2008.11.15
オバマ政権は中東政策をチェンジできるか
親イスラエルの米世論の中で
バラク・オバマ氏が米大統領選挙で圧勝したことを、イスラエルを除く世界中の国々が歓迎した。オバマ次期政権が悪評高いブッシュ政権の政策を変えてくれるだろうと期待したからである。ただしイスラエルの有力紙イディオト・アハロノトは、イラン大統領との対話を主張するオバマ氏の登場に危惧の念を表明した。一貫してイスラエル贔屓の姿勢をとり続けてきた米国の中東政策が変わるとしたら大変だからだ。しかし投票日から2日後、オバマ氏がラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)下院議員(48)を次期大統領首席補佐官に指名したとたん、イスラエルには安堵の空気が流れ、メディアは「われわれの仲間がホワイトハウスに」と一斉に報じたという。
エマニュエル氏はイスラエルから移民したユダヤ系の家庭に生まれたシカゴの政治家で、クリントン政権時代にホワイトハウスのスタッフを勤めた後、2002年から下院議員に連続4回当選、今では下院民主党ナンバー4の地位にある実力者。同じシカゴを地盤として04年上院に初当選したオバマ氏と親しく、ホワイトハウスの“事務総長”とも言うべき首席補佐官として、オバマ政権を取り仕切るわけだ。エマニュエル氏は1990年の湾岸戦争時に、イラクからミサイル攻撃を受けたイスラエルの軍事基地に飛んで、市民ボランティア活動をした経験があり、イスラエルを同胞視している人物という。
旧フセイン政権下のイラクはイスラエルにとって最大の脅威だったから、フセイン政権征伐のためにイラクに侵攻したブッシュ大統領はイスラエルにとっては最大の恩人である。オバマ氏は米上院で当初からイラク戦争に反対し、それを売り物にブッシュ大統領を批判して大統領選挙を勝ち抜いてきた。フセイン亡き後、イスラエルにとって最大の脅威となったイランを「悪の枢軸」と呼んだブッシュ大統領は頼りになる味方だが、「イスラエル抹殺」を叫んだというアハマディネジャド・イラン大統領と、前提条件なして対話することを排除しないというオバマ氏の登場は心配の種だった。
伊藤力司 (ジャーナリスト)
バラク・オバマ氏が米大統領選挙で圧勝したことを、イスラエルを除く世界中の国々が歓迎した。オバマ次期政権が悪評高いブッシュ政権の政策を変えてくれるだろうと期待したからである。ただしイスラエルの有力紙イディオト・アハロノトは、イラン大統領との対話を主張するオバマ氏の登場に危惧の念を表明した。一貫してイスラエル贔屓の姿勢をとり続けてきた米国の中東政策が変わるとしたら大変だからだ。しかし投票日から2日後、オバマ氏がラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)下院議員(48)を次期大統領首席補佐官に指名したとたん、イスラエルには安堵の空気が流れ、メディアは「われわれの仲間がホワイトハウスに」と一斉に報じたという。
エマニュエル氏はイスラエルから移民したユダヤ系の家庭に生まれたシカゴの政治家で、クリントン政権時代にホワイトハウスのスタッフを勤めた後、2002年から下院議員に連続4回当選、今では下院民主党ナンバー4の地位にある実力者。同じシカゴを地盤として04年上院に初当選したオバマ氏と親しく、ホワイトハウスの“事務総長”とも言うべき首席補佐官として、オバマ政権を取り仕切るわけだ。エマニュエル氏は1990年の湾岸戦争時に、イラクからミサイル攻撃を受けたイスラエルの軍事基地に飛んで、市民ボランティア活動をした経験があり、イスラエルを同胞視している人物という。
旧フセイン政権下のイラクはイスラエルにとって最大の脅威だったから、フセイン政権征伐のためにイラクに侵攻したブッシュ大統領はイスラエルにとっては最大の恩人である。オバマ氏は米上院で当初からイラク戦争に反対し、それを売り物にブッシュ大統領を批判して大統領選挙を勝ち抜いてきた。フセイン亡き後、イスラエルにとって最大の脅威となったイランを「悪の枢軸」と呼んだブッシュ大統領は頼りになる味方だが、「イスラエル抹殺」を叫んだというアハマディネジャド・イラン大統領と、前提条件なして対話することを排除しないというオバマ氏の登場は心配の種だった。
しかしエマニュエル氏の起用で明らかなように、オバマ氏は決して反イスラエル・反ユダヤではない。現代アメリカでは反ユダヤは正しくないとみなされ、親イスラエルが時代の風潮になっている。オバマ氏はユダヤ人に偏見を持たずに育った世代の人である。第2次世界大戦の前後、ナチスドイツの暴虐を逃れて多くのユダヤ人が欧州から米国に渡ってきた。その中からヘンリー・キッシンジャー(元国務長官)、ジョージ・ソロス(著名投資家)、マドレーヌ・オルブライト(元国務長官)氏ら、後年名を成した人々も含め、移民当初のユダヤ人は貧しく差別されていた。
しかしアメリカ社会のユダヤ人差別はせいぜい1950年代までで、それ以後はユダヤ人差別は自由の国アメリカの恥として排斥されるようになった。19世紀に欧州から移民してきたユダヤ人が金融界で名を挙げたのに続き、20世紀に移民してきたユダヤ人は刻苦勉励して学者、医者、弁護士、実業家、芸術家、ジャーナリスト等々、社会的に尊敬される地位を得て差別を克服した。さらにユダヤ人差別はヒトラーの暴虐に通じるとして、著名ユダヤ人が差別を糾弾する闘いを続けたことも大きい。
1970年代の共和党ニクソン大統領に登用されて、脱ベトナム・米ソデタント・米中接近のニクソン戦略に国務長官として腕を奮ったキッシンジャー博士。80年代のレーガン(共和党)政権では国務省、国防総省の次官補クラスに多くのユダヤ人学者が登用されたが、オルブライト国務長官が活躍した90年代の民主党クリントン政権に次いで、ブッシュ政権ではネオコンと呼ばれた、ほとんどがユダヤ系学者から成るneo-conservative(新保守派)の人々が要職に着き「単独行動主義」「先制攻撃論」のブッシュ・ドクトリンを理論化し、実践した。
さてオバマ氏は上院議員の“初仕事”としてイラク戦争に反対して注目された。ブッシュ政権は、イラクのフセイン政権が核兵器など大量破壊兵器を開発しているとか、国際テロ組織アルカイダとリンクしているとか、あれこれのウソをついてまでイラク侵攻を実行したことをいち早くとがめたのである。イラク戦況がその後泥沼化してゆく中でオバマ氏の「先見の明」が光ることになり、やがて予備選を通じて民主党大統領候補指名を獲得、最終的には大統領当選を果たす長い戦いの糸口になったのだった。選挙戦の過程でオバマ氏は大統領就任後16カ月(つまり2010年5月)までに米戦闘部隊をイラクから撤退させると公約した。これには「イラク勝利の日まで戦う」と言うブッシュ大統領、マケイン共和党大統領候補は反対したが、アメリカ選挙民は結果としてオバマ氏の撤退計画を是認した。イスラエルが心配するところである。
オバマ氏はイラクから撤兵して米軍戦力に余裕が出たら、アフガニスタンに増兵することを宣言している。「9・11テロ」の首謀者ウサマ・ビンラディンらアルカイダを掃滅する戦いこそアメリカのなすべき反テロ戦争であって、アルカイダをかくまうタリバンの復活を許すことはできないというわけだ。つまり反テロ戦争の主戦場はイラクではなくアフガニスタンであるという立場を鮮明にし、タリバンやアルカイダがパキスタン領の「部族地域」を聖域として逃げ込むなら、米軍がパキスタン領に攻め込むことも当然だと主張するのだ。
アフガニスタンとの国境付近に広がるパシュトゥン人居住区を、パキスタンが「部族地域」(tribal area)として事実上の治外法権にしているのは、1947年まで現在のパキスタンを含む英領インド帝国を支配していた英国の植民地支配の残滓である。現在のアフガン・パキスタン国境は、英植民地当局が19世紀末パシュトゥン人居住区のど真ん中に勝手に引いたラインである。パシュトゥン人は昔も今も、このラインを越えて自由に行き来している。パシュトゥン人主体のタリバン兵士が、アフガン領からパキスタン領に越境して「部族地域」を聖域と利用しているのはけしからんと言ってみても、それは米国の理屈であってタリバン(パシュトゥン人)の理屈ではない。
2001年秋以来、ブッシュ政権の圧力で米軍と同盟せざるを得なくなったパキスタン軍は、北西辺境州の未開発地帯に広がる「部族地域」を根拠地とするゲリラ勢力、つまりタリバン兵士とアルカイダ残存兵と戦わざるを得なくなった。しかしペシャワールを中心都市とする北西辺境州はもともとパシュトゥン人のホームカントリーであり、アフガニスタンの東部・南部の広大な土地もパシュトゥン人の故郷である。タリバンと戦うパキスタン国軍には当然パシュトゥン人兵士がいるし、「部族地帯」には国軍の支配下にパシュトゥン人自衛武装団もいて、結局はパシュトゥン人の同士討ちとなる。そのためだろう。作戦が開始されて暫くすると停戦協定の話が出てくる。停戦の間にタリバンはまた勢力を回復する。
こうした繰り返しに業を煮やした米軍が無人偵察機でタリバン根拠地を爆撃すると、往々にして結婚式に集まった人々など民間人多数を殺傷するケースが起きる。その結果国境の両側で反米感情が募り、それがタリバン兵士をかくまう部族的感情を強める結果になる。最近では、米軍特殊部隊がアフガン領からパキスタン領に越境してタリバン討伐を行ったところ、パキスタン政府・国軍が「主権侵害」と激しく抗議、今後も米軍が越境作戦をすればパキスタン軍は米軍攻撃を辞さないとまで主張した。
オバマ氏がこのようなアフガン戦争の実態をどこまで把握しているかどうか。ともかく世論調査では、米軍戦闘部隊をイラクから撤退させアフガニスタンを増援するというオバマ氏の方針に米国民の60%が支持を表明した。米軍のイラク、アフガン作戦を統括するマレン米統合参謀本部議長、ペトレアス米中央軍司令官はブッシュ大統領に任命された米軍トップだが、制度上任期まではオバマ政権下でも職務を続ける。ペトレアス司令官(陸軍大将)は10月まで在イラク米軍司令官を務め、スンニ派との対話を通じて同派武装勢力をアルカイダとの同盟関係から離脱させることに成功し、テロを大幅に沈静させた功労者である。マレン統合参謀本部議長はペトレアス将軍の対スンニ派政治的作戦を評価、その一方で自らパキスタン軍首脳部と話し合いを重ねるなど、政治センスのある提督(海軍大将)のようである。
この両司令官はイラクでの経験から軍事一本槍ではなく、アフガニスタンでも政治的作戦を加味した方針を展開する可能性がある。つまり米軍当局が、最近注目されているカルザイ・アフガン政権とタリバンとの政治的交渉を見守り、場合によっては政治的妥協によるアフガン解決を排除しない柔軟性を期待されているからだ。アフガニスタンで今年はイラク以上の戦死者を出した米軍を始め、NATO諸国から派遣されたISAF(国際治安支援部隊)は、タリバンに対する軍事的勝利の希望を失いつつあるようだ。米軍に次ぐ兵力8000人をアフガンに派遣している英国の駐アフガニスタン大使は「治安は悪化し、アフガン政府は信頼をすべて失った。米軍の存在は解決に役立つどころか問題をこじらせている」という本音を漏らしていた。ドイツ、フランスでも自国兵の犠牲者が出る度に、アフガンからの撤兵を求める投書が殺到するという。
このようなアフガニスタンの現状は、オバマ氏の期待を裏切る方向にある。パキスタンに米地上軍を投入してタリバンを掃討し、アルカイダをつかまえるというオバマ氏の方針は、(その実現性は別として)ブッシュ大統領、マケイン候補より「タカ派」的だった。これはオバマ氏のアドバイザーを務めるテロ専門家R・クラーク氏の影響と言われる。クラーク氏はブッシュ政権第1期にテロ対策の大統領特別補佐官を務め「フセインよりアルカイダに焦点を絞るべきだ」と主張してイラク戦争に反対したが、ネオコンに敗れて辞任した人物。オバマ氏がホワイトハウス入りした後、アフガン政策でクラーク氏と制服トップ組のどちらの意見を採用するか。
オバマ氏は一方で「イラン指導者(アハマドネジャド大統領)と前提条件なしで、交渉のテーブルに着く用意がある」と述べ、ブッシュ大統領やマケイン候補との違いを浮き彫りにした。しかし他方では、イランが核兵器を持つことはおろか「イラン国内でウラン濃縮を行うこと」すら許さないとの立場を明確にしている。この点ではブッシュ政権と全く変わらない。アハマドネジャド大統領はオバマ氏当選に祝意を表明し、オバマ氏との対話に期待をのぞかせたが、果たしてオバマ・アハマドネジャド会談は実現するだろうか。イラン政策に関するオバマ氏のアドバイザーは、クリントン政権の中東特使だったデニス・ロス氏だが、ロス氏は筋金入りの「親イスラエル・反イラン派」である。同氏がアドバイザーでいる限り、オバマ氏がイランと和解することはないとみられている。
地中海からインド洋に至る中東、中央アジア、南アジアの広大な地域はイスラム地域であるが、この地域の混沌がオバマ外交にとって最大の問題である。その核心はイスラエル・パレスチナ紛争の解決、つまり中東和平である。イスラエル建国による中東紛争の発端以来60年、歴代の米大統領はそれぞれ中東和平に取り組んできたが、いずれも実現できなかった。ブッシュ大統領も自分の任期中に中東和平を実現すると宣言してみせたが、誰も信用しなかった。ライス国務長官の奔走にもかかわらず、和平は全く進展しないままブッシュ政権の任期切れは迫っている。
客観的に見て、イスラエルに占領地返還の国連安保理決議を受諾させることができるのは米国しかない。しかし歴代の米政権は、決議受諾に向けてイスラエルに圧力をかけることをしなかった。最終的にはアメリカの世論がイスラエル擁護に傾いているからである。例えば米国では、イランがウラン濃縮を進めていることは核兵器開発につながる大問題として騒がれている。一方イスラエルが秘密裏に核開発を進め、既に200発程度の核兵器を保有していることは専門家の常識となっているが、イスラエル批判の声は全く聞かれない。
今年の6月4日ワシントンで開かれた、親イスラエルの有力ロビー組織「米イスラエル公共政策委員会(AIPAC)」の総会に出席したオバマ氏は「わたしはイスラエルの友人だ。イスラエルと米国の絆は断ち切ることのできないものであり、一心同体だ」と演説して大喝采を浴びた。オバマ氏はこの時点でヒラリー・クリントン氏との指名争いに勝っていたのだが、本格化する大統領選を前にイスラエル支持色の強い世論を充分意識した発言だったろう。この演説の内容からすれば、オバマ政権がこれまでのイスラエル擁護を軸とするアメリカの基本路線をチェンジするとは考えにくい。
しかしアメリカ社会のユダヤ人差別はせいぜい1950年代までで、それ以後はユダヤ人差別は自由の国アメリカの恥として排斥されるようになった。19世紀に欧州から移民してきたユダヤ人が金融界で名を挙げたのに続き、20世紀に移民してきたユダヤ人は刻苦勉励して学者、医者、弁護士、実業家、芸術家、ジャーナリスト等々、社会的に尊敬される地位を得て差別を克服した。さらにユダヤ人差別はヒトラーの暴虐に通じるとして、著名ユダヤ人が差別を糾弾する闘いを続けたことも大きい。
1970年代の共和党ニクソン大統領に登用されて、脱ベトナム・米ソデタント・米中接近のニクソン戦略に国務長官として腕を奮ったキッシンジャー博士。80年代のレーガン(共和党)政権では国務省、国防総省の次官補クラスに多くのユダヤ人学者が登用されたが、オルブライト国務長官が活躍した90年代の民主党クリントン政権に次いで、ブッシュ政権ではネオコンと呼ばれた、ほとんどがユダヤ系学者から成るneo-conservative(新保守派)の人々が要職に着き「単独行動主義」「先制攻撃論」のブッシュ・ドクトリンを理論化し、実践した。
さてオバマ氏は上院議員の“初仕事”としてイラク戦争に反対して注目された。ブッシュ政権は、イラクのフセイン政権が核兵器など大量破壊兵器を開発しているとか、国際テロ組織アルカイダとリンクしているとか、あれこれのウソをついてまでイラク侵攻を実行したことをいち早くとがめたのである。イラク戦況がその後泥沼化してゆく中でオバマ氏の「先見の明」が光ることになり、やがて予備選を通じて民主党大統領候補指名を獲得、最終的には大統領当選を果たす長い戦いの糸口になったのだった。選挙戦の過程でオバマ氏は大統領就任後16カ月(つまり2010年5月)までに米戦闘部隊をイラクから撤退させると公約した。これには「イラク勝利の日まで戦う」と言うブッシュ大統領、マケイン共和党大統領候補は反対したが、アメリカ選挙民は結果としてオバマ氏の撤退計画を是認した。イスラエルが心配するところである。
オバマ氏はイラクから撤兵して米軍戦力に余裕が出たら、アフガニスタンに増兵することを宣言している。「9・11テロ」の首謀者ウサマ・ビンラディンらアルカイダを掃滅する戦いこそアメリカのなすべき反テロ戦争であって、アルカイダをかくまうタリバンの復活を許すことはできないというわけだ。つまり反テロ戦争の主戦場はイラクではなくアフガニスタンであるという立場を鮮明にし、タリバンやアルカイダがパキスタン領の「部族地域」を聖域として逃げ込むなら、米軍がパキスタン領に攻め込むことも当然だと主張するのだ。
アフガニスタンとの国境付近に広がるパシュトゥン人居住区を、パキスタンが「部族地域」(tribal area)として事実上の治外法権にしているのは、1947年まで現在のパキスタンを含む英領インド帝国を支配していた英国の植民地支配の残滓である。現在のアフガン・パキスタン国境は、英植民地当局が19世紀末パシュトゥン人居住区のど真ん中に勝手に引いたラインである。パシュトゥン人は昔も今も、このラインを越えて自由に行き来している。パシュトゥン人主体のタリバン兵士が、アフガン領からパキスタン領に越境して「部族地域」を聖域と利用しているのはけしからんと言ってみても、それは米国の理屈であってタリバン(パシュトゥン人)の理屈ではない。
2001年秋以来、ブッシュ政権の圧力で米軍と同盟せざるを得なくなったパキスタン軍は、北西辺境州の未開発地帯に広がる「部族地域」を根拠地とするゲリラ勢力、つまりタリバン兵士とアルカイダ残存兵と戦わざるを得なくなった。しかしペシャワールを中心都市とする北西辺境州はもともとパシュトゥン人のホームカントリーであり、アフガニスタンの東部・南部の広大な土地もパシュトゥン人の故郷である。タリバンと戦うパキスタン国軍には当然パシュトゥン人兵士がいるし、「部族地帯」には国軍の支配下にパシュトゥン人自衛武装団もいて、結局はパシュトゥン人の同士討ちとなる。そのためだろう。作戦が開始されて暫くすると停戦協定の話が出てくる。停戦の間にタリバンはまた勢力を回復する。
こうした繰り返しに業を煮やした米軍が無人偵察機でタリバン根拠地を爆撃すると、往々にして結婚式に集まった人々など民間人多数を殺傷するケースが起きる。その結果国境の両側で反米感情が募り、それがタリバン兵士をかくまう部族的感情を強める結果になる。最近では、米軍特殊部隊がアフガン領からパキスタン領に越境してタリバン討伐を行ったところ、パキスタン政府・国軍が「主権侵害」と激しく抗議、今後も米軍が越境作戦をすればパキスタン軍は米軍攻撃を辞さないとまで主張した。
オバマ氏がこのようなアフガン戦争の実態をどこまで把握しているかどうか。ともかく世論調査では、米軍戦闘部隊をイラクから撤退させアフガニスタンを増援するというオバマ氏の方針に米国民の60%が支持を表明した。米軍のイラク、アフガン作戦を統括するマレン米統合参謀本部議長、ペトレアス米中央軍司令官はブッシュ大統領に任命された米軍トップだが、制度上任期まではオバマ政権下でも職務を続ける。ペトレアス司令官(陸軍大将)は10月まで在イラク米軍司令官を務め、スンニ派との対話を通じて同派武装勢力をアルカイダとの同盟関係から離脱させることに成功し、テロを大幅に沈静させた功労者である。マレン統合参謀本部議長はペトレアス将軍の対スンニ派政治的作戦を評価、その一方で自らパキスタン軍首脳部と話し合いを重ねるなど、政治センスのある提督(海軍大将)のようである。
この両司令官はイラクでの経験から軍事一本槍ではなく、アフガニスタンでも政治的作戦を加味した方針を展開する可能性がある。つまり米軍当局が、最近注目されているカルザイ・アフガン政権とタリバンとの政治的交渉を見守り、場合によっては政治的妥協によるアフガン解決を排除しない柔軟性を期待されているからだ。アフガニスタンで今年はイラク以上の戦死者を出した米軍を始め、NATO諸国から派遣されたISAF(国際治安支援部隊)は、タリバンに対する軍事的勝利の希望を失いつつあるようだ。米軍に次ぐ兵力8000人をアフガンに派遣している英国の駐アフガニスタン大使は「治安は悪化し、アフガン政府は信頼をすべて失った。米軍の存在は解決に役立つどころか問題をこじらせている」という本音を漏らしていた。ドイツ、フランスでも自国兵の犠牲者が出る度に、アフガンからの撤兵を求める投書が殺到するという。
このようなアフガニスタンの現状は、オバマ氏の期待を裏切る方向にある。パキスタンに米地上軍を投入してタリバンを掃討し、アルカイダをつかまえるというオバマ氏の方針は、(その実現性は別として)ブッシュ大統領、マケイン候補より「タカ派」的だった。これはオバマ氏のアドバイザーを務めるテロ専門家R・クラーク氏の影響と言われる。クラーク氏はブッシュ政権第1期にテロ対策の大統領特別補佐官を務め「フセインよりアルカイダに焦点を絞るべきだ」と主張してイラク戦争に反対したが、ネオコンに敗れて辞任した人物。オバマ氏がホワイトハウス入りした後、アフガン政策でクラーク氏と制服トップ組のどちらの意見を採用するか。
オバマ氏は一方で「イラン指導者(アハマドネジャド大統領)と前提条件なしで、交渉のテーブルに着く用意がある」と述べ、ブッシュ大統領やマケイン候補との違いを浮き彫りにした。しかし他方では、イランが核兵器を持つことはおろか「イラン国内でウラン濃縮を行うこと」すら許さないとの立場を明確にしている。この点ではブッシュ政権と全く変わらない。アハマドネジャド大統領はオバマ氏当選に祝意を表明し、オバマ氏との対話に期待をのぞかせたが、果たしてオバマ・アハマドネジャド会談は実現するだろうか。イラン政策に関するオバマ氏のアドバイザーは、クリントン政権の中東特使だったデニス・ロス氏だが、ロス氏は筋金入りの「親イスラエル・反イラン派」である。同氏がアドバイザーでいる限り、オバマ氏がイランと和解することはないとみられている。
地中海からインド洋に至る中東、中央アジア、南アジアの広大な地域はイスラム地域であるが、この地域の混沌がオバマ外交にとって最大の問題である。その核心はイスラエル・パレスチナ紛争の解決、つまり中東和平である。イスラエル建国による中東紛争の発端以来60年、歴代の米大統領はそれぞれ中東和平に取り組んできたが、いずれも実現できなかった。ブッシュ大統領も自分の任期中に中東和平を実現すると宣言してみせたが、誰も信用しなかった。ライス国務長官の奔走にもかかわらず、和平は全く進展しないままブッシュ政権の任期切れは迫っている。
客観的に見て、イスラエルに占領地返還の国連安保理決議を受諾させることができるのは米国しかない。しかし歴代の米政権は、決議受諾に向けてイスラエルに圧力をかけることをしなかった。最終的にはアメリカの世論がイスラエル擁護に傾いているからである。例えば米国では、イランがウラン濃縮を進めていることは核兵器開発につながる大問題として騒がれている。一方イスラエルが秘密裏に核開発を進め、既に200発程度の核兵器を保有していることは専門家の常識となっているが、イスラエル批判の声は全く聞かれない。
今年の6月4日ワシントンで開かれた、親イスラエルの有力ロビー組織「米イスラエル公共政策委員会(AIPAC)」の総会に出席したオバマ氏は「わたしはイスラエルの友人だ。イスラエルと米国の絆は断ち切ることのできないものであり、一心同体だ」と演説して大喝采を浴びた。オバマ氏はこの時点でヒラリー・クリントン氏との指名争いに勝っていたのだが、本格化する大統領選を前にイスラエル支持色の強い世論を充分意識した発言だったろう。この演説の内容からすれば、オバマ政権がこれまでのイスラエル擁護を軸とするアメリカの基本路線をチェンジするとは考えにくい。
Comment
オバマとイスラエルの関係、というか、アメリカとイスラエルの関係、興味深く読ませていただきました。ヒットラーを代表するユダヤ人差別の歴史は知っていますが、それだからこそ今のイスラエルのパレスチナに対するやり方はおかしいと思っています。当分変わりそうもないですね。
松林(護憲+) (URL)
2008/11/15 Sat 21:32 [ Edit ]
アメリカではオバマの母がスェーデン系のユダヤであるのは報道されないな。オバマが新イスラエルなのは理由がるのだ。黒人がアメリカ大統領になれるはずがない!なれたのはユダヤのロックフェラーの助けが存在したからだ。
早稲田の星 (URL)
2009/03/23 Mon 14:06 [ Edit ]
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