2021.02.20  テニス全豪オープン準決勝(大坂-S.ウィリアムズ戦) 短評

 大阪なおみ選手の全豪オープンテニス奮戦記。
 いよいよS.ウイリアムズ(米)との準決勝である。お楽しみください。
この試合に勝った大阪選手は20日の決勝戦に臨む。
 相手はJ.ブレイデイ(米)。今大会第22シードと格下の選手ではあるが、大阪選手が平常心でおさえこめるかどうか、
 盛田氏の戦評を待とう。

盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)
            
因縁のセリーナ・ウィリアムズ戦
 S.ウィリアムズ(米)が今年の全豪にかける意気込みは並大抵のものではなかった。グランドスラム大会の勝利数23勝は女子テニスの歴代2位である。あと1勝すれば、マーガレットー・コート・スミスの記録に並ぶ。そうすれば、以後何十年も破られることのない大記録となる。しかし、2017年の全豪優勝以後、2018年と2019年に2度ずつグランドスラム大会決勝に進んだが、いずれも負けた。この1勝が遠い。出産を経ただけでなく、自然年齢も重ねていく。40歳直前のセリーナ・ウィリアムズに残された時間はそれほどない。もしかしたら、これが最後のチャンスなるかもしれない。悲壮な決意をもって、今年の大会に準備を重ねたはずだ。
 2018年の全米オープンで24勝目が実現するはずだった。いまだ経験の浅い大坂なおみ相手なら、記録達成は難しくないと思っていただろう。ところが、である。180km/hを超える速いサーヴィスを次々に決め、ストローク戦でも一歩も引けを取らない大坂にたいして、ウィリアムズは苛立った。「こんなはずではない」という思いが、ラケット破壊の怒りに爆発し、コート外からのコーチング、さらに再度のラケット破壊で、第2セットの1ゲームを戦わずして失うという前代未聞の試合になった。そして、弾丸サーヴィスが次々と決まる初陣の大坂がこの大舞台でウィリアムズを押し切り、グランドスラム大会初優勝を記録した。しかし、試合に勝っても大坂は喜びの表情を現わせなかった。サンバイザーを下げて顔を隠し、ベンチで涙した。まるで敗者のように振舞わざるを得なかった。さらに、この時の表彰式は悲しいものだった。ニューヨークの観客は大坂にブーイングを浴びせ、大坂は表彰式でも涙することになった。さすがにウィリアムズは大坂を抱き寄せて慰めたが。
 それから2年余を経過して、再びグランドスラム大会で両者の対決が実現した。大坂はウィリアムズに憧れてテニスの道に入った。ウィリアムズをリスペクトする大坂にたいし、ウィリアムズはもう何のわだかまりもないという。しかし、勝負は勝負である。2018年当時に比べ、ウィリアムズはかなり体を絞り込んできた。2018年の戦いではウィリアムズの息が完全に上がっていた。正確には分からないが、当時から10kg~15kgの減量で今年の全豪オープンに臨んできた。体のキレの良さとパワーは全盛時を彷彿とさせるものだった。これだけ準備を重ねてきたウィリアムズにたいして、大坂がどのように戦うのが、それが最大の興味だった。

第1セット
 コイントスでサーヴィスを選択した大坂だが、緊張の所為か、いきなりサーヴィスをブレークされてしまった。波乱を予想させる出だしだった。ウィリアムズは次のサーヴィスゲームをキープし、ウィリアムズは2-0とリードする滑り出しになった。大坂のファーストサーヴィスが決まらず、第3ゲーム目も苦しい展開になった。このゲームでもダブルフォールトで、相手にアドヴァンテージを与えてしまった。もしここでブレークされていれば、第1セットはウィリアムズの一方的な展開になったはずである。しかし、一皮むけてメンタルが強くなった大坂は大崩れしない。大坂はここで踏ん張り、3ポイント連取して、かろうじてゲームカウント1-2とした。そして、ここから大坂はさらに連続して4ゲームを連取して、一挙に5-2とウィリアムズを引き離した。
 この後、ウィリアムズがサーヴィスをキープして5-3となり、大坂がセット締めるサーヴィスを迎えた。ここでもダブルフォールトが1本あったが、簡単にゲームを取り切り、第1セットを取得した。このセットの大坂のファーストサーヴィス確率はなんと36%である。第1サーヴィスが入った時のポイント取得率は75%だが、これほど低調なファーストサーヴィ確率でセットを取り切ったことが不思議だ。「負けに不思議な負けなし」という野村語録通り、ウィリアムズのそれも48%と高くなかった。どっこいどっこいだったのである。サーヴィスが不調な大坂を攻撃できず、逆にアンフォーストエラー(大坂11本、ウィリアムズ16本)を重ねたために、ウィリアムズは序盤の優勢を維持することができなかった。
 大坂以上にウィリアムズが緊張していた。ウィリアムズは大坂のストロークのスピードを警戒しすぎ、ストローク戦でのプレッシャーを感じていたと思われる。それが余分な力みをなり、アンフォーストエラーを重ねる原因になった。
 4回戦で戦ったムグルーザは一見してストローク戦を制しているように見えたが、試合後の記者会見で「大坂のストロークのプレッシャー」が大きかったと話している。大坂のストロークはスピードとパワーがあり、多くの女子選手には男子選手と戦っているような感覚を与える。そのプレッシャーがミスを誘発させる。
 ウィリアムズが第1セットを取り切るチャンスがあったにもかかわらず、ずるずると押されてしまいセットを失ったのである。

第2セット
 第1セットとは逆に、第2セット第1ゲームで、大坂が早々とウィリアムズのサーヴィスゲームをブレークした。このリードを保ったまま大坂4-3で迎えたサーヴィスゲームで、ウィリアムズが大坂のサーヴィスをブレークした。ブレークしたというより、大坂はなんとダブルフォールト3本で、戦わずして相手にゲームを与えてしまったのである。4-4となり、試合は一挙に風雲急を告げることになった。
 大坂のファーストサーヴィスの確率は56%と上がったが、ダブルフォールト5本を重ねた第2セットは、サーヴィスゲームをうまく組み立てることができず、接戦になってしまった。ウィリアムズも同様に、ファーストサーヴィスが入らず、大坂よりも低い44%の確率だった。
 双方にミスの多いこの試合を決したのは、最後の2ゲーム6分間である。
大坂のサーヴィスがブレークされて4-4となった次のウィリアムズのサーヴィスゲーム。ウィリアムズのダブルフォールト1本と、大坂のバックハンドクロス3本のエースのラブゲームで再度、ブレークバックした。このブレークに要した時間は3分だった。
そして、最後になった大坂のサーヴィスゲーム、最初のサーヴィスエースに始まり、フォアハンド2本とバックハンド1本の強烈なストロークでウィリアムズを粉砕してしまった。このゲームに要した時間も3分だった。
 最後の6分間8連続ポイントの猛攻で、大坂は憧れのウィリアムズに引導を渡したのである。本当にこの敗戦がウィリアムズにとって、グランドスラム大会での最後の大一番となるかもしれない。

 この試合は大坂もウィリアムズも得意の弾丸サーヴィスで相手を制することができなかった。勝負を決めたのは、大坂のストローク・ウィナーを連発だった。ウィリアムズのストロークも強烈だが、ウィリアムズは腕の力だけでボールを叩く。大坂のストロークは腕の力ではなく、下半身の安定した動作に裏付けられているからキレがある。この違いは大きい。ウィリアムズがさらに10-15kg減量してトレーニングを積むことができれば、まだ大坂と戦うことができるが、40歳を迎えるウィリアムズにそれを求めるのは酷だろう。
 歴代1位のグランドスラム勝利記録が遠ざかる。記者会見で見せたウィリアムズの涙は、もう勝利を得ることができないかもしれないという悲しみの涙である。

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