2021.03.06 ワクチン、治療薬、そしてオリンピックをめぐる雑感
      ――八ヶ岳山麓から(331)――   
                     
阿部治平 (もと高校教師)

まずワクチンについて
 テドロス世界保健機構(WHO)事務局長によれば、世界のワクチン供給は、世界人口の16%にすぎない富裕国が全体の60%を購入しているのに対し、ほとんどの低所得国にはワクチンが届いていないという。別のニュースは約80ヶ国でワクチン接種が進む一方で、100ヶ国以上では始まらないともいう。

 その富裕国でも、ワクチンが足りないために奪い合い状態だ。EUはファイザーやアストラゼネカの工場があるが、域外への輸出を許可制にして規制をはじめた。日本への供給が遅れているのはこのためだ。またイギリスやフランスでは2回接種すべきところを、期間を延長したり1回にしたりした。
 先進7か国(G7)首脳は、2月19日国連とWHOの低所得国向けワクチン共同購入枠組み「COVAXコバックス」への拠出増強を表明した。これを受けてイギリスは、40億ドル(約4200億円)の拠出を約束し、EUもコバックスへの拠出を倍増させて10億ユーロ(約1300億円)とした。ドイツは15億ユーロ(約1900億円)の追加拠出を表明したとのことである。G7全体からの拠出は75億ドル(約7900億円)に上るという(以上信濃毎日新聞 2021・02・24)。
 だが、現実には富裕国は優先的にワクチンを確保し、余りを低所得国に回すようなやり方をとっている。これはコロナ禍克服のために意味のある行為とは思えない。ワクチンが確保できない国で感染が進めば、いずれ変異ウイルスが生まれ、それが各地に飛び火して新たな感染爆発が起きるかもしれないからだ。

 G7がワクチンの取り合いをしているのを尻目に、ロシア、中国は自国製ワクチンを武器に精力的に外交戦を展開している。とりわけ中国は習近平国家主席がアフリカ大陸に20億ドル、中南米諸国に10億円のワクチン融資を行うと発表した。
 ロシアのワクチン・スプートニクVは、医学誌から有効性の高さ(95%)においてファイザーやアストラゼネカのワクチンに次ぐ高い評価を受けており、すでにイランで接種が始まっているほか、ベラルーシ、アルゼンチン、メキシコ、ミャンマー、ハンガリー、フランスなど20カ国以上が導入を進めつつある。
 これに比較して中国製ワクチンの「シノファーム」と「シノワク」は有効性がWHOの最低基準である50%程度から接種実施国によっては90%超というまちまちの評価である。 だが「シノファーム」と「シノワク」は、カンボジア、フィリピンなどの東南アジア、パキスタン、イラク、トルコなどの中東、アルゼンチン、ブラジル、チリなどの中南米にも、さらにはハンガリーなどEUの一角にも提供を進めつつある。中国は無償援助を強調しているが、しかしすべて無償というわけではない。
 いまや中露両国と、世界有数のワクチン製造拠点を持つインドを勘定に入れずに、国際的な感染病対策をすることはできなくなった。だが、G7も中露も、地球規模で新型コロナを撲滅する気があるならば、(ワクチン生産国は知的財産権を失うかもしれないが)、ワクチンそのものだけでなく製造技術と資本を貧困国に提供して、生産拠点をそこに作るべきである。

ついで治療薬について
 一方、ワクチンによる予防に尽力するだけでなく、インフルエンザ対策にタミフル、リレンザなどの特効薬があるように、新型コロナウイルスの治療薬を忘れてはならないと思う。
 1月末に南アフリカで新型コロナウイルスの治療薬として、イベルメクチンを使用し始めたというニュースがあった。だが南ア当局は、その有効性については懐疑的だということであった(共同)。また、日本では新型コロナウイルスの治療薬として臨床試験(治験)中の抗寄生虫薬などを海外から取り寄せる動きが広がっているが、厚生労働省は未承認薬の安易な服用を控えるよう求めているという。
 この時までわたしは、イベルメクチンについては、北里大学大村智博士が土壌微生物から発見し、アメリカの共同研究者とともに「エバーメクチン」として抽出したこと、それを製品化したイベルメクチンが家畜の寄生虫駆除薬だったこと、それがヒトの寄生虫感染症にも効くことがわかってノーベル賞を受けたこと、という程度の知識しか持ち合わせていなかった。
 ところが、ネット上で酪農学園大学動物薬教育センターのイベルメクチンに関する解説を読んで、これが新型コロナウイルスの治療薬としても有効なことを知った(掲載日:2020.05.01)。

 さらに、さる2月25日には「BS-TBS」テレビの「1930」が、新型コロナウイルス治療薬としてのイベルメクチンを巡る問題をとりあげた。討論に参加したノーベル賞受賞者本庶佑氏と北里大学の研究者は、イベルメクチンの新型コロナウイルス治療に対する高い有効性を強調し、治療に使用すべきだと主張した。また、そこではイベルメクチンを製品化したメルク社がこれを増産しないこと、日本で使用するには制度上の制約があること、政府がこの特効薬に対して政策を持たないことなどの問題が指摘された。
 日本はワクチン開発政策を誤ったために、もっぱら他国頼りという惨めな結果となっている。しかしやりようによっては、日本発のイベルメクチンをもって国際貢献をすることができるのではないか。別な見方をすれば、いつもアメリカの尻っぺたにくっついている日本に、これをもって独自の外交的成果をあげられる千載一遇のチャンスが訪れたといえるのではないか。政府と国会には、ぜひこの治療薬に関心を持ち、急いで対策に取り組むことを期待したい

おわりにオリンピックについて
 オリンピックをどうするかという課題が迫っている。菅総理は、「人類が新型コロナに打勝った証として」か、それとも次期衆議院議員選挙の勝利のためか、いまにいたるも開催の決意を曲げていない。だがわたしは中止したほうが、わが日本の名誉のためだけでなく、自民党のためにもなると思う。
 WHOは今年中には、全世界で感染拡大を抑制できるほどの「集団免疫」の状態には到達できないといっている。そもそも開催国の日本がワクチンが足りず、接種を日伸ばしにしている状態である。オリンピック開催の7月までに国民が「集団免疫」の状態に到達することなど、ほとんど絶望的だと言っていい。しかも、3月初旬の現在、感染再拡大を危惧する専門家が多いというのに、政府は規制緩和をしそうな気配である。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、ワクチン接種には矛盾した方針を出している。一方で接種はオリンピック参加選手に義務付けないし、優先的に接種させるのを望まないといい、他方で各国オリンピック委員会に対しては、選手になるべく接種を受けさせるよう指示していると聞く。ワクチン接種がIOCにとっても難問題になっていることを示している。

 ところが、丸川珠代オリンピック担当相は「ワクチン接種を前提としなくても安全安心な大会を開催できるよう進めている」「(選手らの)入国前の健康チェック、行動の把握、入国前と入国時の検査、入国してからの行動を全て規制、把握するなどの対応をとる」という。これは選手とその関係者1万数千はともかく、外国からの観客を迎える気はないという構えかたである。
 実際にこれをやったら、各国から集まる選手と関係者は囚人、よくいっても籠の鳥状態だ。試合は無観客か、日本人だけの観客、それも極端に少ない試合となることは目に見えている。だれが望まなくても、国際的な政治問題になるだろう。
 これがオリンピック精神とどう合致するのだろうか。――迫りくる破局、それとわが日本は戦えるだろうか。
(2021・03・03)                                                        

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