2021.05.18 「ラッセル・アインシュタイン宣言」を新訳
日本パグウォッシュ会議が66年ぶりに

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 今から66年前の1955年7月9日に発表された「ラッセル・アインシュタイン宣言」の新訳が5月3日に日本パグウオッシュ会議から発表された。
 この宣言は、ビキニ被災事件をきっかけに生まれた。1954年3月1日に太平洋のビキニ環礁で行われた米国の水爆実験で、付近で操業中だった静岡県焼津港所属のまぐろ漁船・第五福竜丸の乗組員23人と、周辺の島々の住民が実験で生じた「死の灰」を浴び、急性放射能症になった事件である。乗組員の久保山愛吉山さんが死亡し、水爆実験による初めての犠牲者となった。
 この事件は全世界に衝撃を与えたが、人類の前途に危機感を抱いた哲学者バートランド・ラッセル(英国)、物理学者のアルバート・アインシュタイン(米国)、ジョリオ・キューリー(フランス)、湯川秀樹ら世界的に著名な11人が連名で、核戦争による人類絶滅の危機を警告し、戦争回避の必要性を訴えた宣言を発表した。これが「ラッセル・アインシュタイン宣言」である。
 この宣言を契機に、それまで政治的活動に無縁であった科学者の間で核軍縮をめざす動きが活発となり、1957年7月には世界の科学者がカナダのパグウオッシュに集まり、世界平和の実現のために努力することを明らかにした「パグウォッシュ会議を」発足させた。当時対立していた米ソ両国の科学者がこれに参加した。日本の科学者も参加し、以後、「日本パグウォッシュ会議」として核兵器廃絶・平和実現のために活動している。

21世紀で通用するような翻訳に
 日本パグウォッシュ会議は、今回の宣言新訳にあたって、次のような「新和訳主旨」を発表している。
 「『ラッセル・アインシュタイン宣言』は、戦争と核兵器の廃絶をヒューマニティの立場から訴え、世界の科学者の集うパグウォッシュ会議(1995年ノーベル平和賞受賞)発足の契機にもなりました。66年を経た現在においても核兵器は無くなっておらず、人類の生存を脅かすさまざまなリスクも現れている状況下、ラッセル・アインシュタイン宣言は新しい役割を果たすのではないか。このような考えの下、日本パグウォッシュ会議ではラッセル・アインシュタイン宣言を見直し、新たな和訳を公開することといたしました」
 同会議翻訳ワーキンググループの1人は「宣言見直しの狙いは、宣言をもっと読みやすくし、そして、21世紀で通用するような翻訳を、ということにあった」と語る。
 「新和訳主旨」にも「人類の生存を脅かすさまざまなリスクも現れている状況下」とあるように、世界はこのところ、核保有国の米露中による新たな核軍拡競争が始まっているところから、日本パグウォッシュ会議としては、世界は今こそ改めてラッセル・アインシュタイン宣言の精神に立ち戻るべきだと訴えたい、ということだろう。

紛争問題の解決のためには平和的な手段を
 ところで、ラッセル・アインシュタイン宣言を読んでいつも心引かれるのは、宣言の最後の部分である。いわば、宣言の核ともいえる部分で、宣言を発表した著名人11人の訴えがそこに集約されているように私は思ってきた。そうした思いは、新訳でも変わらない。で、新訳の最後の部分を紹介する。
 「私たちは、将来起こり得るいかなる世界戦争においても核兵器は必ず使用されるであろうという事実、そして、そのような兵器が人類の存続を脅かしているという事実に鑑み、世界の諸政府に対し、世界戦争によっては自分たちの目的を遂げることはできないと認識し、それを公に認めることを強く要請する。また、それゆえに私たちは、世界の諸政府に対し、彼らの間のあらゆる紛争問題の解決のために平和的な手段を見いだすことを強く要請する」

 ラッセル・アインシュタイン宣言の新訳は、ネットで「新和訳 ラッセル・アインシュタイン宣言」と検索すれば全文を読むことができる。

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