2021.05.19 赤土に苦しむ大坂なおみ、サーヴが弱い錦織(テニス)
久保(建)、香川、富安(サッカー)らは?  世界の日本選手たちあれこれ
                      
盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)

 マドリッドオープン2回戦(ベスト32)で、大坂なおみは難敵ムホヴァ(チェコ)に敗れた。2回戦でランキング20位のムホヴァと対戦するのは厳しいと思っていたが、赤土コートでの大坂の現状を知るうえで貴重なゲームになった。
 テニスに長い伝統のあるチェコの選手は大柄でサーヴが良い。サーヴ・アンド・ヴォレーに強いクヴィトヴァ(182cm、ランキング12位)、186㎝の長身でサーヴにもストロークにも威力のあるプリシュコヴァ(カロリナ・プリシュコヴァ、ランキング9位。なお、クリスティーナ・プリシュコヴァは双子の姉で左利き。ランキング87位)に次ぐチェコ選手が、ムホヴァである。一見して大きく見えないが、180cmの長身である。クヴィトヴァやプリシュコヴァに比べてパワーで見劣りするが、脚力やストローク力は2人より上である。今年の全豪オープンではランキング1位のバーティを破り、準決勝に進出した。油断できない相手である。
 チェコの選手はクレーコート上がりだからストロークに強い。それに加え、ムホヴァは左右のフットワークが良く、コートカヴァレッジが広い。大坂とほぼ同じ体格だが、この試合ではムホヴァの動きが大坂のそれを上回っていた。第2セット途中から、大坂の攻撃的なストロークが決まりだして、試合を振り出しに戻したが、後が続かなかった。ハードコートではストロークエースになるボールがことごとく返ってきた。こういう展開になると、赤土では脚力がある方に分がある。しかも、大坂は第1セットと第2セットのサーヴィスゲームをひとつずつ落とし、第3セットでは2つのサーヴィスゲームを落とした。サーヴで相手を崩し、ストロークで優位に立つという大坂の戦い方を貫くことができなかった。それにたいして、ムホヴァはサーヴも好調で、大坂の強烈ストロークを拾いまくった。この違いが試合を決した。大坂もこの結果を受け入れているはずだ。
 このトーナメントでもう1~2試合戦って、赤土に慣れたかった大坂だが、早期の敗退になった。けっして悪い出来ではなかったが、赤土のコートでの戦い方や弱点を知る上では良い経験になった。サーヴが悪くても、ストローク力で戦えるようにするためには、ムホヴァほどの脚力を持つことが必要だろう。ムホヴァから学ぶことも多かったはずだ。

土居美咲に見る日本の女子選手
 大坂と1回戦で戦った土居美咲は、2015年のルクセンブルグオープンでWTAツアー初優勝を飾り、2016年のウィンブルドンではベスト16まで勝ち進み、一時は世界ランキング30位前後まで上げたが、現在は80前後に低迷している。159cmと小柄だが、テニスはサーヴもストロークも、ラケットを大きく振り切る、力感のあるプレーを特徴とする。対大坂戦では土居の思い切りの良いプレーが光った。もう少し体に恵まれ、パワーがあれば、ランキング20位前後まで行けた選手である。
 大坂選手を除き、ほとんどの日本の女子プロ選手は160cm前後の小柄な体格である。現在のパワーテニスの世界で、小柄な選手はどうしても力負けしてしまう。ラケットを振り切る力が弱く、当てるだけのテニスになってしまう。その中で、土居美咲は力負けしないテニスを展開してきたが、それでもフィズィカルな弱さは否定できない。
 アメリカで育ち、日本国籍を取得して青山修子とダブルスを組む柴原瑛菜は175cmと大柄で有望株だが、シングルスでは予選を突破して本選にたどり着けない。ダブルスでコンビを組む青山修子は154cmである。この二人のデコボココンビがマイアミオープンで見事に優勝し、今年だけでツアー4勝目を飾った。今のところ、ダブルスの方が勝ち進める可能性が大きい。
 今の女子テニス界には180cmを超える大型選手が数多くいる。それに伍して戦うにはフィズィカルな強さがなければ叶わない。ただ、ランキングトップにいるバーティやランキング3位のハレップは170cmに満たない体格で、決して大柄ではない。にもかかわらず、力負けしないフィズィカルな強さがある。日本の女子選手は彼女たちのトレーニングや戦い方を学ぶべきだろう。

錦織圭の現状
 2014年、2015年と連覇を果たしたバルセロナオープンで、錦織は3回戦まで勝ち上がり、ナダルと対戦した。ビッグスリーと錦織との距離を測る興味深い対戦だった。
 第1セットは6-0のベーグルで相手にならなかった。第2セットから、往年のストローク力が冴えて、左右に深いボールが次々と入るようになり、ナダルを慌てさせた。ストロークが崩れず、第2セットを6-2で取る健闘となった。第3セットの最初のゲームでナダルからサーヴィスゲームを奪えるチャンスがあったが取り切れず、以後はずるずると後退して負けてしまった。第2セットがなければ、ぼろ負けというところだったが、何とか元チャンピオンのプライドだけは守られた試合になった。
 セットを取り切った第2セットだが、目を疑ったのは錦織のサーヴスピードである。ファーストサーヴのほとんどが160km/h台で、150km/h台のファーストサーヴィスもあった。セカンドサーヴは例外なく130km/h台だった。スピード計測器の故障かと思ったが、ナダルのサーヴスピードは180~190km/hと表示されていたから故障ではない。女子の中堅選手並みの遅いサーヴで今の男子テニス界を生き抜くのは不可能である。今の錦織は非力さを非凡なテニス感覚と技量で何とか凌いでいる。
 錦織のサーヴに対して、ナダルはエンドラインから3mも後方に構えてストローク戦に備えていたので、緩いセカンドサーヴでも叩かれる場面はなかった。なぜ、ナダルがそれほど後方に位置取りしたのか分からない。強烈なサーヴをもつ若手相手なら理解できるが、女子選手並みのサーヴにたいして、これほどまで後方に構えた理由が分からない。
 錦織は1、2回戦とも、南米のクレー巧者相手に勝利を収めたが、2試合とも2時間40分の長い試合だった。それもこれも、サーヴィスゲームをキープするのに苦労しているからである。サーヴが弱いために、簡単にゲームを取り切ることができない。ブレイクポイントを切り返すのに四苦八苦している。1回戦の対ペラ戦では16本のブレイクポイントを握られ、2回戦の対ガリン戦では13本のブレイクポイントを握られた。これが試合時間を長くしている。
 ナダルとの試合後、錦織は「どこが悪いのか分からない」というような感想を述べている。本人はサーヴ力の弱さを致命的なことだとは考えていないようだ。球速の遅いクレーコートではサーヴ力の格差は縮まるが、それでもサーヴ力がなければゲームを作るのに苦労する。コーチも錦織に遠慮して、サーヴ力の向上を強力に助言し、トレーニング指針を与えてこなかった。それがビッグツリーとの差につながった。

日本人選手のフィズィカル問題
 テニスに限らず、海外で活躍する日本人プロスポーツ選手が共通に抱えているのが、欧米人との体格差である。大リーグで活躍する大谷翔平選手は例外的な事例である。大谷選手ほどの体格とパワー、スピードがあれば、どんなスポーツの世界でも世界のトップ水準に立つことができる。
 今、男子テニス界では大谷選手並みの体格の選手が続出している。一人や二人ではなく、少なくともビッグスリーと戦える大型でスピードのある若手選手が10名はいる。皆、パワーだけではない。190cm前後の長身であるにもかかわらず、動きが俊敏で、ストローク力がある。これまでの大型テニス選手と言えば、2m10cm前後のカルロヴィッチ、イスナー、オペルカが代表的で、体が大きい分だけ動きが鈍い。ところが、最近の大型選手はみなパワーがあり、俊敏でストローク力がある。ビッグスリーと対等に戦える力を持っている。このなかで、非力な錦織選手や西岡選手が上位のランクを狙うのはほとんど不可能に近い。よほどの脚力やフィズィカルな強さがなければ、大谷選手並みの大型選手と互角に渡り合うことなどできない。稀に見る才能を持った錦織選手でも、今のフィズィカルの弱さでは、もう上位のランキングを望むことはできない。
 これを考えると、サッカーの久保建英を心配しないわけにはいかない。非凡な足技をもっているが、レアルマドリードのレンタル先で活躍の場が与えられない。ペナルティエリア付近での動きやボール捌きは一流なのだが、ペナルティエリアにいたるまでのドリブルスピードやドュエル(相手選手との対人防御力)が不安視されるから、なかなか先発で使ってもらえない。
 レアルマドリードに加入した頃の1部チームとの練習で、久保の技術が高く評価され、いずれレアルマドリードを担う人材だと評価されたが、ここ1年は評価が下がり続けている。トレーニングのミニマッチはペナルティエリア近辺を使う練習だから、久保の技術は活きる。しかし、試合はサッカーコート全面を使うゲームだから、ペナルティエリアに至るまでの動きが重要だ。あと身長が5cmほど伸び、体重で10kgほど増量してフィズィカルが強化されれば、評価も変わるだろうが、事はそう簡単ではない。
 この久保の状況に関連して思い出されるのが、同じような体格の香川真司である。2010-2011年、2011-2012年のドルトムンドのリーグ二連覇に貢献した香川の名前は、今でも中欧のサッカーファンの中では忘れられていない。前線を組んだレバンドフスキーがバイエルンミュンヘンへ移籍して、世界的なストライカーになったのにたいし、香川はギリシアのチームでくすんでいる。信じられないことだ。それもこれも、プレミアリーグへの移籍で成果を上げられなかったことが躓きの石となった。香川を招聘したマンチェスターユナイティッドのファーガソン監督が1年で引退したことが致命的だった。後釜に座ったモィーズ監督はサイド攻撃一本やりで、中央を主戦場とする香川を生かすことがなかった。他方、香川はプレミアリーグのフィズィカルコンタクトに対抗できるように、ウェイトトレーニングで上半身を鍛えた。上半身が一回り逞しくなった香川だが、その分持ち前の俊敏さが失われた。これで香川の良さが消えた。
 香川の事例があるので、久保がウェイトトレーニングで体を鍛え、ドュエル力を付ければ良くなるとは言い切れない。それより、サイドアタッカーとしてのスピードを上げることが優先されると思われる。久保の足は遅いとは言えないが、速いとも言えない。久保世代の若い選手がレアルマドリードやバルセロナでスタメン出場しているが、皆、縦のスピードが速い選手である。ゲンク(ベルギー1部)の伊東純也ほどのスピードがあれば、レアルマドリードでもヴィニシウスのようにスタメンで使ってもらえるはずだが、もう一つのプラスアルファが足りない。そこがレンタル先の監督の信頼を得られないところだ。
 久保選手の来期の所属先だが、そろそろレアルマドリードに拘るのを止めた方が良い。レンタルを続けるより、久保に合う戦術を持っているチームへ移り、そこで活躍の場を見つけるのが成功への道のような気がする。
 日本人選手でも富安健洋(ボローニア)のように、フィズィカルに強い大型選手が欧州で活躍しているが、非凡な才能をもった久保建英にはプラスアルファを付けて、活躍できるチームを見つけてほしいものだ。
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