがこの試合で大阪と互角の戦いを展開した要因はストロークの安定性とファーストサーヴィスの高い確率である。ムグルーザのファーストサーヴィスの確率は試合を通して79%ときわめて高かった。大坂のそれは61%である。これだけサーヴィスが好調だと、相手はサーヴィスを破るのが難しい。第3セットも80%の確率でファーストサーヴィスを決めてきた。
 大坂のワン・サーヴィスダウンで迎えたムグルーザ5-3からの大坂のサーヴィスゲーム。大坂は15-40のダブルマッチポイントを相手に与えてしまった。それまでの流れを考えると、大坂の逆襲は難しい。大坂の連戦連勝はここで終わりと思った瞬間から、試合が逆転しだした。
 第3セットのスタッツを見ると、トータルポイントは大坂41ポイントに対し、ムグルーザの36ポイントだったが、それは結果データである。ダブルマッチポイント迎えた時点で、大坂はムグルーザに比べて、7ポイントも差を付けられていた。絶体絶命の状態だったことが分かる。ところが、そこから信じられないような逆襲が始まった。
 マッチポイントを迎えた大坂は4ポイントを連取してこのゲームを取りゲームカウントを4-5にし、ムグルーザのサーヴィスゲームを迎えることになった。ムグルーザが自分の力でこのゲームを取り切れば、ゲームセットである。
 ここでムグルーザにプレッシャーがかかった。ムグルーザはこのゲームを取り切ることができず、ゲームカウントは5-5のタイになってしまった。流れが変わった。続く大坂のサーヴィスゲームは大阪が簡単にとり、試合終盤になって試合は一変した。大坂6-5からのムグルーザのサーヴィスゲームで、ムグルーザは1本ともとることができず、大坂の前に屈してしまった。
 ムグルーザがダブルマッチポイントを迎えた試合終盤からゲームセットまで、15分間に22ポイントのラリーがあったが、そこで大坂が獲得した17ポイントに対し、ムグルーザのそれは5ポイントだった。まさに終盤で怒涛のような大坂の攻撃があったことが分かる。

 観戦中は大坂がどうやって勝ったのか不思議だったが、終盤のスタッツは大坂の勝負強さと動物的攻撃感覚を際立たせている。なんとも凄まじい試合だった。

 準々決勝(5回戦)の相手は謝淑薇(シェイ・スーウェイ)である。プロの選手の中に、一人だけ「素人のおばさん」がいるという感じの選手である。ボールをラケットに当てるだけで、サーヴィス・スピードもファースト、セカンドともに120km/hの選手である。彼女の怖さを知らない若い選手は皆、謝選手の術中に嵌ってしまう。簡単に打ち負かすことができそうなのだが、どんな球でもラケットを振るというより、当てる感覚でフラットに返球してくる。それも相手の嫌なところへ。まるで、素人のテニスを見ているような感覚になるのだが、若い選手が軒並み負かされる。誰にとっても、嫌な対戦相手である。プロ野球でいえば、大坂やウィリアムズが150km/hの豪速球を投げる投手だとすれば、謝選手は110-120km/hの球速でコーナーを突いてくる投手のようなものだ。打者にとって怖さはないが、振り切れない難しさがある。ウィリアムズに当たるよりは良いともいえるが、テニスの感覚を狂わされる恐れがある。こちらの方が怖い。
 このような選手と対戦する場合、相手のペースに嵌らないように、パワーで圧倒する必要がある。ただ、それが雑なプレーを生むと、相手の思うつぼになるというのが、対謝淑薇戦の見どころである。
さて、どうなるか。興味津々。

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