2021.03.27
緊急事態宣言は新型コロナへの無理解が生んだ大失政だ!
~必要性も効果もないのに被害は深刻~
菅義偉首相が1月7日に出した新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が3月21日、再延長されていた東京都など4都県でも解除された。
いま、「第3波」と呼ばれる流行の性質や宣言に基づく対策の効果を検証すると、延長・再延長はもとより宣言発出そのものが不必要だったことがわかる。宣言は新型コロナに関する無理解が生んだ大失政だったと筆者は考えている。
宣言はなぜ不必要だったのか。主な理由は、①「第3波」は季節が冬になったため起きた流行であり、住民の気の緩みが引き起こしたものではない、②飲食店の営業時間短縮を柱とする感染抑制対策はほとんど効果がなかった、③医療の逼迫は医療体制の整備で解決すべきものであり、感染者減らしで解決しようとするのは筋が違う――の三つだ。
◆冬に流行し春には終息する
新型コロナやインフルエンザなど「弱毒性ウイルスによる呼吸器感染症」は、晩秋から初冬にかけて流行が始まる。気温が下がってウイルスが活性を取り戻すからだ。
感染症の研究歴が長い川村孝・京都大学名誉教授によれば、流行が始まると新規感染者は増え続け、ピークに達すると、しばらく高原状態を続けた後、下落に転じる。新規感染者は多少の上下動をともなって減っていき、暖かくなる3月末か4月上旬までには終息する。
感染するのは免疫力が弱いなど「感染しやすい人」だ。一般に高齢者や持病のある人は免疫力が弱く、睡眠不足などで免疫力が一時的に下がる人もいる。
流行が終息してもウイルスが完全にいなくなるわけではない。その後も少数の感染者を出しながら生き残り、冬が近づくと再び流行が始まる。梅雨時や夏に小さな流行がある年もある(「新型コロナウイルス感染症の総括」2月24日など)。

昨年11月末以降の新規感染者数(PCR検査の陽性者数)の動きをグラフに示した。グラフの流行曲線は報告数(青線)と「7日間の移動平均」(日曜日から土曜日までの平均値を水曜日の値にする=赤線)の二通りが示されているが、曜日による変動をならした移動平均がわかりやすい。
グラフの感染者数は発表日に基づいている。感染から検査結果発表までに1週間以上かかるから。実際の感染日(推定感染日)はグラフより一週間以上前になる。
グラフによれば、新型コロナの感染者は昨年の年末から年初にかけて(感染日でいえば昨年12月下旬に)ピークに達し、高原状態が10日ほど続いて下降に転じ、以後、多少の上下動を伴いながら減少しつつある。
菅首相の緊急事態宣言は、流行のピークを過ぎてから発出されたことがわかる。
◆年末年始に激増したPCR検査
グラフによれば感染者数は昨年末から年始にかけて激増しているが、この激増は自然現象だけでは説明がつかない。PCR検査の激増が影響していると考えられる。
いまは「PCR検査の陽性者」を「感染者」とみなしているから、感染者(陽性者)数は検査数に左右される。その検査数が昨年夏から増え、とくに年末年始に激増した。
東京都を例にとると、昨年3~4月(第一波と呼ばれている時期)には一日の検査数が500件前後だったが、8月(第二波と呼ばれている時期)に5000件程度に増え、12月には1万件を超える日が目立つようになり、今年1月4日には1万6000件を超えた。
検査件数が増えた一つの理由は、PCR検査が昨年5月から公的保険で認められるようになったことだ。PCR検査1件にかかる試薬などのコストは8000円ほどだが(人件費を除く)、診療報酬は1万3500円。PCR検査は確実に利益の出るビジネスになり、検査を自ら手掛けるクリニックなどが増えた。
そのうえ年末近くになって、53歳の羽田雄一郎参院議員がコロナで死亡したと伝えられ、検査希望者が急増したと考えられる。
いずれにせよ、同じ「感染者数」でも最近の数値と昨年4月ごろの数値では意味が異なることに注意しなければならない。
「最初の緊急事態宣言が解除された昨年5月25日の東京の新規感染者はわずか8人だったが、今回はその時と比べて感染者数が格段に多い」(西浦博・京都大学大学院教授)といった指摘がよく聞かれるが、昨年5月ごろの感染者数と最近の感染者数を同じように扱うのは誤りだ。
感染の広がりをより正確に示しているのは「陽性率」(検査数に占める陽性者数の割合)だ。東京都の場合、昨年11月初旬には4%以下だったが、12月25日に8.1%になり、今年1月7日には14.4%に達した(いずれも発表日)。
その後、徐々に下がり、最近は3月5~11日の週が3.3%(一日平均の検査数は約7000件)、3月12~18日は3.5%(同約6700)となっている。
◆日本人は変異株にもある程度の免疫を持つ
気がかりなのは変異株(変異した新型コロナウイルス)の広がりだ。
英国・南アフリカ・ブラジルで確認された変異株のほか国内で確認されたものもあり、英国と南アフリカで確認されたものは感染力が従来のものより強いといわれる。
変異株は毒性が強くなったり、ワクチンが効かなくなったりすることがあるので、きちんとした分析結果が出るまで警戒は怠れない。
ただしウイルスは宿主(ヒトや他の生物)の中でしか生きられない存在であり、宿主を殺してしまうような強毒性のウイルスは広まりにくい。したがって時間が経つにつれ弱毒化していくのが普通だ。
日本人はよく風邪をひくが、風邪の原因の15%程度は4種のヒトコロナウイルス(ヒトに感染するコロナウイルス)だ。風邪を何度もひいているうちに日本人の多くはコロナウイルスに対する免疫を持つようになった(これが、日本人の人口当たりの感染者・死者が欧米諸国などより二けたも少ない理由の一つだ)。また新型コロナそのものに感染して免疫を持った人もいる。これらの人たちは新型コロナの変異株に対してもある程度の免疫は持っていると考えられる。
こうした事情を踏まえて川村名誉教授は、変異種の広がりによって感染者は多少増えることがあっても、流行の推移に大きな影響を与えることはないのではないかと予測している。
変異株はすでに国内で感染が広がりつつあり、いまさら水際作戦を強化しても意味がない。予防策も手洗いやマスクの着用といった基本的対策を続けるしかない。
◆人為的対策で撲滅は無理
緊急事態宣言は不要だったと考える第二の理由に話を進めよう。
弱毒性ウイルスはカビや雑草と同じように、ちょっとした隙を見つけて広がっていく。国境の完全封鎖や外出の完全禁止といった措置を取らないかぎり、人為的な対策で侵入を防いだり撲滅したりすることはできない。感染した場合、発症前でも他人にうつすことがあるし、ヒト→モノ→ヒトという経路での感染は感染者自身もわからないことが多い。
したがって人間ができることには限りがあり、基本的な予防法を実行するしかない。こまめに手洗いをする、不特定多数の人が触れたものは消毒する、必要なときはマスクを着用したり他人との距離を取ったりすることだ。
世界の国々では、外出自粛の要請のような緩やかな措置から、ロックダウン(都市封鎖)のような厳格な措置まで、さまざまな「社会的施策」が実施されているが、こうした社会的施策は流行の拡大速度(流行曲線でいえば上りの傾き)をいくらか抑えるだけで、流行の規模(流行曲線下の面積、つまり感染者総数)を小さくすることはできないことが経験的にわかっている。
安倍晋三前首相が昨年4月7日に出した最初の緊急事態宣言も、ピークを過ぎてからの発出であり、効果はほとんどなかった。
◆「会食」で感染はたった2%
今回の緊急事態宣言はどれほどの効果があったか。
藤井聡・京都大学大学院教授が、緊急事態宣言が出された「11都府県」と「それ以外の道県」で宣言発出後の感染者の減少ぶりを比較したところ、ほとんど違いがなかった。
今回は対策の的を飲食店に絞ったのも効果が出なかった理由の一つだ。「対策の肝は飲食にある」と政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らは力説したが、それが見当外れだったことは公表データから明らかだ。
東京都の場合、たとえば2月28日の感染者329人のうち、35%に当たる116人は「感染経路不明」。経路が判明している濃厚接触者では「施設内」が最多で126人、次いで「家庭内」が58人、「職場内」が12人で、「会食」はたった6人(2%)に過ぎなかった。
施設内での感染を防ぐなら、それにふさわしい方法があるはずで、住民全体に外出自粛を求めたり、飲食店に営業時間短縮を求めたりする必要はないはずだ。
◆医療逼迫は医療の世界で解決を
政府が緊急事態宣言を再発出した最大の理由は、一部の都府県での医療の逼迫だった。しかし、医療の逼迫は医療の世界で解決するべき問題で、解決への努力を尽くさないまま首相や知事が住民に我慢を求めるのは筋が違う。これが緊急事態宣言が不要と考える第三の理由だ。
日本は人口当たりのベッド数など医療施設が世界有数の国だ。その日本で医療が逼迫していたのは、新型コロナの医療が国公立病院など一部の医療機関に偏っているからであり、地域ごとに病院の役割分担を定め、病院間の連携を強化すれば逼迫は解消する。
とにかく感染者を減らさねばと躍起になっている小池百合子知事のおひざ元の東京都でも、たとえば墨田区は1月下旬に自宅待機者を解消し、以来ゼロを続けている。
墨田区は特段すぐれた医療環境にあるわけではない。西塚至・保健所長が主導して、①重症患者と中等症患者を受け入れる中核病院、②中等症患者を受け入れる病院、③感染の疑いのある人を診る中小病院と役割分担を明確にした。そのうえで回復期の患者は①から②や③へ素早く移す道筋もつけ、「地域完結型」の医療体制をつくりあげた(山岡淳一郎「自宅待機ゼロ 墨田区の独行」=『世界』4月号)。
◆前年より6%も落ち込んだ1月の消費
必要性がなく効果もほとんどない緊急事態宣言だが、被害は深刻だ。その一つが消費の大幅な落ち込みである。
総務省が3月9日に発表した1月の家計調査(2人以上の世帯)によると、一世帯当たりの消費支出は26万7760円で、物価変動を除く実質で前年同月より6.1%も落ち込んだ。昨年12月は前年同月比0.6%のマイナスだったから、緊急事態宣言の影響の大きさがわかる。
1月の支出で前年同月より9割以上落ち込んだのが、旅行支出と外食の飲酒だ。不要不急の外出自粛が求められ、飲食店が営業時間を短縮した影響である。
消費の落ち込みは飲食業などの経営を直撃し、そこで働く人たちの仕事を減らす。
東京商工リサーチによると、全国のコロナ関連の経営破綻(負債額1000万円以上)は3月11日時点で1124件。うち飲食業が最多の192件に上る。
野村総合研究所が2月に全国のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象にしたアンケートと、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、全国で実質的に失業状態にある非正規雇用者は女性が103万人、男性が43万人にもなった。
人々の生活も事業者の営業も追い詰められている。
◆「コロナに怯える」のをやめよう
以上のような結果をもたらしつつある緊急事態宣言だが、各種の世論調査によれば世論は圧倒的に支持している。テレビや新聞の報道によって「コロナは怖い」という意識が人々に根づいているからだろう。
しかし、新型コロナ感染症はそんなに怖い病気なのだろうか。
少なくない研究者や医師が新型コロナは風邪の一種だとの見解を明らかにしている。
「新型コロナは感染力の強い風邪ウイルス」(井上正康・大阪市立大学名誉教授)、「風邪のちょっと悪いヤツ」(大木隆生・東京慈恵会医科大学教授・診療部長)などだ。
国立感染症研究所のサイトには「ヒトに感染するコロナウイルスの報告件数(月別感染者数)」のグラフ(2015年~19年)が掲載されている。先述した4種のヒトコロナウイルスが原因の風邪の感染者の月別の推移を示したものだ。
「その流行曲線が新型コロナの流行曲線と似ている」と森田洋之医師(南日本ヘルスリサーチラボ代表)ら何人もの研究者・医師が指摘している。これも、新型コロナが旧来のコロナと同じ風邪ウイルスであることを示している。
日本を含む東アジアの国々の新型コロナの人口当たりの死者数が欧米諸国に比べて二けたも少ないことはよく知られている。 森田医師はその点も踏まえ、日本人は新型コロナに「強い」のだと述べている(「医療は英国のNHSを学べ」=『WiLL』4月号)。
もうコロナに怯えるのはやめよう。もっと冷静に新型コロナという病気を見つめ、どう対処すべきかを考えるときだ。
岡田幹治 (フリーライター)
菅義偉首相が1月7日に出した新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が3月21日、再延長されていた東京都など4都県でも解除された。
いま、「第3波」と呼ばれる流行の性質や宣言に基づく対策の効果を検証すると、延長・再延長はもとより宣言発出そのものが不必要だったことがわかる。宣言は新型コロナに関する無理解が生んだ大失政だったと筆者は考えている。
宣言はなぜ不必要だったのか。主な理由は、①「第3波」は季節が冬になったため起きた流行であり、住民の気の緩みが引き起こしたものではない、②飲食店の営業時間短縮を柱とする感染抑制対策はほとんど効果がなかった、③医療の逼迫は医療体制の整備で解決すべきものであり、感染者減らしで解決しようとするのは筋が違う――の三つだ。
◆冬に流行し春には終息する
新型コロナやインフルエンザなど「弱毒性ウイルスによる呼吸器感染症」は、晩秋から初冬にかけて流行が始まる。気温が下がってウイルスが活性を取り戻すからだ。
感染症の研究歴が長い川村孝・京都大学名誉教授によれば、流行が始まると新規感染者は増え続け、ピークに達すると、しばらく高原状態を続けた後、下落に転じる。新規感染者は多少の上下動をともなって減っていき、暖かくなる3月末か4月上旬までには終息する。
感染するのは免疫力が弱いなど「感染しやすい人」だ。一般に高齢者や持病のある人は免疫力が弱く、睡眠不足などで免疫力が一時的に下がる人もいる。
流行が終息してもウイルスが完全にいなくなるわけではない。その後も少数の感染者を出しながら生き残り、冬が近づくと再び流行が始まる。梅雨時や夏に小さな流行がある年もある(「新型コロナウイルス感染症の総括」2月24日など)。

昨年11月末以降の新規感染者数(PCR検査の陽性者数)の動きをグラフに示した。グラフの流行曲線は報告数(青線)と「7日間の移動平均」(日曜日から土曜日までの平均値を水曜日の値にする=赤線)の二通りが示されているが、曜日による変動をならした移動平均がわかりやすい。
グラフの感染者数は発表日に基づいている。感染から検査結果発表までに1週間以上かかるから。実際の感染日(推定感染日)はグラフより一週間以上前になる。
グラフによれば、新型コロナの感染者は昨年の年末から年初にかけて(感染日でいえば昨年12月下旬に)ピークに達し、高原状態が10日ほど続いて下降に転じ、以後、多少の上下動を伴いながら減少しつつある。
菅首相の緊急事態宣言は、流行のピークを過ぎてから発出されたことがわかる。
◆年末年始に激増したPCR検査
グラフによれば感染者数は昨年末から年始にかけて激増しているが、この激増は自然現象だけでは説明がつかない。PCR検査の激増が影響していると考えられる。
いまは「PCR検査の陽性者」を「感染者」とみなしているから、感染者(陽性者)数は検査数に左右される。その検査数が昨年夏から増え、とくに年末年始に激増した。
東京都を例にとると、昨年3~4月(第一波と呼ばれている時期)には一日の検査数が500件前後だったが、8月(第二波と呼ばれている時期)に5000件程度に増え、12月には1万件を超える日が目立つようになり、今年1月4日には1万6000件を超えた。
検査件数が増えた一つの理由は、PCR検査が昨年5月から公的保険で認められるようになったことだ。PCR検査1件にかかる試薬などのコストは8000円ほどだが(人件費を除く)、診療報酬は1万3500円。PCR検査は確実に利益の出るビジネスになり、検査を自ら手掛けるクリニックなどが増えた。
そのうえ年末近くになって、53歳の羽田雄一郎参院議員がコロナで死亡したと伝えられ、検査希望者が急増したと考えられる。
いずれにせよ、同じ「感染者数」でも最近の数値と昨年4月ごろの数値では意味が異なることに注意しなければならない。
「最初の緊急事態宣言が解除された昨年5月25日の東京の新規感染者はわずか8人だったが、今回はその時と比べて感染者数が格段に多い」(西浦博・京都大学大学院教授)といった指摘がよく聞かれるが、昨年5月ごろの感染者数と最近の感染者数を同じように扱うのは誤りだ。
感染の広がりをより正確に示しているのは「陽性率」(検査数に占める陽性者数の割合)だ。東京都の場合、昨年11月初旬には4%以下だったが、12月25日に8.1%になり、今年1月7日には14.4%に達した(いずれも発表日)。
その後、徐々に下がり、最近は3月5~11日の週が3.3%(一日平均の検査数は約7000件)、3月12~18日は3.5%(同約6700)となっている。
◆日本人は変異株にもある程度の免疫を持つ
気がかりなのは変異株(変異した新型コロナウイルス)の広がりだ。
英国・南アフリカ・ブラジルで確認された変異株のほか国内で確認されたものもあり、英国と南アフリカで確認されたものは感染力が従来のものより強いといわれる。
変異株は毒性が強くなったり、ワクチンが効かなくなったりすることがあるので、きちんとした分析結果が出るまで警戒は怠れない。
ただしウイルスは宿主(ヒトや他の生物)の中でしか生きられない存在であり、宿主を殺してしまうような強毒性のウイルスは広まりにくい。したがって時間が経つにつれ弱毒化していくのが普通だ。
日本人はよく風邪をひくが、風邪の原因の15%程度は4種のヒトコロナウイルス(ヒトに感染するコロナウイルス)だ。風邪を何度もひいているうちに日本人の多くはコロナウイルスに対する免疫を持つようになった(これが、日本人の人口当たりの感染者・死者が欧米諸国などより二けたも少ない理由の一つだ)。また新型コロナそのものに感染して免疫を持った人もいる。これらの人たちは新型コロナの変異株に対してもある程度の免疫は持っていると考えられる。
こうした事情を踏まえて川村名誉教授は、変異種の広がりによって感染者は多少増えることがあっても、流行の推移に大きな影響を与えることはないのではないかと予測している。
変異株はすでに国内で感染が広がりつつあり、いまさら水際作戦を強化しても意味がない。予防策も手洗いやマスクの着用といった基本的対策を続けるしかない。
◆人為的対策で撲滅は無理
緊急事態宣言は不要だったと考える第二の理由に話を進めよう。
弱毒性ウイルスはカビや雑草と同じように、ちょっとした隙を見つけて広がっていく。国境の完全封鎖や外出の完全禁止といった措置を取らないかぎり、人為的な対策で侵入を防いだり撲滅したりすることはできない。感染した場合、発症前でも他人にうつすことがあるし、ヒト→モノ→ヒトという経路での感染は感染者自身もわからないことが多い。
したがって人間ができることには限りがあり、基本的な予防法を実行するしかない。こまめに手洗いをする、不特定多数の人が触れたものは消毒する、必要なときはマスクを着用したり他人との距離を取ったりすることだ。
世界の国々では、外出自粛の要請のような緩やかな措置から、ロックダウン(都市封鎖)のような厳格な措置まで、さまざまな「社会的施策」が実施されているが、こうした社会的施策は流行の拡大速度(流行曲線でいえば上りの傾き)をいくらか抑えるだけで、流行の規模(流行曲線下の面積、つまり感染者総数)を小さくすることはできないことが経験的にわかっている。
安倍晋三前首相が昨年4月7日に出した最初の緊急事態宣言も、ピークを過ぎてからの発出であり、効果はほとんどなかった。
◆「会食」で感染はたった2%
今回の緊急事態宣言はどれほどの効果があったか。
藤井聡・京都大学大学院教授が、緊急事態宣言が出された「11都府県」と「それ以外の道県」で宣言発出後の感染者の減少ぶりを比較したところ、ほとんど違いがなかった。
今回は対策の的を飲食店に絞ったのも効果が出なかった理由の一つだ。「対策の肝は飲食にある」と政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らは力説したが、それが見当外れだったことは公表データから明らかだ。
東京都の場合、たとえば2月28日の感染者329人のうち、35%に当たる116人は「感染経路不明」。経路が判明している濃厚接触者では「施設内」が最多で126人、次いで「家庭内」が58人、「職場内」が12人で、「会食」はたった6人(2%)に過ぎなかった。
施設内での感染を防ぐなら、それにふさわしい方法があるはずで、住民全体に外出自粛を求めたり、飲食店に営業時間短縮を求めたりする必要はないはずだ。
◆医療逼迫は医療の世界で解決を
政府が緊急事態宣言を再発出した最大の理由は、一部の都府県での医療の逼迫だった。しかし、医療の逼迫は医療の世界で解決するべき問題で、解決への努力を尽くさないまま首相や知事が住民に我慢を求めるのは筋が違う。これが緊急事態宣言が不要と考える第三の理由だ。
日本は人口当たりのベッド数など医療施設が世界有数の国だ。その日本で医療が逼迫していたのは、新型コロナの医療が国公立病院など一部の医療機関に偏っているからであり、地域ごとに病院の役割分担を定め、病院間の連携を強化すれば逼迫は解消する。
とにかく感染者を減らさねばと躍起になっている小池百合子知事のおひざ元の東京都でも、たとえば墨田区は1月下旬に自宅待機者を解消し、以来ゼロを続けている。
墨田区は特段すぐれた医療環境にあるわけではない。西塚至・保健所長が主導して、①重症患者と中等症患者を受け入れる中核病院、②中等症患者を受け入れる病院、③感染の疑いのある人を診る中小病院と役割分担を明確にした。そのうえで回復期の患者は①から②や③へ素早く移す道筋もつけ、「地域完結型」の医療体制をつくりあげた(山岡淳一郎「自宅待機ゼロ 墨田区の独行」=『世界』4月号)。
◆前年より6%も落ち込んだ1月の消費
必要性がなく効果もほとんどない緊急事態宣言だが、被害は深刻だ。その一つが消費の大幅な落ち込みである。
総務省が3月9日に発表した1月の家計調査(2人以上の世帯)によると、一世帯当たりの消費支出は26万7760円で、物価変動を除く実質で前年同月より6.1%も落ち込んだ。昨年12月は前年同月比0.6%のマイナスだったから、緊急事態宣言の影響の大きさがわかる。
1月の支出で前年同月より9割以上落ち込んだのが、旅行支出と外食の飲酒だ。不要不急の外出自粛が求められ、飲食店が営業時間を短縮した影響である。
消費の落ち込みは飲食業などの経営を直撃し、そこで働く人たちの仕事を減らす。
東京商工リサーチによると、全国のコロナ関連の経営破綻(負債額1000万円以上)は3月11日時点で1124件。うち飲食業が最多の192件に上る。
野村総合研究所が2月に全国のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象にしたアンケートと、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、全国で実質的に失業状態にある非正規雇用者は女性が103万人、男性が43万人にもなった。
人々の生活も事業者の営業も追い詰められている。
◆「コロナに怯える」のをやめよう
以上のような結果をもたらしつつある緊急事態宣言だが、各種の世論調査によれば世論は圧倒的に支持している。テレビや新聞の報道によって「コロナは怖い」という意識が人々に根づいているからだろう。
しかし、新型コロナ感染症はそんなに怖い病気なのだろうか。
少なくない研究者や医師が新型コロナは風邪の一種だとの見解を明らかにしている。
「新型コロナは感染力の強い風邪ウイルス」(井上正康・大阪市立大学名誉教授)、「風邪のちょっと悪いヤツ」(大木隆生・東京慈恵会医科大学教授・診療部長)などだ。
国立感染症研究所のサイトには「ヒトに感染するコロナウイルスの報告件数(月別感染者数)」のグラフ(2015年~19年)が掲載されている。先述した4種のヒトコロナウイルスが原因の風邪の感染者の月別の推移を示したものだ。
「その流行曲線が新型コロナの流行曲線と似ている」と森田洋之医師(南日本ヘルスリサーチラボ代表)ら何人もの研究者・医師が指摘している。これも、新型コロナが旧来のコロナと同じ風邪ウイルスであることを示している。
日本を含む東アジアの国々の新型コロナの人口当たりの死者数が欧米諸国に比べて二けたも少ないことはよく知られている。 森田医師はその点も踏まえ、日本人は新型コロナに「強い」のだと述べている(「医療は英国のNHSを学べ」=『WiLL』4月号)。
もうコロナに怯えるのはやめよう。もっと冷静に新型コロナという病気を見つめ、どう対処すべきかを考えるときだ。
Comment
岡田さんのコロナ問題に関する見解には概ね賛成です。バランスの取れた、事実に基づく冷静な観察に同意します。『コロナパンデミックは、本当か?』の翻訳者・発行者として、日本の現状について同様の感想を持っています。このリベラル21には、多様な意見を吸収する度量があるようで、気に入っています。コロナによって様々なことの本質が露呈されていますが、中でも分裂・二分化の現象です。恐怖という感情が理性的判断を押さえつけてしまっている人々とそうではない人々、いわゆるリベラル勢力と言われる人々はほとんどが前者です。右寄りと言われる人たちの理性的判断の方に私個人は真っ当さを感じます。私自身ももともとリベラル左派と自認していますが、今回のことで、そうは言えなくなったような気がしています。右も左もそもそもどうでもよいことなのですが。その意味でも、このリベラル21というサイトの存在意義は十分にあると思います。ボードメンバーの方々の見識の高さ故でしょう。今後とも参考にさせていただきます。岡田さん、どしどし正統な論票をお願いします。
鄭基成 (URL)
2021/03/28 Sun 17:48 [ Edit ]
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