2021.04.17 ロシア・中国製ワクチンをめぐる中東欧諸国の政争

盛田常夫 (経済学者、在ハンガリー)

 中東欧諸国では、ロシア製ワクチンSputnik、中国Sinopharm製のワクチンが政争のテーマになっている。EUからのワクチン配分を待っていたのでは感染の拡大を防止できないと、EU内でいち早く「東のワクチン」を導入したハンガリー政府は、「すべてのワクチンは有効」というキャンペーンを張り、「東のワクチン接種」に反対するのは「左翼」で、人命を軽視していると野党の対応を批判している。
 お隣りのスロヴァキアではSputnikの輸入を独断で決めたマトヴィツ首相が解任され、経済大臣と役割交代するという政争が起きた。チェコでもやはり「東のワクチン」輸入をめぐる政争が続いているが、チェコは依然として、EU薬事局が承認したワクチンのみを使用するという指針を変えていない。オーストリアやドイツ・バイエルン州はロシアからのSputnikの輸入の検討に入った。
 ハンガリー政府は、野党の言う通りに「東のワクチン接種」を避けていたら、死者の数は増えていたと主張している。だから、野党=左翼は人命を軽視する政府批判を行っていると言うが、「東のワクチン」を使っていないスロヴァキアやチェコに比べて、「東のワクチン」を使っているハンガリーの死亡率がはるかに高いから、この議論は説得力がない。ハンガリー政府=オルバン政権の主張がイデオロギー的な色彩を帯びていることが分かる。ハンガリー政府は「ワクチン接種率(対人口比)がEU内でマルタに次いで2位、EU平均の倍」と声高に叫んでいるが、都合の悪いデータには口を噤(つぐ)んでいる。

不都合な事実
 4月11日、中国疾病対策予防センター(CCDC)所長の高福氏は、「Sinopharm製ワクチンの効率が低いこと」を公式に認めた。その反響が大きかったのか、すぐに訂正を行ったが、すでに高氏の発言は世界を駆け巡っている。ブラジルでの経験から、中国製ワクチンの効果が低いことは分かっていたが、中国の当局者がそれを認めたことが話題になっている。伝統的手法にもとづくワクチンだから、通常のインフルエンザ・ワクチン程度の効果しかないことにそれほどの驚きはない。mRNAベースのワクチンが90%を超える効率を持っているのに比べて50%は低いが、それでも「接種しないよりはまし」という議論は成立する。しかし、ハンガリー政府のように、「どのワクチンの効果も同じ」と主張するのは政治的なキャンペーンとみられても仕方がない。実際のところ、妊婦や高齢者にはファイザーとモデルナのワクチンに接種を限定している。
 中国製ワクチンの接種を断って死亡した野党の地方政治家を取り上げ、「それみたか」とばかりに野党=左翼批判を展開しているが、こういう事例は政治キャンペーンに使わない方が良い。

東方政策に傾くハンガリー政府=オルバン政権
 国民の命を大切にするための「東のワクチン」導入というが、この名目の裏で不透明な取引が展開されている。Sputnikの契約が国家間の契約だったのにたいし、Sinopharm製のワクチン輸入は政権に近い人物が所有する、しかも従業員が3名しかいない輸入業者(Danubia Pharma)を介在させたことが暴露されている。アベノマスクと類似した構図である。総額550億Ft(200億円)を超える取引だが、仲介業者からハンガリー政府への納入価格が他のワクチンに比べて2倍以上というのは、暴利を山分けする仕組みがあるからだと勘ぐられても仕方がない。
 中国からの人工呼吸器輸入にも、ワクチンと同程度の公金が使用されており、その取引の詳細は国家機密に指定されていて公開されていない。しかも、ハンガリーに輸入された中国製の人工呼吸器はきわめてシンプルな機器で、患者の容体に応じた制御調整ができない代物だとされている。人工呼吸器で診療を受けた患者の多くが死亡しているとも伝えられており、この機器の効率性も問題視されている。これにたいして、政府は公的メディア以外のメディアがコロナ病棟で取材することを禁止する措置を取った。政府は不都合なデータを公表していない。
 確かなことは、ワクチンや人工呼吸器の輸入で暴利を得たグループがいることだ。これは基本的に、ハンガリー政府が2013年から2016年まで販売した「定住権付き国債」と同様の、国家資金の背任が疑われる取引である。不透明な国債販売の主な対象国が中国で、中国向けの国債販売を担当した仲介会社(ケイマン諸島に登記。実際の所有者は不明)の手数料総額は250億円である。この奇妙な国債販売の詳細は国家機密に指定されていたが、最高裁判所で情報開示が命令された。このスキームには与党政治家が深く関わっているが、検察が動くことはない。政権政党は腐敗の情報が流れるごとに、「フェイクニュース」とレッテル貼りするだけで、腐敗に向き合うことはない。
 ハンガリー政府はソロス基金が出資した中欧大学(Central European University)を「ソロス大学」と攻撃し、アメリカの学位を得られる大学院課程をハンガリーから追い出した(ウィーンへ移転)。ソロスは「ハンガリー民族の敵」だとして、多国籍の教職員の下、多くの外国人学生が学び、国際的に高い評価を得ている大学院大学部分をハンガリーから追い出した。それに代えて、ハンガリー政府は昨年末、上海の復旦大学のキャンパスをブダペストに開く協定を締結した。プーチンや習近平に媚びを売り、エルドガン大統領との親近性を誇示するオルバン首相は、いったいハンガリーをどこに導こうとしているのだろうか。
 EU内での発言力を保持し、強化しようという意図だけではない。政商が暗躍する発展途上国とのビジネスは裏金を作りやすい。しかも裏金の桁が凄い。政権を蝕む一部の政治家や実業家が暗躍する舞台が揃っている。
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