2021.04.28 コロナと渋沢栄一
韓国通信NO667

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

 NHKの大河ドラマ『晴天を衝け』の主人公、渋沢栄一が脚光を浴びている。
 幕末から明治大正にかけて活躍した豪農出身の実業家。「日本の資本主義の父」、新1万円札の肖像に採用されることもあって視聴率も結構高い。
 先日旅行した福島県白河の南湖公園には、渋沢がこの公園を築造した松平定信を尊敬していた縁なのだろう、渋沢の肖像を染め抜いたノボリが立っていた。翌日に立ち寄った那須では、別荘開拓にかかわった渋沢をちゃっかりと観光ポスターに取り込んでいた。彼が設立・育成した企業は500にのぼる。他に多くの教育・社会事業に関わったので全国各地で渋沢ブームが起きているのかも知れない。
 私が住む町でも6月に渋沢栄一をテーマに文化講演会が開かれる。
 朝鮮銀行の創設に関わった渋沢は日韓併合前に使用された第一銀行券に登場していた。左写真(紙幣には日銀券と交換可能と記されている)。
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 わが国の紙幣に登場した伊藤博文、福沢諭吉が朝鮮侵略との関係を指摘されるなか、貨幣発行権を握った第一銀行の頭取だった渋沢が福沢諭吉からバトンタッチして新一万円札に採用されることに韓国の人たちは反発する。
 「資本主義の父」と、もてはやされる渋沢は、琉球処分、日韓併合、日清戦争、日露戦争とともに歩んだ。彼が企業に道徳を、教育に人間性を説いたとしても虚しい。混乱と退廃の極みにあるわが国の惨状を見ればわかるだろう。そこへ新型コロナが襲った。果たしてドラマから学ぶものがあるのだろうか。
 「息ができなくて死にそうだ」。警官に殺されたジョージ・フロイドの叫びが日本中から聞こえてきそうだ。食事もなく、住む家もなく、仕事のない人々を前に大河ドラマは何を語ろうとするのか。コロナ対策に「命と経済のバランス」をとぬけぬけと言い放つ政治家に迎合してNHKは資本主義の夢を国民に見続けさせようとするのか。

<資本主義は地球を滅ぼす>
 21世紀の政治と経済の仕組みに正面から挑戦した斎藤幸平著「人新世の『資本論』」に勇気をもらった。共産主義の失敗、資本主義の一人勝ちが喧伝されてから久しい。マルクスも資本論も時代遅れと言われるなか、トマ・ピケティの『21世紀の資本論』が注目され、所得格差を資本論から読み解き話題になったのは記憶に新しい。斎藤は一歩進めて、地球環境と経済と政治の刷新を説く。利潤追求を至上とする資本主義が地球を滅亡させようとしている。経済成長を求める限り気候変動は止まらない。環境問題に対する世界の潮流、国連のSDGsの欺瞞性をマルクスの経済理論と哲学から論じた前半は説得力に溢れる。
 資本主義は先進国だけの問題ではない。グローバル・サウス(南)の資源と労働への視点が重要だという。国際連帯の視点である。資本主義は深刻な貧富の格差を生み、収奪される国に貧困をもたらした。ロシアや中国も経済成長を追い求める点で変わりはない。
 脱成長は人類の進歩に逆行するどころか、持続可能で公正な社会づくりを目指す。経済成長信仰に染まった人間には衝撃的である。
 人類に共通する目標は、信頼と相互扶助を基礎とした世界市民の下からの活動と、国家を巻き込むことによって実現される。決して夢物語、理想論ではない。手遅れになる前に世界市民が連帯を求めて一人ひとりが立ち上がること、小さな実践の積み重ねが不可欠だ。
 著者は世界が経済成長神話から抜けだすことに希望を託し、地球村を脱成長のコミュニズムに変えることを提唱する。<写真/表紙カバー集英社新書定価1020円+税>
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 やや難解な用語のため読むのに苦労したが、論旨は明快。
 人のいのちと経済成長を天秤にかける政治がはびこるわが国で、脱成長を主張するのは困難に見えるが、ひるんではいられない。新型コロナウイルスは破壊された環境、生態学的帝国主義から生まれた。スウェーデンのグレタ・トゥンベリの言葉を私たち大人は胸に刻みたい。資本主義と経済成長が根本から問われる時期に、NHKが渋沢栄一を登場させた目的と狙いは何だったのか。

<メディアが日本を亡ぼす>
 最近のメディアには一方的な報道が多すぎる。事実を知らせるのは基本だが、検証と公平さが必要だ。特に北朝鮮と韓国と中国関連とコロナ報道は要注意。
 「徴用工問題」「従軍慰安婦問題」「尖閣」の政府発表は視聴者に敵対感情を吹き込むだけだ。政府は「すべて解決済み」、「主権免除」、「固有の領土」を主張するが、あまりにも一方的だ。外交交渉もせず異常な対立状態が続く。聞きようによっては戦争も辞さない姿勢に映る。政府の主張に問題点はないのか。「主権免除」は国際常識であり、韓国の判決は非常識なのか。嫌韓、反中の潮流の中でメディアの果たす役割は大きい。メディアは冷静であるべきだ。

 話を振り出しに戻そう。日朝修好条規(1876)という不平等条約締結の2年後に釜山支店を開設した第一銀行は朝鮮内に次々に支店を開設して金融面での植民地化を進めた。第一銀行を引き継いだのが韓国銀行、後の朝鮮銀行だ。渋沢は植民地銀行の頭取就任を希望するほど朝鮮支配に深く関わった。その人物を紙幣の象徴でもある1万円札に起用する非常識さ、日本人の歴史認識があらためて問われはしないか心配だ。
 先ごろ発表された世界の報道自由ランキングは1位下げて67位だった。自由な議論もタブーとなった観もある。私たちは暗闇の時代に住んでいるようだ。

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